風呂

お風呂、お風呂、お風呂だお風呂。


いやはや久しぶりですね。

桶さん。シャワーヘッドさん。イスさん。湯船さん。いやもうさん付けしちゃうし、歌っちゃうでしょ。


ウキウキとした気持ちを隠しもせず、僕は洗い場で身体を洗っていた。


洗浄の魔法では、予め規定した清潔さに身体を保つが、実際に風呂で身体を洗う行為はまた違っていた。


なんというか、一摩り事に心が洗われるというか。救われるというか。神聖な儀式というか。


だいたいは嬢に洗ってもらっていたから、随分と久しぶりに自分で洗うとそんな感想も出るか。


晩飯を食べ、義妹が風呂に入っている間に、アルバムを見たり、スマホを見たり、いろいろと思い出したり、今のレベルがどれくらいなのかを検証したりした。


身体能力は召喚された当時のまま。レベルで言うと1。覚えた魔法は魔王戦と同じ。つまりカンスト。


向こうはMPなんてものはなかった。まあ、魔力、というか、なんとなく打ち止めを感じるまでは使える感じ。


あっちにあったのは位階、つまりレベルのみだった。変則的な強くてニューゲーム、なのかな。知らんけど。


今の自分を一番信用していないのは他ならない自分自身だった。


何せ数時間前まで魔王と戦っていたのだ。せめて何か枷を掛けとかないと安心できない。


多分気持ち的にはまだ昂ぶっているはずだ。


決戦の際、身体のピークをそこに合わせる必要があった。少しでも勝算を高めるためだった。


魔王戦も例外なく決戦時間を予測し、ピークを定めていたのだった。

そしてそれは多分まだ終わっていない。


このままだと反射で相手を殺してしまう。そういう危機感を覚えた僕は、とりあえず現状の自分の認識から始めた。


目を閉じ、心を震わせ、脳のリミッターを外す。身体強化のバフ魔法ではなく、純粋な生身の使い方だ。


よし、外せる。


召喚された当時、最初に覚えた技術だった。

これなら、この世界の強者でも全然相手にできる。


出来てしまうことがわかる。


ということは、だ。


つまり反対に枷も掛ける事が出来る、ということだ。


今までは殴られてもヘラヘラしていたが、今は多分殴られたら反射的に躱して殴り返すだろう。


そして、それはだいたい急所を狙ってしまう。


そして、それはだいたい致命傷になってしまう。


いかにレベル1とは言え、それくらいできてしまうのが、感覚でわかる。


うっかりで人を殴り殺すとか嫌すぎる。


正直、明日からどうしよう、と思ってたけど、枷の仕方さえ知ってればなんとか対処できると思う。よし!


はあ。なんて面倒な世界か。

まあ風呂があるから許す。


風呂関係ないけど。


安心したら風呂が待ち遠しい。


義妹から出たと聞くと、早速とばかりに風呂に向かった。


僕の戦いはこれからだ。


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