10 / 100 | 和光エリカ


聖が京介を連れて部屋に行ったあと、数分経ってから、エリカは何やら機械を操作していた。


「…これでヨシ、ですわ」


「何してるんですか?」


「こちらの話ですわ。お気になさらず」



真弓の質問をさらっと流し、エリカは次の行動を考える。聖は願いを叶えるだろう。


アオハライドするだろう。


聖のいつも言うそれが一体どういう意味か、世間知らずのエリカにはわからなかったが、多分大丈夫だと確信していた。


なぜなら京介の目はあの日、誘拐されそうになったエリカを救ってくれた時と同じ眼差しだった。ならば次は私の番だと気合いを入れる。順序にはこだわらないが、他の女子をどうするか。そうエリカが思案していた時、絹子が注目を集める拍手をした。



「みんな、こっち見て」


「それは…」


「目が…いくな、自然に」


「黒とのコントラストで吸い寄せられますわね」



絹子は真っ黒エプロンの胸の部分のシールを剥がしてこちらを向いた。右胸だけだ。真っ黒なラバーエプロンに小さなピンクの蕾が咲いた。否が応でも目が引き寄せられてしまう。


「次はこっち」


「いたっ! 絹子さん、唐突に何しますの!」



説明もなく、エリカの左胸のシールを毟った。ラバーは粘りはあるが、急な力には弱い。それを考えて絹子は素早く毟り取ったのだ。友人の突然の行動にエリカは抗議した。


だが、そんなエリカの抗議には耳を貸さず、絹子は皆に問う。



「どう?」


「わ、わた、わたし、な、なんてことを…」


「花に埋もれてわからないな」 



真弓は自身が犯した間違いに気付き、震える手を口に当て、後悔を口にした。麻美は直感で正解を答えた。


綺麗な花々の中に、美しいはずのエリカの蕾

が埋もれていた。特に色白なエリカの肌と色素の薄いエリカのそれは近くに咲いた白い花と黄色い花弁が隠してしまっていた。



「そうですの? あら、確かに。これだとなかなかに難しいですわね」



エリカは大きな壁面鏡で確認する。確かに目がいかない。他の花々に気を取られてしまう。チラリと絹子を見た時、自然にそれに目線がいく。なるほど。とエリカは呟く。


そう、これこそが絹子の狙い、聞かされていたコンセプトであるフォーカスチラリの効果だったのだ。


エリカは花柄エプロンに埋もれている方がチラリズムなのでは?と思ったが、黙っておいた。


このいつも円卓の皆のために頑張ってくれる友人が、自身の計画を潰されたことで、こんなにも不機嫌になるなんて知らなかったのだ。


特に今日はマウントを聖とエリカに取ってくる。そしてまだ二手三手策は用意しているようだ。だからエリカは流れに身を任せてみた。


「そう、真弓は私のコンセプトを潰した」


「直ぐに、すぐに直し、直さないと…」


「いい。別プランでいく。みんな、落として」



絹子の残酷なまでの答えに、真弓はなんとか挽回したいと動揺しながらお直しを主張する、が、絹子はもう別の案を模索していたのだ。


頼りになるPである。


Pは結果を欲するならまずは全てのラバーを落とさないといけないのだと皆に言う。


絹子はまるでRPGの勇者パーティのように、縦一列にエプロン姿の女達を従え、颯爽と浴室に向かった。





エリカ、真弓、麻実の三人は浴室から上がり、充分に水気を拭き取っていた。絹子はまだラバーエプロンのままその様子を眺めていた。気分は監督である。蕾は既に格納していた。


ふと全員の耳に、リズムの良い、歌うような、泣いているような声が聞こえてくる。喜びの声だ。いや、たまにケモノみたいな濁声が混ざっている。



「これって」

「ああ」

「あれ、ですわね…」



三人とも頬を赤らめ現状を確認し合った。お姉さん立場の絹子だが、平静を装いながらもお股をモジモジしていた。



「少し覗きに」


「ダメ」



「……今混ざ」


「駄目ですわ。京介さんが指名したのです。せめて終わるまではいけませんわ…それより、そのなんですの? それは」



麻実の発言を絹子が止め、真弓の発言はエリカが止めた。こいつら、やっぱり振り切ってやがった。まずは聖が終わるまではダメ。エリカはそのまま絹子に質問した。絹子の手には包帯があったからだ。



「包帯」


「それはわかりますが…」



「次は、きわど女子」



ボディペイントだけでも未知だったのに、慣れ親しんだ包帯と聞いた事の無い単語の組み合わせにエリカはまたも混乱する。真弓も麻実も知らないようだ。





「これ、裸のほうが恥ずかしくないんですけど…」


「大事なところが丸見えというか…」


「大事なところだけ……隠さないのですわね」


「聖ちゃんが戦端を開いた。あとは乗るだけ、このビッグウェーブに」


絹子は自身満々に罪と罰3のリリースの準備をした。





| 藤堂 京介



聖と監禁室で事後の空気を楽しんでいた。


いや、監禁室じゃないか。

いや、手錠されてるしな。

じゃあ監禁室か。


いや、イメプか。


その手錠からアラームみたいな音が鳴りだした。何これ?


Pi、Pi、Pi、Pi……


「この音…」


「すっかり忘れてたわ」



何を?と聞こうとしたら、素早くひーちゃんは僕の両手のワイヤーの中に潜り込み、すっぽりと収まった。僕がひーちゃんの腰に抱きつき、ひーちゃんは僕の頭に抱きつく格好だ。ぶるんとした胸に挟まれ、息ができない。


「もが、ぷは、急にどうしたの?」

「ぅふっ、いいの。いいからこうしてて」



Pi────


その音とともに、今まで肩幅まで開いていた手錠のワイヤーが突然短くなり出した。



「きゃ、きゃー。もう、強引なのはダメなんだからー。ふふ。あーだめー」


「いや、あの、もがっ!ひーちゃん?」



もう既にあぶないエプロンはない。先程のロデオでちょっとずつ剥がしながら致してしまったからだった。ちなみにラバーによって肌が赤くなったところは回復狙い撃ちで癒していった。



その度にひーちゃんは濁声をあげていた。

最終的には全て剥がし、細かいのは洗浄の魔法で綺麗にしていた。


つまりなんと、聖は今全裸だった。



いや、それが普通か。


致すなら普通か。


今までが特殊だったのだ。絹Pの剛腕によって。


なんかだいたいそうじゃないといけない気になっていたな……。いやいや、男女で致す間に無駄なものはいらない。


15歳の僕はミニマリストなのだ。


尖ってるのだ。



その時、監禁室の扉が開いた。部屋を薄暗くしていたからか、逆光で四人の姿がまるで雌雄を決する覚悟を決めたヒーローのように見えた。



「聖ちゃん。時間」



絹Pはタイムアップを告げた。

光に慣れた僕の目に、思ってもみない格好が飛び込んできた。


また、特殊な格好を……


絹ちゃん以外はみんな大墳墓で見たミイラの魔物みたいになっていた。いや、顔と隠したいところは隠されていない、前衛的なミイラ姿だった。


「あ〜あ…。もう終わっちゃた…でも抜け出せないのー、あー、きゃ、きゃあー、きょんくんやめてー」


「聖さん!」

「聖ちゃん!」



エリカと絹ちゃんがひーちゃんのおふざけに待ったをかける。


…その茶番には是非とも付き合いたいが、少しの間、待っててくれ、姫。


すぐさまひーちゃんを傷つけないようにしながらワイヤーを魔法で断ち切り、ひーちゃんをお姫様抱っこしながらソファに運び降ろし、キスを落とす。


「え…ぁ。 んちゅ、ちゅぱっ……あっ」


ぽーっとしたひーちゃんの頬を撫で、笑顔を向ける。



覚悟には覚悟を。


尖ったミニマリストのこの僕にそんな格好で挑むとは………


まあ、アバンギャルドも………嫌いじゃない。


逝こうぜ、ベイベー


雌雄を決しようじゃないか。





「京介さぁん…」


「藤堂くぅん、しゅき…」


「藤堂くん…上書きありがとね…すごい」



最終的にはJK三人をミニマリストにしてしまったのだった。


ちなみに絹ちゃんは気付かれないように終始盗撮していた。僕の目は誤魔化せない。


これは……お仕置きだな。



「みんな、素敵な罰と対価をありがとう。さ、絹ちゃんはちょっとこっち来て包帯使おうね。喚いても……無駄だからね」



さっき覚えたアバンギャルドの良さ、教えてあげるよ。



「…………ごくり」



喉を鳴らした絹ちゃんは、すぐに姿勢をただし、祈るように両手を胸の中央に添えてから、胸の左右のシールを一斉に解放した。



「………… メガ、スマッシャー」



僕は状況が一言でわかる言葉を口にしていた。




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