感謝祭3 

「京介くん、あーん」


「京介さん、あーん」



僕は、由真と響子の二人の間に挟まれ、自分でスプーンさえ持つことは許されずに口だけ開けるマシーンになっていた。


介護かな?


これ、幾ら払えば良いのだろうか。いや、好意に対してお金で報いるという貧困な発想しか出ないことこそが、僕が擦れている証拠だろうか。


彼女たちは感謝だと言った。

彼女たちは、それは祭だ、とも。


では、

眩しい太腿もぐっ、

美しい胸元の谷間もぐっ、

スプーンを差し出した際に、スプーン越しに見える若さ溢れる二の腕もぐっ、


楽しんで良いのだろうか。もぐもぐ。

楽しむことが感謝に報いることになるのだろうか。もぐもぐ。



「京介、ぁ、ぁ、ぁーん」



そして目の前には義妹。親の再婚によって家族になった少女。初めて会った時から数えても見たことのない表情と、されたことのないあーんだった。


あれ?もしかして魔王倒したの知ってた?


異世界救ったご褒美?


凱旋祝賀会@藤堂家?


異世界間通信魔法なんてあったっけ?


とりあえず。



「あ、あーん」



義妹からのあーんに答えてみる。両隣の二人が息を飲むのがわかる。やはり何かあるのだろうか。


さてはて、もぐもぐ





「ごちそうさま、僕だけ食べてよかったの?」


「みんな先に食べたわ。そもそも!だいたい京介がっ……」


「わ、わー、わー、京介くん感謝祭のために先に食べたよー」


「そうですよ!食後のデザート用意しますね」



話題を由真にインターセプトされた未羽は、ハッとしてから態度を整えていた。

いつもの未羽を封じている…ように見える。それがこの集まりにとっては大事である、とも。


つまり公の話。やっぱり魔王討伐かな。


いや、ないか。


瞳の中はみんなだいたい感謝、興奮、発情、不安か。これと魔王討伐が結びつかないし。



まあ現実には魔王を討伐してないんだけど。

というか、僕諸共討伐されたんだけど。

だから討伐後の瞳は見たことないんだけど。


はは。


逃避はやめて、考えてみる。

実際目にすれば、ハッピー、ハッピー、ハッピーくらいだろうか。巫女三人居たし。


じゃあ、単純に好意か。


瞳の中の感情を見るに、魔族によって隣国を滅ぼされ、許嫁も殺され、塞ぎ込んだ姫を元気づけた事があった。出立の日、必ず生きて帰ってきて欲しいと。もう一度お会いしたいと。あの時の姫が、そんな目を…



「京介」



そんな事を考えてたら、三人はグラスにアイスを入れて持ってきた。取手のついた透明なグラスにバニラアイス。三人分のデザートだけ持って。


あれ?僕のアイスは?


あれか、上げてから落とすのか。


なるほど…



「京介さん、食べさせ合いしましょう」



どうやらスプーンは四本あった。何故か僕だけ大きなスプーンだった。スプーンのみを渡され、響子はそんなことを言った。



「はい、まずはわたしからだよー」



そう言って隣に腰掛けた由真。ソファの沈む跳ねと、ふよんと弾む大きな胸が若干ズレて揺れた。下着と違って、ワイヤーが入っていないからか。



「じゃあ、お願いしまーす。大きく掬ってね」



大きく?そんなに一回で食べれるものなのかな。キーンとしないかな?大丈夫?


顔を赤くしながら大きく口を開ける。渡された大スプーンで、由真の持つグラスからアイスを、言われたように大きく掬い食べさせようとする。


だが、すんでのところで由真は口を閉じた。


なぜにっ!?


行き場を失ったスプーンは唇にぶつかり、アイスはこぼれ、由真の谷間に蓋をするように流れついた。



「……」


「じゃ、じゃあー次はーわたしの番だねー」



僕のあーんは無かったことにして、自分の胸元のアイスを掬い、あーんしてきた。棒読みで。


ヘタか。


じゃあじゃない。じゃあじゃないが、ぱくり。


エロい。美味しい。あと、エロい。


なんか1番大人しそうに見える由真がこんな事をしでかす、という事実が単純にエロい。こんなの異世界にも無かったよ!スプーンが弾んでるよ!



「次は私です」



今度は恐る恐る、同じように響子の口に近づける。ケガが怖いし。それより何より何が起こるかわからない怖さもある。


案の定、口は閉じ、谷間にアイスで蓋をした。だけどそこからは由真と違った。小瓶に移したシロップを自らに、垂らし出した…


まだ変化球があるとは…



「はい、京介さん、あーん」



パクリ。エロ美味しい。


衝撃で、知らない単語を作ってしまった。

響子の谷間はマシュマロみたいだった。スプーンが沈み、時差で遅れて跳ね返っていた。


なんか1番真面目そうな響子が…以下ry


「さ、最後は私ね」


最後の未羽は、直接胸の谷間にグラスのアイスを全部乗せた。カッププリンをひっくり返すかのように。


食べさせ合いという名目の茶番すらないとは恐れ入る。


ある意味、豪速球のストレートだった。


その上に、更にチョコチューブからチョコを塗した。


つまり、これは、ほら、体に盛ったりするってやつでしょ?


未羽は最後に自分のスプーンを放棄し、キメ顔でこう言った。



「召し上がれ」



僕はグッドボタンを押した。


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