雨の日曜日3

| 藤堂 京介



しとしとと雨はなお降り続いている。僕は納品を待っていた。おかしら(仮)は素直になってくれた。僕と一緒に丁寧に壁に花を添える。いや男だからシミか。


ふむ。


…なんか全然華やかじゃないな。思ってたのと違うというか。組体操みたいに人数増やしたらそれだけで盛り上がるんじゃないかと思ってたけど…



やっぱ僕には無理だわー





ラストオーダーは五人だった。


呼び出したおかしら(仮)を随分となじっている。おかしら(仮)曰く、このあたりでは幅を利かせている有名な先輩五人組、だそうだ。


全員ガタイもよく、声もデカい。服の上からわかるくらい鍛えている。まあ見せ筋か。暴力に相当の自信があるのだろう。


何せ頼んでないのにデュエルを申し込んできたのだから。


いいとこ神殿騎士訓練生成り立て、レベル1くらいかな。


なんだやっぱ宝箱薬草じゃん。




二人沈めた時だった。


索敵で知っていたが、先程のファミレス店員の友達二人が覗いていた。多分僕を心配してついてきたのだろう。そこに残った三人が一斉に駆け出し、一瞬で捕まえてしまった。どうやら来る時に把握していたようだ。



「んー、んー、」


「んーーっ、んーっ」


口を塞ぎ、女の子の関節を痛めない拘束。慣れた動作だった。こいつら常習か…



「ハハっ。おまえ、すげぇな。鹿島と小野を瞬殺か。感心したぜ」


「おっと、動くなよ、こいつらの骨折るぞ」


「正義のヒーローなんだろ?」



いや、勇者なんだけど。


それよりも、これは………多分、人救いクエストだ。





人救いクエスト。


悲しみを救うと新たな悲しみに出会い、その悲しみを救うとまた違う悲しみに出会す。


まるで某ペディアで調べている時のように、終わりの見えないクエストに突き進む僕に、ある日クロィエに、人救いはいい加減にして!と叫びながら呆れられた。そこから通称"人救い"と呼ばれ出した。


かつて商人見習いの知識から、損切りを考えての事だろう。キミの望みは先に進むことだろ!とか、ボクの損が許せないだけだから!とか、よく言っていたな。


結局はブーブー言いながらも、最後まで付き合ってくれたっけ。優しい女の子だった。





人質か。どこの世界も変わらないんだな。少しだけ空を仰ぐ。あ、高架下だった。格好つかないな。


その動作の最中にポケットの中の石に魔力を渡しておく。だいたい予想してたし一応拾っておいた。


勇者に人質は効く。あっちではそう噂され、実際、僕のせいで死んだ子もいた…



だから、僕は躊躇ためらわない。



大丈夫。君達は助かる。決して慢心ではなく、事実だ。そう心に言い聞かせ、女の子たちの瞳を見る。随分と不安と後悔に揺れている。安心させるように微笑む。


その瞳に映る不安と後悔を糧にして、僕の魔法は思い通りに答えてくれる。


ましてや向こうと違い、本当に殺せないだろう。それはこちらにも言えることだけど、大丈夫。安心して。



リバーシの黒も、台ごと裏返せばだいたい白になるし。




「………」


「なになに、返事がないただのしかばねのようだ、的な………?」




「ゆるしてください…」


「あ、そうだ。今まで不幸にしてきた人は?」



「………」


「そう。ならこの中で犯罪行為していた人は?」



「………」


「そう。じゃあ、君の家にみんなで行こうか。車でしょ。いいよね。車。竜車なんて乗り物として終わってたよ。あ、ごめんごめん。こっちの話。さて、全部正直に話して真っ白な真っ新になりたいよね……?」


「…なりたい、です…がっ!」



「うそは…よくないね。…なんで一人残したと思う?良い人もね、悪い人たちと一緒で伝播するからさ。リバーシみたいに。だからここにいる人たちが悪いことしたら……君が止めてくれるよね? さあ行こう。今日は忙しいよ!」



リバーシわかりやすいからいいわー




そうして、最後に残したおかしら(新)とおかしら(仮)にお願いし、のびている盗賊団の介抱を任せた。


車を用意させ、ガタイの良いやつら四人を黒のワンボックスに放り込む。一応、逃げられないように車に魔法で干渉しておく。


おかしら(仮)にはこの付近に立ち寄ったらまた相手してね。死ぬとか外傷とかそういうのないから。そこは心配しないでいいからね。見かけたら積極的に声かけるね。と伝えておく。


小刻みに振動しながら白になると約束してくれた。その振動で黒を剥がしているんだろう。うんうん。


これが科学か。


でも…おかしら(仮)だけ白でもダメだよって言ったら、壁に並べていた黒シミ達を錯乱しながら殴り出した。


仲間との大事なコミュニケーションなんだろう。うんうん。


これが熱血指導ってやつか。


それに、あっちより全然可愛くてほっこりするな。全然安心出来る。もしかしてヒャッハー世界じゃないのかも!希望が見えてきた。


何せ殴られたら人が空飛ぶからな。そして生きてるし、また殴りかかってくるし。



こうして、ここら一帯に平和は訪れたのだった。





その間、助けた金髪の子と黒髪の子は立ち止まったまま無言だった。一応は背中側に庇っていたけど、怖がらせたかな。


そういえば、こっちではどういう反応されるんだろ。勇者の肩書きないし。普通に考えて……いや、普通がわからないな。じゃあ一般的に考えて……いや、一般もわからないな。アレフガルドの普通と一般なんて殺伐としてたからなあ。



これが異世界間格差か…



まあ、流れにまかそう。アレフガルドには申し訳ないが、まだ僕は現代に帰ってきたばかりの文明未開人だ。というか君たちも帰ってて良かったのに。あ、待っててくれてたのか。律儀だなぁ。声かけしとこうか。



「もう大丈夫だからね」


「はい…」


「あ、あの!ありがとうございました!ボク、動けなくて!人質になんて…」



「ううん、無事でよかったよ。気にしないで。僕はちょっとクエスト…じゃなくて、この辺で君たちが怯えなくてもいいように話つけてくるから。君たちは一度ファミレスに戻ったほうが良いんじゃないかな?多分あの店員さんも心配してるだろうし。じゃあね」



早巻でごめんね。一日しかないからさ。


僕はプチプチは余さず潰すタイプなんだ。



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