第59話 己の使命は敵を倒すこと
出撃を決めた慧磨は真人と戦っている一真に無茶ぶりを要求する。
「紅蓮の騎士! 私を日本に帰してくれ! 急ぎの用事が出来た!」
一真はヒーローものの敵組織にいる戦闘員の如き無限に湧いてくる真人と対峙しながら慧磨の言葉を聞き入れた。
「了解!」
「させないよ~」
「うるせえ、ボケが! 一回、塵になれ!」
次々と飛び掛かってくる真人の大群を一真は広範囲型の魔法で一掃すると、慧磨のもとへ急いで向かう。
「一真君。私を例の場所に」
「例の場所って……もしや、出撃するおつもりで?」
「手が足りないのだ。やむを得ないさ」
「了解です。ご武運を」
一真は慧磨と月海の二人を転移魔法で日本に戻した。
二人を日本に戻した一真は再び真人へ顔を向ける。
そこには一掃して消えたはずの真人がわんさか湧いて出ていた。
「本当にゴキブリのようだな」
「酷い言いようだね~。まあ、間違っちゃいないけど。それよりも首相を帰しちゃったの? あんなのいてもいなくても意味ないと思うけどね」
「ふっ……。ああ見えて、実は胸の内に情熱を秘めているオッサンなんだよ」
「ふ~ん。どうでもいいや」
真人が興味を持っているのは紅蓮の騎士だけである。
その大量にある異能を奪う事が出来れば、どれほど愉快だろうかと口元を歪めていた。
それ以外は真人にとってどうでもよかったのだ。
「僕は君から異能を奪えればそうでいいし」
「ふ~ん。それこそどうでもいい話だけどな。ところで話は変わるんだけど、お前鑑定とか持ってないの?」
「持ってるよ。でも、それ使っちゃうとやる気なくしちゃうじゃん」
「なんで?」
「だって、君が何を持っているか分かれば面白みがなくなる。その大量にある異能が実は一つのものだったり、本当に複数持っていたり、それが分からないから面白いんだよ」
「言いたいことは分かった。でも、今の内に見ておけば良かったと後悔するかもよ?」
「それは終わってからでも十分さ」
プレゼントは開けるまで中身が分からないもの。
それが面白く、楽しく、人をワクワクさせる。
だからこそ、真人は一真という未知の異能者を鑑定せず、楽しみを後に取っておきたいのだ。
そのせいで後悔することになると露知らず、真人はただ一真から強奪する事だけを考えていた。
◇◇◇◇
日本に戻って来た慧磨は一真によってとある格納庫に来ていた。
そこには慧磨のために作られた専用機が眠っている場所だ。
慧磨はついにこの日がやってきてしまったかと思いつつも、やはり興奮が抑えきれないようで口の端が少し吊り上がっていた。
「
地獄の代名詞とも呼べる閻魔大王。
彼の名を冠した慧磨専用の愛機がついに日の目を浴びることになる。
慧磨は目を瞑り、過去を馳せながら愛おしそうに閻魔と呼ばれる機体を優しく撫でると彼は大きく目を見開いた。
「月海君。私は超巨大イビノムに向けて出撃する。しばらくの間、君に指揮を任せる」
「畏まりました。くれぐれも無茶だけはしないでくださいね」
「分かっているさ。ただ、年甲斐もなくはしゃいでしまうかもしれないがね」
「数日後に地獄を見ますよ? 言っておきますが休む言い訳にはなりませんからね」
「ハハハ、これは手厳しい。だが、そうだな。こればっかりは仕方がないことだな」
「それではご武運を」
月海は格納庫から去り、残った慧磨は閻魔を見上げると、すぐに用意されていたパイロットスーツに着替えてコックピットに乗り込んだ。
搭乗者である慧磨の生体反応にブウンと電子音が鳴り、閻魔が試運転以来となる起動を始めた。
「フッフッフ。そうか、お前も嬉しいか」
機械に感情はないが、それはそれこれはこれである。
愛機とパイロットにしか通じないものというものは確かにあるのだ。
無論、慧磨と閻魔の間にも不可視の絆は繋がっている。
無事に起動を確認した慧磨は一通りの操作を終えて出撃準備を整えた。
「ふう……。これが初陣だ。フフ、選挙の時よりも心躍るな! 閻魔、出るぞ!」
一真達変態が作り上げた格納庫は無駄に凝っていたのでカタパルトまで搭載されており、慧磨を乗せた閻魔は射出され天高く舞った。
「訓練を受けていてよかった! 凄まじいGだ!」
ビリビリと感じる重力の波動に慧磨は興奮を抑えられない。
宙を舞い、空を飛ぶ閻魔を操作して慧磨は超巨大イビノムが暴れている都市に急いで向かうのであった。
慧磨が出撃したころ、街の方では超巨大イビノムの対応に追われていた。
数多くの異能者が集まり、超巨大イビノムに対して総攻撃を仕掛けるも、見た目通りの頑丈さに傷一つ付けられない。
これではただ蹂躙されるのを待つだけとなってしまう。
それだけは何としてでも阻止しなければと異能者達は攻撃を続けるも意味はなく、街はどんどん破壊されていく。
その上、小型のイビノムから中型のイビノムが沸いており、そちらの対応もしなければならない。
もはや、街が陥落するのも時間の問題だ。
「くそ! 援軍はまだか!」
「どこの街も自分達の所で精一杯だ!」
「ちくしょう! このままじゃ終わりだ!」
「これで終わりなのか……!」
誰もが諦めかけた時、それは雲を斬り裂き、太陽の向こう側から現れた。
『諸君、良く踏ん張ってくれた! 君達は国の宝だ!』
「こ、この声は!?」
「そ、それより空を見ろ!」
「あ、あれはなんだ!」
「鳥か!?」
「人か!?」
「違う! ロボットだーッ!!!」
街の異能者及びに逃げ惑う人々は空に現れた閻魔を見上げ、指を差し、はちきれんばかりの声で叫んだ。
予想はしていたが、ここまで理想のリアクションに慧磨はコックピットの中であまりの歓喜に悶えていた。
「(素晴らしい! これだ! これが見たかったんだ! っと、いかんいかん。私の役割を果たさねば)」
求めていたリアクションに身悶えしていた慧磨であったが本来の役割は超巨大イビノムの駆除。
それを忘れては本末転倒であると彼は気合を入れ直して、超巨大イビノムと向かい合う。
「(う~む……。モニターで見るのと実際に見るのでは迫力が違うな。閻魔も十数メートルのロボットだが、このイビノムはさらに大きい。戦艦並みと聞いていたが、実物はもっと大きく感じるな……)」
コックピットにあるモニターから超巨大イビノムを見上げる慧磨。
今までモニター越しにしか見ていなかった超巨大イビノムの大きさに圧倒されていた。
無論、怖気ついたわけではない。
むしろ、これくらいの方が倒し甲斐があると慧磨は年甲斐もなくはしゃいでいた。
「(ふふ、政治も敵を殴って倒せば終わりといくらい単純明快だと嬉しいんだがな~)」
普段は政治ばかりで面倒な書類仕事や外交といったもので精神的に疲れるようなものばかり。
しかし、今回ばかりは違う。
文字通り、日本の危機を救うべく、怪獣と戦う一人のパイロットだ。
そこに政治的な駆け引きなど存在しない。
ただ、敵を倒すだけという単純にして簡潔な答えがある。
とはいっても、そう簡単には倒せない相手ではあるが心が躍り、胸が燃えるのは当然のことであった。
「(フッフッフ……! ワクワクする、いや、こういう時はそう! 燃えてきた~! だ!」
操作レバーの握る手に自然と力が入る。
日本の危機だと言うのにどこか現実味のないシチュエーション。
それが酷く慧磨を狂わせる。
とはいえ、流石に自分の為すべきことはきちんと覚えている。
「(よし! イビノム討伐作戦開始だ!)」
コックピットの中で意気込む慧磨は操作レバーで閻魔を動かし、超巨大イビノムと相対する。
スラスターを使って上昇し、イビノムの顔面付近にまで飛び、搭載されている兵器を展開する。
『ミサイル発射!』
慧磨の声と共に放たれるのは大量のミサイル。
勿論、普通のミサイルではない。
最新のテクノロジーを駆使して作られた対イビノム用のミサイル。
発射されたミサイルはイビノムの顔面に全弾命中。
地上から称賛の声が上がるが爆炎が晴れると、そこには無傷のイビノム。
ミサイルが効かなかったのを見て慧磨は狼狽えてしまう。
『な、なんだと……』
「あ、危ないッ!」
誰かが叫んだ時には遅かった。
イビノムが手を振り払い、慧磨の乗っている閻魔を蠅叩きのごとく地面に叩きつけた。
『ぐわーッ!!!』
ドッシーンと閻魔が地面に叩きつけられてしまい、コックピットにいる慧磨はその衝撃をもろに受けてしまう。
幸い、被弾した場合の訓練も受けていたので気を失う事はなかったが、情けない姿を晒してしまった。
助けに来たというのいうのにこれでは格好がつかない。
「(ああ、そうだ。私は決してヒーローなんかじゃない! 無様でも惨めでもいい! ただ今は目の前の敵を倒すことだけを考えろ!)」
ようやく我に返った。
浮かれていた熱が急速に冷めたが、それと同時に己の使命を思い出した。
ヒーローのように格好良くなくても構わない。
ただ目の前の敵を倒すことが出来ればそれでいいのだ。
再び立ち上がった閻魔は超巨大イビノムを見据えるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます