第57話 合体こそロマンだ
アスモディが目を凝らして崩れた建物を見ていると、そこからキングが出てくる。
彼は犯罪者に一方的に殴られていたせいもあってか服はボロボロ、髪はボサボサで汚れていた。
しかし、その体には傷一つなかった。
「いや~、ハハッ! 久しぶりにやられたよ。ほら、服がボロボロだ」
笑っているキングはボロボロになった服を広げてアスモディに見せつけている。
「うへ~……。さっきのは自信作だったんだけどな」
ダメージ一つないキングに辟易するアスモディが建物の手すりに頭を擦りつける。
先程、キングにけしかけた魔改造した犯罪者が自信作だっただけにショックが大きかったようだ。
「ま、いっか! それじゃあ、次行ってみよう~」
アスモディは顔を上げると軽快に手を叩いた。
すると、どこからともなく先程と同じような魔改造された犯罪者がゾロゾロと姿を現す。
一体、どこに隠れていたというのか。
キングには知る由はないがそのようなことはどうでもよかった。
「へ~ほ~。少し楽しめるかな!」
続々と出てくる魔改造された犯罪者の集団を見たキングは嬉しそうに唇を舐めた。
先程は油断していたこともあったが次は最初から本気を出すつもりでいる。
簡単に壊れてしまったが次のこいつ等はどれだけ持ち堪えてくれるのだろうかとキングは期待していた。
「そう簡単に壊れてくれるなよ!」
駆け出すキングは一番手前にいた魔改造されている犯罪者を強引に引き千切ると、その上半身と下半身を他の者へ向かって投げた。
とても受け止めきれるものではない速度で投げられた肉塊にぶつかった犯罪者は見事に粉砕される。
そこからキングは剛力無双で活性化された肉体を使って襲い掛かってくる犯罪者の悉くを破壊し尽くすのであった。
◇◇◇◇
アメリカでキングがアスモディと熾烈な争いを繰り広げている頃、中華では覇王が暴れ回っていた。
中華にもアスモディが作った魔改造の犯罪者達が暴れ回っていたが、斉天大聖をはじめとした異能者達によって狩り尽くされていた。
中華は人口が多いため、異能者の数も多いのだ。
イヴェーラ教はもっとも中華に戦力を送りこんだがまるで意味を成さなかった。
頂点に立つ覇王がいる限り、中華を落とせることはない。
イビノムも犯罪者も塵芥のように消えていく。
アスモディがどれだけ心血を注いで作り上げたかは分からないが、その苦労は全て水泡に帰す。
「ふむ……。物足りんな」
「オジキ。こっちは片付いたぜ」
「そうか。各地の状況はどうなっている?」
「結構な被害が出てるが大した問題はない。前回みたいに超大型でも現れない限りは――」
斉天大聖の言葉が切っ掛けとなったのか、超大型イビノムの出現を確認したという報告が上がった。
それを聞いて斉天大聖はまさか自分のせいなのかと自身を指差すが、それはないと覇王が笑った。
「ハハハ、それはないだろう。元々、用意されていたに違いない。用意周到なことだ」
「どうする? オジキ。超大型は俺達じゃねえと対処できねえぞ」
「ふむ……」
本音を言えば国際会議の会場に戻って真人と戦ってみたい。
しかし、斉天大聖の言う通り、超大型を相手に出来るのは中華でも覇王と斉天大聖といった猛者のみ。
国防を担っている覇王は悩むまでもないと結論を出した。
「超大型は俺とお前で対処する。数はどれくらいだ?」
「以前の倍だな」
「ほう! ククク、イヴェーラ教も大盤振る舞いだな」
「笑ってる場合じゃねえんだけどな~」
斉天大聖も自他ともに認める戦闘狂ではあるが面倒なものは面倒なのだ。
超大型などその代表例でしかない。
大きいだけでも厄介な上に生命力も大型に比べれば数十倍はある。
それに何よりも破壊の規模が桁違いなので被害を抑えつつ戦うということも出来ないのだ。
そうなると少しばかり罪悪感を感じてしまう。
とはいえ、放置しておけば甚大な被害が起こり、国にとって大惨事となってしまう。
それだけは避けたいところなので結局戦わなければならない。
「さて、向かうとするか」
「へいへい」
「どうした? 嫌なのか?」
「嫌と言うか超大型は面倒くさいからな」
「確かにな。だが、サンドバッグにはちょうどいい」
「まあ、それは言えてる」
軽く笑い合うと二人は超大型イビノムが確認された場所へ向かうのであった。
◇◇◇◇
そして、中華で超大型イビノムが確認されたのなら当然、他の国でも
超大型イビノムは出現していた。
芸のないことだと罵られるかもしれないが、そもそも超大型イビノムはそう簡単に倒せるようなものではない。
各国の有力な異能者が何人も集まってようやく討伐できる強さだ。
そう、本来ならば。
今、日本には侍と呼ばれる真田信康しかいない。
彼は身体強化と切断の二つの異能を持っている。
彼が本気を出せば山すら断ち切ることが出来るだろうと言われているが、信康にはそこまでの力はない。
彼が斬れるのは精々ビルくらいだ。
それでも十分なのだが、超大型を相手には少々厳しい。
超大型は戦艦並みの巨大さに加えてイビノム特有の固さをしているので信康の斬撃では表面を傷つけるだけで精一杯であった。
「くッ! 分かってはいたが実際こうだと中々に歯痒いな!」
上陸してしまった超大型イビノムを相手に信康が対応していた。
彼は部下に市民の救助及びに避難を優先させ、自分は超大型イビノムと対峙している。
とはいえ、人間に蠅がたかっているかのようなもので超大型イビノムの意にも返さない。
超大型イビノムは街を破壊しながら都市を目指していく。
必至に食い止めようとするが信康の斬撃は蚊に刺されたようなもので超大型イビノムは進む足を止めなかった。
「俺にもっと力があれば!」
悔しそうに奥歯を噛み締める信康。
彼の眼前には悠然と歩み続ける超大型イビノム。
もはや、誰も止めることは出来ないと思われた時、水平線の彼方から希望は現れた。
「ハーッハッハッハッハッハッハ!!! よもや、よもや、このような機会がすぐに訪れようとは! イヴェーラ教には感謝である!」
信康と超大型イビノムの前に現れたのは機械の翼を持ち、メタリックに輝いている巨大な二足歩行型ロボットであった。
ブウンッ! と両目の部分が赤く光を灯し、壮健な顔立ちをしているロボットは超大型イビノムの前に躍り出た。
突然、現れたロボットに信康は呆気に取られ、戸惑っていたが声が聞こえてくる。
『こちらの声が聞こえてるか? 真田信康殿』
「この声は? まさか、あのロボットからか?」
『如何にも! このロボット、ガ――ンン! いかん、いかん。違った。日本の守護神として建造されたこの
「しかし、一人では!」
『案ずるな。私、一人ではない』
「え!」
童子切が指を差すと、そこには童子切と同じように水平線の彼方から飛んでくる機体があった。
童子切を合わせると合計五機ものロボットが超大型イビノムの前に立ち塞がる。
「お、おおお!」
これなら超大型イビノムにも対抗できると信康は声を震わせた。
しかし、よくよく考えるとロボットは十数メートルしかない。
これでは超大型イビノムに対して些か、いや、あまりにも小さい。
超大型イビノムと比べると大人と子供どころではないのだ。
赤子と大人くらいの差がある。
身長差と言うのはそれだけで有利なのだ。
いくらロボットがいようとも超大型イビノムには勝てないだろう。
『フッフッフッフ! 五体に増えた所で意味がないと思っただろう。だが、甘い、甘いぞ! これからが本番なのだ!』
その言葉に息を呑む信康。
まさか、まだ奥の手が残っているのかと信康がロボットを見詰めていた時、童子切のパイロットが叫んだ。
『合体だ!!!』
『『『『了解!』』』』
童子切をはじめとしたロボットが空を舞う。
無駄に演出を拘っているようでロボットはガシャンガシャンと大きな音を立てて変形をしていく。
そして、変身ヒーローものに出てくる巨大ロボットのように一つになった五体のロボット。
超大型イビノムにも引けを取らない巨大ロボットが信康の前に姿を見せたのである。
「う、うおおおおおおお……!」
大人であろうと関係ない。
信康は子供の頃に見ていた巨大ロボットが目の前に現れて興奮するのであった。
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