山神神社2
| 藤堂 京介
参拝し、手持ち無沙汰になった僕は社務所の手前、木陰にあるベンチに腰掛けた。ここからは街が一望できる。
図書館、スポーツセンター、ボーリング場、市営プール、ゴルフ場、釣鐘橋、小学校、中学校、天養駅、商店街のアーケード、そして時計塔…全てが何も変わってないように見える。
高台から見える街を眺めながら、日差しを遮る木陰の中、そんな事を思いながらボーっとしていた。真っ青な空の奥に、高さのある入道雲がある。夏かぁ。
平和だな…
異世界に居たなんて嘘みたいだ。
改めて思い返してみる。
というか帰ってきてからさっきまでそんな事考えてる余裕なかったよ。
異世界ではハプニングのオンパレードだったけど、まさかこっちもなんて思わなかった。
クロィエにはまるでハプニングの大商会だね、いい加減にしようね、いい加減わかろうね、なんて言われたものだった。はは。
……万人の救い手たる勇者…か。
─────では、勇者である京介をいったい誰が救うのだ?
マリーに言われたことがあった。
僕の救いは元の世界に帰ることだよ。なんて言ったら、マリーは苦虫を噛み潰したような顔だったな。
…でもそう思わなければ強くなれなかった。
そうだ。
召喚当時は愛香のことも未羽のこともあって諦めから悲壮に暮れていた。ただただ逃げ出したかった。
だから召喚された。
召喚された世界は日本よりずっと暴力的だった。心が折れていた僕には堪らず、日に日に陰鬱な気持ちが増していった。
自分に嘘をついたままでは強くなることは出来ず、このままだと勇者にはなれない。召喚者たる聖女は言った。逃げるのではなく、帰るために力を振るうのです。と。
その後は聖女の献身によって徐々に力をつけていったんだった。
もう5年も前の話だ。
そうだ。帰って来れたよ。ルトワ。
◆
……ん?
何か聞こえてきた。
言い争い?でもないけど、何してるんだろう。
後ろを肩越しに振り向くと、小柄な子が二人、何やら真剣な表情で話し合っている。
キャスケットを被っている方はなんとなく見覚えがある…確か、首藤さん?
四葉のクローバーで思い出した。小中一緒の子だ。随分と懐かしいな。記憶にある姿の面影は残しつつ、可愛いくなっていた、
もう一方はセミロングの黒髪に左耳上あたりに碧色のリボンをしている女の子。黒髪、青磁色のリボン…どこかで…
まあ何か困っているようだし、声をかけてみようかな。
「何してるの?」
「すけべだよ!」
「えっちです!」
何故に!?
急に声をかけられてびっくりしたのか、二人は威嚇最中に驚かされた猫みたいに飛び上がり、抱き合いながらそんな言葉を言った。
それ、抱き合った百合の説明?
抱き合う百合二人への覗きの罵倒?
どっちのこと!?
そして抱き合った拍子に二人してスマホを投げ出してしまい、それは僕の足元に滑りついた。
「……」
「……」
二人は無言で抱き合ったまま固まって、ダラダラと顔中に汗を浮かべていた。
それはもう大量に。
夏が近いとはいえ、ここは林の中、風も冷たい。冷や汗かな?
そんなに怖がられるのは随分と久しぶりだなあ。…なんだか自分が盗賊にでもなった気になるな。
僕は盗賊に怖がられてた方なんだけどな。瞳の色を見ればだいたい謀りだとわかるから言い訳なんて聞かずに悪即斬してた。
マリーは引いていたなあ。もうちょっと言い分を聞いた方が…なんて。はは。
とりあえず拾ってあげるか。………え?
リボンの子のスマホには、愛香と喫茶店にいる僕が写っていて。
首藤さんのスマホには、魔法を使う僕が写し出されていた。
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