第一章 始まりは突然に! そうそれは交通事故のように!

第1話 異世界へ召喚される、そして帰還

 ある日、ある時、地球に宇宙から災厄が飛来した。所謂、宇宙人の襲来である。正確にいえば未知の生命体だ。後にイビノムと名付けられる。

 イビノムの身体はまさに未知であり、現存する兵器では殺すのが非常に困難であった。しかも、尋常ではない数が存在する為、人類に勝ち目はない。

 最初にアメリカが敗北すると、ロシア、中国、イギリスと続き世界は破滅へと向かっていく。


 その中、抵抗を続けていたアメリカの軍隊がイビノムを倒した際に隊員がイビノムの体液を浴びてしまう。アメリカ軍の隊員が浴びた体液は後に血液だと判明する。

 イビノムの血液は人体に大きな影響を及ぼした。血液を浴びた隊員はアレルギー反応を起こしたかのように死亡する者と現代科学では証明する事の出来ない特殊能力を宿した能力者が生まれたのだ。


 能力者は手から炎が噴き出し、現代兵器では殺すのが困難であったイビノムをあっさりと燃やし尽くした。そして、他の隊員は冷気を操りイビノムを凍らせる。さらには念力でイビノムを引き裂く隊員までいた。


 この報告に人類は歓喜したが、同時にどうするべきか悩む事になった。イビノムの血液を体内に取り込めば特殊能力を身につけることが出来る。だが、それは賭けでもあった。なにせ、拒絶反応を起こして死亡している例もあるからだ。

 つまり、適合するかどうかということ。適合しなければ死ぬ。適合すれば特殊能力を得る事が出来る。


 どうするかを悩んだ結果、イビノムという脅威に晒されている今を生き残るにはイビノムの血液を取り込むしかないと決断を下す。人体実験をしている暇もない人類は大きな賭けに出るのであった。

 イビノムによって減らされた人口が更に減る事になってしまったが、人類は新たなる力を手にした。

 特殊能力に目覚めた新人類は快進撃を見せてイビノムを撃退する事に成功する。


 だが、それで終わりではなかった。


 イビノムの血液は人類以外にも影響を与えていたのだ。植物から昆虫に至るまでの生物が進化を遂げていたのだ。それが厄介な事に凶暴性を増しており人類に攻撃的な存在となってしまった。


 流石に全てを相手にする事ができないと判断した人類は街などに防衛装置を作ることにして、生存圏を確保するのであった。


 それから、長い年月が過ぎ、人類は以前までとはいかないが人口が増加し、平穏を取り戻していた。

 幸いにも特殊能力は遺伝するらしく、今では人類のほとんどが特殊能力に目覚めていた。ただし、親の異能が必ずしも子供に受け継がれることはない。


 今、世界はこの平和な時間を守るべく、特殊能力に目覚めた子供達を育成するために尽力していた。特殊能力を持った少年少女を育成する機関を作り上げて、国を守る戦士を育てている。


 これは、一人の少年が日本に作られている特殊能力を持った異能者を教育し、育成する異能学園に入るところから物語は始まる。

◇◇◇◇


「ついに今日から俺もここの生徒か~」


 少年が見上げる先にはとても大きな校舎があった。そこは第七異能学園。日本が誇る異能者教育機関の一つである。

 そんな第七異能学園に入学する事が決まった少年は期待に胸を高鳴らせて、これから始まる新たな学園生活に興奮していた。


「さあ、行く――ぶべらぁっ!」


 横断歩道を渡ろうとした瞬間、横から猛スピードでトラックが突っ込んできて少年の意識はそこで途絶えた。別の意味で少年は逝くことになったのである。


 しかし、そこで終わるはずだった少年は幸運なことに異世界に召喚されたのだった。


 それからの少年の人生は壮絶なものとなる。


 いきなり、剣と魔法のファンタジー世界に召喚されて魔王討伐の命を受ける事になり、過酷な訓練を毎日課されて、それが一年にも及んだ。

 一年に及ぶ戦闘訓練を受けた少年は僅かな資金と少ない仲間を元に魔王討伐の旅へ出る事になった。


 旅は過酷を極め、多くの村を町を国を救い、幾度となく強敵と戦い続けた。何度も死にそうになりながらも少年は二年の月日を掛けて魔王を討伐することに成功した。


「勇者よ。よくぞ魔王を討伐してくれた。お前には褒美を取らそう。望むなら元の世界にも帰そう」

「え? 帰れるのですか?」

「うむ。元々、召喚と送還の魔力があったからな。お前が望むならばお前を元の世界に帰すが、どうする?」


 少年はそれを聞いて悩む。確かにこの世界も悪くはないが元の世界に比べたら不便な事が多い。それにだ。魔王によって破壊されてしまった街の復興といった戦後処理。

 それが終わったら、次は下手をしたら戦争の道具になるかもしれない。今や、勇者は世界最強の存在。使わぬ手はなかろう。


 しかし、一つ気がかりなのは自分がトラックに引かれて死んだことだ。

 もしも、元の世界に戻っても死んでいたら意味がない。ならば、どうするかと悩んだ少年は聞いてみる事にした。


「あの国王陛下。私は元の世界では死んだことになっているのではないでしょうか?」

「それならば問題はない。恐らく生きているだろう」

「そうなのですか?」

「そうとも。死んでいる者を召喚は出来ないからな」

「なるほど……」


 それならば戻ってもいいかと軽く考えた少年は戻る事を決めた。


「では、元の世界に戻していただきたいです」

「よかろう。すぐに準備を始めよう」


 それから、しばらく少年はこの世界で関わってきた人達にお別れの挨拶をして回った。中には女性もいたが残念な事に少年のことを慕っている者はいなかった。嫌われていないだけマシかと自分を慰めて少年は関わった人達全てにお別れの挨拶を済ませる。


 そして、送還の準備が整ったというので少年は元の世界へ帰る事になる。たった三年という長いようで短かった少年の異世界生活は終止符を迎えた。


 元の世界へ戻った少年が目を覚ますと、病院のベッドに寝かされ人工呼吸器を付けられていた。どういう状況なのかさっぱりわからない少年であったが、たまたま巡回に来たであろう看護師と目が合った。


 その後、医者が来てどういう状況なのかを説明してくれた。どうやら、少年はトラックに轢かれて重傷を負ったらしく意識不明の状態だったらしい。


 そこまで聞いて少年は異世界での出来事は夢だったのかと疑問を抱く。一人になった病室で少年は魔法を唱える。すると、手の平から光の玉が現れて少年は確信する。


「夢じゃなかった……!」


 こうして少年は元の世界である日本に異世界で三年間培った魔法と経験を手にして戻ってきたのである。

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