檻4 - 誤射
| 藤堂 京介
下出が言うオーリー内は、何というか、男臭い感じのものに溢れていた。
ダーツマシン、ビリヤード台、革のソファ、高そうな自転車。レンガの壁に金髪ねーちゃんのポスター。古タイヤ。大きめの銀色のテーブル。観葉植物、シーリングファン。アイランドキッチン。Pタイル。そして、土足。
まあ、お洒落なんだろう。よくわからないけど。
「ここで俺たちは良く遊んでいるのさ」
「なんでこいつらをここに入れなきゃいけないんだ、クソッ」
索敵でもわかっていたが、ここに上田はいない。呻いている中田を革のソファに寝かした下出は完全に余裕を取り戻していた。
葛川はまだわかっていないようだったが、二人ともホームのせいか、随分と落ち着いていた。
「上田くんは?」
「…さあ、ここには居ないね。スマホも使えないから、学校も来てないしわからないんだよ」
「なら、まあ後で良いか。……朋花」
「……加藤メグミ、あんたら覚えてんでしょ? 私の大事な大切な、友達」
朋花は先程ぶちのめしたせいか、気負いなく二人に話した。そうそう。それで良いんだよ。
「誰だ? シモ……シモ?」
「そうか…そういう事か。ならこれは復讐か」
葛川は本当に覚えていないようだ。下出は無駄だと悟ったのか、それともまだ策があるのか、言い訳をしなかった。
「いや、復讐ではないよ」
「……何? はは。ああ、藤堂くんもそういうのに興味あるの? 仕方ないなあ。本当は大学までは出来ないんだけど、特別だよ」
「京ピ?……藤堂くん?」
「いや、ただのリフレクト、君たちはこれから彼女たちとずっと同じ目に合い続けるだけだよ」
そう、彼女たちと同じように、ね。
「それはどういう…」
「は! 何をイキってやがる! この部屋に入った事、後悔しやがれ! 愛香は俺のもんだ! 朋花、その後はテメェだ!」
葛川は下出と違い、最初から取り繕うこともせずに、ついには立て掛けてあったゴルフクラブを振り下ろしてきた。まあ、薬物の依存、だろうなあ。これは。
僕は風の魔法を左手に宿し、ゴルフクラブを半分に断ち切った。
「ああ……そういうの通じないんだ。あと、この部屋の下から片付けてくるから待ってて」
「ンだと! 斬れて? 何をし─────」
「下!? 藤堂くん! すまない。クズが勝手に動いて。こいつ昔から頭おかしくてさ。俺も大変だったんだよ。こ───────」
倒れたままの中田を含め、三人に拘束の魔法をかける。まあ、あと一人揃うまで、動けない恐怖に震えて待っててよ。
「朋花。上田くんは下だ。呼びに行くよ」
「は、はい!」
◆
| 上田 陽平
週の初めのたるい月曜日。いつものように楓を呼び出し、朝からハメ続けていた。ウィズ、まるで魔法のように気持ち良くなる錠剤を定量服用してハメる。もちろんこいつにも飲ませてある。
「う、う、あー」
でもこいつな〜良い身体なんだけど、もうどれくらいだったっけか…飽きたな〜
「っち、こいつももう飽きたな」
「そう…だね」
あん? そういえば今日は丸っち、大人しいな。
丸川 淳志、SNSで知り合った、"檻"のサブメンバーだ。
俺とは気が合い、結構一緒にいる事が多い。
こいつは、普通で、なんかホッとする奴だ。
くっすん、シモ、ナカはな…ちょっと引く時あるしな〜
「どしたん、丸っち? 今日はずっと変じゃね? なんなん? "ウィズ"もキメないし、一回しか混ざらないし。変じゃね?」
今日はいつものオラつきがないな。こっちが多人数だとオラつく、言っちまえばただの小物。そういうところが気にいってる。
「…上ちゃん、ザラタン、って知ってるよね? そいつら、今日、変でさ…」
「丸っちの学校の? 田淵の? 変って?」
田淵んとこか。ザラタンは……何回か金を払ってここに来た奴も居たっけ。こっちはナカがいるし、あんましびびってない。つか、そいつもウィズ使えば一緒だろ。
「俺さ、いつも朝はさ、松葉杖の子を見たくてさ、学校行ってたんだよ」
「あー、なんかすごい良いって丸っち興奮してたよな〜鶴ヶ峰だっけ。何? もう攫う? 治ってからじゃなかった?」
なんか、前言ってたな。どえらい可愛いんだ! しかも折れてる! さらおう! なんて引く事言ってたな。最初から怯えてたら面白くねーだろ。やっぱこいつ小物だな。
「そっちじゃなくて、学校、だから今日も行ってさ。学校ってさ。ザラタンみたいにわかりやすいクズと、俺らみたいにわかりにくいクズがいるじゃん」
「ああ〜確かに。あと隠してるだけで本当はこっちだろてめえも! なんてヤツもいるねぇ」
うちの学校にも俺らと規模は違うが何人かバカがいる。シモは高校の間は男も女も新規はダメだと言っていた。けどやっぱりいろいろ調べないと気が済まないのか、きっちりリスト化していた。
「そうそう。…今日はその隠れてコソコソしてる奴らがさ、ザラタン達にさ、三年の機械から順に炙り出されててさ。ボコられてんの。しかも校門にも見張りまで立ててさ」
「機械? ああ、機械科ね。…何それ? 見た目クズが隠れクズをもぐら叩き? そーぞーしたらウケるんだけど。おらぁ! ちゃんとシコシコ動け!」
「う、う」
楓の締まりは最初に比べたら緩々になっていた。やっぱりイキがいいやつが良いなあ〜せめて頑張って締め付けろよ!グズが!
「でさ、ついに俺の教室にってタイミングでたまたま教師が間に入ってさ。その隙見て出てきたんだ。その時チラッと田淵見たんだけどさ」
「うん。お、お? いいぞ」
おあ、ケツを抓ったら締まり出した。そうだ、それで良い。やれば出来るじゃん。
「ヤバいの、田淵の顔が。逝ってる、っていうか」
「ん、へ、ぇ、え、あ、いい、いいぞ!」
今いいとこなんだから田淵のブサイク面の話すんなよ! こいつはそういうとこあるんだよ。空気読まねーつーか。読めねーつーか。楓のポテンシャルを引き出してんだ! 邪魔すんなよ!
「あ、そうそうそんな顔!」
こいつ!?
仕方ねーな! もうイキそうだからな!
後悔させてやる! 我慢しろ、我慢しろ、溜めて溜めて濃いいの顔にぶっかけてやる!
「丸、っち、田淵、と一緒、とか、酷く、ね、よし、丸っち、にぶっかけ、てやる!」
「うわ、それはやめて! "ウィズ"キメてる時ならともかく!」
「遠慮すんな、って、うらっ! いくぞ!」
はは! いい顔すんじゃん! オラッ! いくぞ! 受けとれ…
ガチャ───
「あん?」
あ、新規の男にぶっかけちまった。お、お、お、まだ出るな。ふ────っ、きんもちよかった──。まあ、この新規とも、仲良くなれんだろ。俺にぶっかけたら殺すけど。
◆
「京ピ! 京ピ! しっかり?!」
「………………」
こいつ、さっきから微動だにしねえ……なんだショックか?中出し10連発とかになったら他のヤツが出したとこに突っ込むんだし、何をそんなことで…つーか、京ピ? 誰だ?
「なんだあ? 朋花と…誰だ? 悪かったな、ぶっかけちまって。まあいいじゃん。一発だけなら誤射かもしんないってどっかのアホも言ってんだろ? んなわきゃねーっつの! アホかよ。だからごめんな? ギャハハハハ! んで、ここに居るってことはシモが許可したんだろ? てことは朋花が"ピーチ"か。いいじゃんいいじゃん」
つか、新規は止めてたんじゃねーのかよ。シモはすぐ相談なく変更したりする。まあいいけどよ〜。
「上ちゃん、上ちゃん、何何何〜このマブい子何なの! 次の"
「丸っち…現金なやつ、さっきのは何だったんだよ。…でも、確かに……朋花、何かした? 先週と全然違うじゃん、ツヤとかハリとか…それに、何か…エロいし」
空気読まねー丸っちはいい、そう、朋花だ! こいつ、何だ? 楓とタメ張るくらい可愛いかったっけ?
「触んなタコ! 触っていいのは京ピだけだし、京ピ! ね、大丈夫っ!? 大丈夫っ!! だっ、い、じょ……」
おお! 朋花のやつ、自信満々か! いいじゃんいいじゃん! こっから怯えさせんのが好きなんだよ! これはくっすん達みんな共通している興奮ポイントだ! ヤベっ、勃ってきた! 俺を勃たせやがって! クソ女が!!
「あ“? 朋花のくせに口答え? ちっとキレーになったからって調子に乗りやがって…あ''あ"っ!? そっちの…京ピ? もさ〜。朋花の何? 男? 教育なって無いんじゃね? 罰としてお前見てるだけな。NTRでいいじゃん。まあそれでお前にせきに……ん…ん?」
「は、ははははは、は、は────」
なんだこいつ…黒目が大きい…? 目が、血走るっつーか、白目が真っ赤に…? ヤベぇな。早く病院いけ。寝取ってやっとくから。あ、動画動画…カメラ、どこだっけ。丸っちに頼むか…
「…京、 と、藤堂くん? ね、ねえ、しっかりしてっ! 目が……」
カメラカメラあった……あん? 掴めない? 指? いだっ!
「えひ? いてぇぇ、え、…何で? 俺の指が…曲がって… あん? 藤堂…? んぐぇ! 喉を…掴む、んじゃ、ねぇ… かっは」
こいつ! いつの間に近くに! 人の首絞めてるんじゃねーぞ! オラァ! なんだ?! 当たらねー!? なんなんだこいつは! しかも藤堂ってあの藤堂か?! ぐ! 苦しい……!
「……こいつも薬物か。ヌルいダメージしか入んないとか──────最高かよ」
「…き、京、ピ? ……だ、大…丈夫?」
苦しい……! 薬物? ああ、これ幻覚か? あ"っ、髪に変えやがった?! くそが! 掴むんじゃねぇ! くそっ! 力が入んねぇ!
「ああっ!! 僕はっ! 大丈夫だよっ! 何にも大丈夫、何にもっ!! 大丈夫だからっ!!」
「ひっ! その目…見開きすぎて…全然大丈夫じゃな…」
そうだ! こいつ! の目が…ガチクソやべぇ…
「上ちゃん! どした! んべっ? ぅぎゃああああああ────俺の鼻があぁぁっ!」
「あ、君はシラフだったんだ。つい石投げちゃったよ。でもここ、防音なんでしょ。好きなだけ声出しなよ。何にも大丈夫だから! 僕も何にも!大丈夫だから! 力加減完璧だから! そうそう、さっき朋花が良いこと言った! そう! タコなんだよ!」
丸っちがいつの間にか鼻血を…石なんていつ投げた…ぎぃいあ"────いだい!いだい!
「んぎゃ!あぎゅっ!ぅぎゃ!ひぎゃ!ふぎゃ!」
「あの、その、ひっ! き、京ピ? その…」
「そう! タコになれば良いんだよ! だったら墨になる! 白は黒になるんだ!! 人族の骨の数、だいたい206本だからさ! 朋花、…ちょっと待っててよ。いち、に、さ…ん?ほら声出せよ、ん?声だよ、声?ん?ほら、ん?小さい小さい。ん?いつもの声はどしたどした?ん?大きな声、得意なんだろ?ん?ほら、数わかんなくなるだろう?
「いだっ!あぐ!がはっ!ひぃぐ!ぎゃ!」
何を言ってやがる?! 狂ってんのかっ! 本気でお前が藤堂だと! 先週ボコした時はこんなヤツじゃ! いだいいだいいだいいだい────────っ!!!
「そうそう。その調子、その調子。ん? 何だっけ? 朋花?」
「な、何でも無いです! 気のすむまでどうぞ!」
「あぎっ!がっ!ぴぎゃ!ぁぐぅ!んご!」
朋花ぁぁぁ! 何言ってやがるっ! 止めろ! 止めろや! あがっ! いだぁぁい──!
「ははははは。ほらほら声薄いよ〜まだ全然100いってないよ。あ、こら呻くな。数わかんなくなるだろ?
「お、思ってないです」
「? 変な朋花だなあ」
「………キャパい」
「うそは……」
「ついてないわ! やっちゃえKYOSUKE!」
「そう? ん?まだ声出るよね?ん?もっともっと出そうか?ん?骨の数?ん?だいたい二人で400だからさ?中側は違う方法があるからさ?安心して?ん?あ、それか二人で教え合う?そこ折れてるよ、あ、そこも!いやいやお前の方も、あはは、とか、ん?まだ出るよね?ん?まだまだ出るよね?ん?ん?ははははは──」
「いぎっ!うぐ!ひっ!ひぎぃ!ぎゃぴ!」
も、もうやめてくれ…いだいよぉいだいよぉ─!
「……いけいけ京ピ。……ごーごー京ピ」
ととと朋花! おおお前ぇ──! ももももうやめてくれぇぇ──!
「あぎゃ!俺の腕が!うごっ!あぎぃ!俺の足が〜んぶっ!おれにょの頬が!あひょ!おれにょのひじゃが、あぁっ!おれにょ〜指ぎゃ!また指ぎゃ〜!
「……あ、ほんとにタコみたいに…グニャグニャに……」
「ははははは──────長い骨は八分割ぅ! 小さな骨は半分にぃ!
「ひぎっ!ひぎゃ!ひぐぅ──────」
「いだい! こいつ、何なんだよ! 上ちゃん! こいつにナニしたんだよ! ぎゃあ!いだぁい!ぎゃっ────」
知らねーよぉ!! たかだか間違って顔面にぶっかけただけだろぉが!! 誤射だって言ってんだろぉぉぉ!! お前だってだれかれかまわずぶっかけてんだろぉがぁ────いだィィィ─────!!
「ははははは─────微に入りィ細に入りィィィィィ───ははははは────やがて白は真っ黒にィィィィィ─────」
「………あっ……全身が…タコみたいに紫色に……」
「ははははは────」
「いぐ!ぴぎっ!ひぐ!ぎゃ!─────」
「もぅ!ゆっ!あ"!るして─────」
「あははははは────」
おおおおお、おれの手がぁ、おれの足がぁ、おれの身体がぁ、ぐちゃぐちゃにィィィィィィ──────!
◆
| 藤堂 京介
「あの、き、京ピ? 落ち…着いた?」
「うん………」
「わ、わ〜、流石京ピ! す、すっごくイケてたし!」
「うん……」
「ん〜…何か…あ! ほら! おっきなおっぱいだよ〜お礼だよ〜こっちにおいで〜」
「うん……うん」
「!! ふふ、ほらほらパフパフだし。気持ち良いっしょ? ……愛香よりおっきいっしょ?」
「うん、うん…」
……僕は、朋花のおかげで立ち直りだした。
すると、最後に上田が要らない事を口にした。
「
僕はすかさず、もう一本、上田骨を撃ち砕いた。
誤射一発でも許すかボケェ。
何をヌルいことを……撃ったら戦争だろうが。
異世界のトラウマ抉りやがって。
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