第9話 変わらない二人
今日もお外は天気がよく、夏はまだまだ真っ盛り、若き10代の竹千代にとって青春を謳歌するにはもってこいの日だ。
しかし竹千代は顔をしかめ、エアコンの冷風にあたりながら反省文を考えている。
先日の学校プール侵入事件のせいだった。
無断で校内に侵入して、さらにはプールを勝手に使用していたことが教師にバレた。澤留と椿がうまく立ち回って、大事にはならなかったが、正座での説教そして校内の清掃と反省文を課せられる。
竹千代は部外者ではあるが同罪だったので、こうして巻きこまれる形で反省文を書いていた。
しかし普段は優等生な竹千代だ。なかなかに苦心していた。
どんな内容を書けばいいかわからず、筆をなんとか進めていく。
『反省文を思いつかない竹千代は、持て余していた性欲を
『澤留! お前のせいでこんな目にあったんだ! しっかり反省してもらうぞ!』
『ああっ、そんな無理やりだなんて!』
『竹千代は澤留の細い腕を乱暴につかみ、桃色の小さな唇をふさぐ』
『⁉ んんっ……!』
『さんざん俺をあおりやがって! もう勘弁ならねぇ!』
『やんっ! たけちーのおっきいのがはいってくるよぅ……!』
『このっ……! このっ!』
『んっ……あっ……気持ちいいっ……!』
『くっ……! 俺のがそんなに気持ちいいか!』
『うん! とっても気持ちいい! たけちーも僕で気持ちよくなって……! いっぱいいっぱい僕に欲望をぶつけて! たけちーのえっちな汁、僕の中にたくさん吐き出していいからぁ……!』
竹千代は、隣でやかましい澤留の頬をむにーっとひっぱった。
「限度というもんがあるだろう」
「あにすんだよー」
澤留は手ではらい、むくっとふくれた。
「人が反省文に悩んでいるってーのに、なんちゅー妄言をたれ流すんだ」
「たけちーの妄想たぎらせた文章を読んでいただけなのに……」
「俺の妄想じゃねーよ⁉」
澤留はポテチをひとつまみし、パキリと食べてからにへへと頬をゆるませた。
プールの件で教師にこっぴどく怒られたというのに、澤留は最近ずっと上機嫌だ。ロッカーでの出来事といい、自分が面白いぐらいに反応するからだろう。
「澤留は反省文を書き終わったのかよ」
「僕の中でテンプレートがあるし、すぐ書き終わったよ」
「……普段どんだけやらかしてんだよ」
「やらかすぶん僕がどこかでペイしているからねー、形だけの反省文でも教師は気にしないよ。プールではしゃぎつつ、防犯上の問題点と改善点を客観的に書いておいたし、今年の文化祭は水泳部も凝った出しものができるだろーね」
「……しっかりとあくどいままのようで」
「
澤留がテーブルに両肘ついて、ぶーたれてきた。
「どこぞの澤留さんがお邪魔してくれたおかげで進んでねーよ」
「ムラムラしちゃったわけか」
「逆にストレスが溜まったわ!」
「……それじゃあ僕で発散しちゃう? 僕がはかどらせてあげよっか?」
澤留が挑発的に微笑んだ。
どう発散するかは言及してこないが、ほそい指で太ももをさすってくる時点でもうおピンクまっしぐらな発散法だろう。
たしかに美しい澤留に誘われたら理性はゆらいでしまう。
だからといって手を出すとはかぎらない。澤留が下半身を攻めてきても、二人の関係性が変わることはないのだ。
「……発散しねーよ。俺がエロ方面ですぐに動揺すると思うなよ」
「僕はたけちーとお外に遊びに行きたいだけだよ」
「白々しい表情でよく言うわ。花婆に迷惑かけたくはねーし、しっかり反省文を考えてるよ」
「あとで僕が手伝うよ」
「あのな澤留――」
「昔、僕たちがつくった秘密基地。まだのこっているんだ」
澤留がまたも微笑んだ。
今度は竹千代がよく知る、無邪気な幼なじみとしての表情だった。
「のこっているんだ。俺たちの秘密基地」
「うん、近所のちびっ子たちが改修しながら使ってるみたい。一緒に見に行く?」
「それは……… ………見に行きたいな」
たぶん、自分はよほど嬉しそうな顔をしたのだろう。
澤留はこれ以上にないぐらいニマーッと微笑んで、やったねとはしゃいでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます