第12話 よ・ろ・し・く(⊙◞౪◟⊙)
桃子は大失態を犯してから気合を入れ直し、新たな気持ちで任務に望んだ。具体的には胃薬と頭痛薬を常備して任務へとあたっていた。
今日も今日とて一真の心を読む桃子。
「(生まれ変わるなら猫になりたい。出来れば美女の飼い主がいいな)」
「(……)」
「(東雲さんは犬派? それとも猫派? もしかしてハムスター派?)」
「(ナチュラルに心の中で質問をしないでいただきたいですね)」
「(見た目的に犬派そう)」
「(…………ええ、そうですが! なにか?)」
「(なんでこっち睨んでるんや? 俺なんかしたか?)」
「(くッ……!)」
常人よりも視野角の広い一真。ほんの一瞬しか睨んでいないのに察知されてしまった桃子は悔しそうに奥歯を噛み締める。本当にこの男はどこまでも人をイラつかせると。しかし、よくよく考えてみれば勝手に心を覗いて勝手に怒っているのは自分の方だと桃子は冷静になり心を落ち着かせた。
「(ふう。一旦、冷静になりましょう。以前のような失敗は許されない。落ち着いて冷静に任務を遂行しましょう)」
「(目と目が合えば恋の予感やで)」
「(ええ、大丈夫です。私は冷静です)」
そう言っている彼女の手に握られているペンはヒビ割れていた。
「(なんかパキリと音が聞こえたけど……)」
「(やってしまいました。つい力が……)」
ついつい思わず力を入れすぎてしまいペンを壊してしまった桃子は鞄の中から新しいペンを出した。その時、一真は戦々恐々とした光景を目撃する。桃子の鞄の中には新品のペンがぎっしりと詰まっていたのだ。
それを見た一真は恐る恐る桃子の方を見ると、彼女は光のない目でこちらを見つめていた。
「(ひえッ……!)」
「(ふッ……少しはやり返せましたかね)」
「(サイコパスやんけ!)」
「(失礼なッ! 誰がサイコパスですか!)」
サイコパスではないが異常者であるのは間違いないだろう。鞄一杯に新品のペンを詰め込んでる時点で頭がおかしい。一真を驚かせたかったのだろうが他にもやり方はあったはずだ。
その後、桃子の異常性を知った一真は終始ビクビクと震えていた。一応、桃子の作戦は成功だろう。ただし、桃子は異常者というレッテルを貼られることになったが変態の一真といい勝負である。
◇◇◇◇
本日、最後の授業は
それから、しばらくして田中がタブレットを片手に教室へと入ってくる。
「お前等~、席に着け~」
そう言われて席に着く生徒達。素直に言う事を聞いてくれる教え子に田中は満足したようにうんうんと頷いていた。
「よし、じゃあ、これからLHR始めるぞ~」
田中が教壇に立ち、タブレットを片手にLHRが始まる。田中は手元にあるタブレットへ目をやり、連絡事項を伝える。
「え~、知ってると思うが二学期はイベントが目白押しだ。来月の体育祭、十一月の学園祭、そして十二月に行われる一番のメインイベント学園対抗戦だ。まあ、最後のは一年生の支援科にはほとんど関係ないがな。ワッハッハッハ!」
口を大きく広げて笑う田中に生徒達も釣られて笑う。田中の言う通り、学園対抗戦は支援科に関係ないという事はないが、一年生である一真達には無縁のイベントである。
「じゃあ、今日は体育祭の実行委員と学園祭の実行委員を決めるぞ~。立候補者はいないか~?」
「はい、先生! 質問です!」
「おお? なんだ?」
「内申点には影響しますか!」
「ハハハハ。正直な奴だな。俺はそういうの嫌いじゃないぞ~。それで内申点に影響するって言ったな? 一応、プラスにはなるが国防軍に入れるかと言われたら……無理だ」
「じゃあ、いいです!」
「ハッハッハッハ! まあ、そう言うな。就職や進学には有利になるぞ」
と言われても実行委員など面倒なだけである。やりたいという人間はいないだろう。
「(は~、だる。帰って寝て~)」
「(それには同意見ですが少しは興味を持ってはどうでしょうか?)」
一真の心を読んでいる桃子は彼に影響を受けたのか、毎度突っ込みを入れたり合いの手を入れたり、会話を成立させようとしている。悪い事ではないが一真は桃子と違い、心の声を読むことも伝えることも出来ない。
「(誰でもいいから立候補しちくり~)」
「(自分でやろうとは考えないのですね)」
「(仕方ない。こうなったら俺が――)」
「(え? まさか、ホントに?)」
「(東雲さん! 君に決めた!!!)」
「(事あるごとに私の名前を言わないでくれます!?)」
「(大丈夫! 君なら出来る! 出来る~出来る~君なら出来る~)」
「(うぅ……胃の辺りが謎の痛みを……ッ!)」
一真は内心で桃子を推薦し、謎の歌を桃子に聞かせていた。
その歌を聞かされる桃子は謎の腹痛に襲われて、お腹を押さえて苦しんでいた。言っておくが一真にそのような能力はない。
「うう~ん、誰もいないか?」
困ったように田中が教室内を見回して生徒達の顔を見てみるが目を逸らしたり、興味が無かったりと立候補する者はいなかった。
「あんまり、やりたくないんだがくじで決めるぞ~。後で文句は言うなよ~?」
仕方がないかと息を吐いた田中はタブレットを操作してくじ引きを作ろうとして止まる。くじ引きよりもルーレットの方が公平なのではないかと思い、田中はアプリでルーレットを作った。
クラスメイトの名前を記入したルーレットを田中は教室に設置されているプロジェクターに接続して全員に見えるようにした。
「ようし、ルーレット回すからな~。言っておくが文句は一切受け付けん。いいな? あ、それから言い忘れていたが体育祭と学園祭の実行委員は男女二名だから計四名選ぶからな。サボろうとか考えるなよ? 内申点に響くからな~」
「え、それどういうことですか?」
「どういうことって簡単な話だろう? 与えられた仕事を無責任にも放棄する人間は評価を下げられても当然だ」
そう言われればそうなのだが強制的なのはいただけない生徒達は不満そうにしていた。ブーイングをしないだけマシだと言えるが、それが社会というものだ。なんとも悲しい世の中である。
「(うおおおおおおッ! 外れろ! 外れろ! 外れてくれーーー!)」
「(うるさいですね……。でも、まあ、今回は生徒全員が同じ気持ちでしょうから目を瞑りましょう)」
まず最初に体育祭の実行委員が決まった。運悪く当たってしまった男女は共に嘆いていた。悲しそうに俯いているが決まったものは仕方がない。運が悪かった諦めるだけだ。
そして、次に学園祭の実行委員だ。一真は祈りを捧げながらルーレットを見守っている。その祈りは天に届いたのだろう。ルーレットの針は皐月一真を指していた。
「(ほげえええええええええええッ!!!)」
「(ぷふッ……いい気味です!)」
声にこそ出さなかったが一真は驚きのあまり大きく仰け反っていた。
その様子を見た桃子は内心で嘲笑っていたが天罰が下った。
学園祭の実行委員で女子の方は桃子に決まったのだ。
「(あれええええええええ!?)」
「(東雲さんが相棒ならいいかな! 可愛い子と一緒なら許せるぜ! 実行委員の仕事を通して仲良くなってチュッチュッラブラブや!)」
「(おげええええええええ!)」
一真は桃子が実行委員の相棒であることが分かると、横の席に座っている彼女の方へと振り向いて爽やかな笑みを浮かべる。
「よろしくね、東雲さん」
ニッコリと微笑む一真を見て桃子は目の前が真っ暗になっていく。これは何かの悪夢ではないのだろうかと彼女は現実から目を背けた。
「よろしくお願いしますね……」
桃子はギリギリ意識を繋ぎとめて一真に返事をするのだった。
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