ロマリア

団田図

第1話 過去のラッコ

「私、今、警察官の夫をあざむいて、ロマンス詐欺の新人君に恋しちゃってまーす」


 浮かれた様子の美紀みきは、大声で叫びたい気持ちを押し殺ながら、そうささやくと、壺の中から頭を抜いた。



1か月前。

 美紀32歳の元に、SNSのノクシィからメールが届いた。

 ノクシィは、大昔に友人から勧められて登録したが、3回の日記更新で止まったままの状態で、登録していたことさえ忘れていた。

 届いたメッセージの内容は、帰国子女で日本に来て間もないから友達になってほしいというものであった。

 どうやら美紀がプロフィール写真に使っていた、自作イラストの『プルプルラッコ』が気に入ったそうだ。

 送信主のハンドルネームである『マート1208』をWEBで検索してみると、1件のブログがヒットしたので開いてみた。


 ”『アーちゃん日記』

 マート1208とは、はじめは普通の会話で友達のようにメールのやり取りをしていたのですが、数日たって恋人関係のようになったところで、急にお金を要求てきたので、怖くなって関係を切りました。皆さん気を付けてください。”


 美紀はこれらの状況からいろいろと想像していた。

(私にメッセージを送ってきたこの男は、どうやらロマンス詐欺を働いているようだ。

 しかも、未遂ではあるが被害者がまだ1名だけのようで、駆け出しの詐欺師といったところか。

 ハンドルネームを変えずに、次のカモを探して私にメッセージを送ってくるなんて、なんたるドジっ子。)


 結婚して3年が経過し、子供にも恵まれずに、最近、夫とは冷え込んできていると感じていた美紀は、日々の生活に刺激を求めていた。嘘でもいいからと。

 そんな美紀は、スマホの恋愛ゲームを始めるかのような軽い気持ちで、マート1208へ返信をしてしまった。


 これから始まる悲劇を知る由もなく。

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