第七章 逆襲

7-1

 俺は矢吹やぶきのような秀才じゃない。

 まして早乙女さおとめのような天才でもない。

 そんな俺が、同期のあいつらと一緒にいてもいい資格があるのか、これまで何度も考えてきた。

 あいつらから見れば、俺がこんなことで悩む人間には見えないかもしれない。それは俺がこれまで、あいつらにそういう姿を見せないようにしてきたからだ。

 俺だって人間だから、弱いところはいくらでもある。でも、せめてあいつらと一緒にいるときだけは、そんなことも忘れるくらい楽しくありたい。それが俺の俺らしさだ。

 阪神競馬場に向かうために乗った新幹線の車内で、窓の外の景色を見ながら、俺は柄でもなくそんなことを考えていた。夕日に照らされた富士山が、けばけばと反射しながら輝いている。

 ふとななめ後ろから、デッキに続くドアがウィーンと開く気配がした。振り返ると、スマートフォンを片手に持ちながら、矢吹がこっちに戻ってきた。

「ごめん風早かざはや。急に電話が来ちゃって」

 矢吹はそう言いながら、俺の座っている席の隣、二人掛けの通路側の席に座る。

「いや、かまわんで。それより、誰からの電話やった?」

 俺が矢吹にそう尋ねると、

「ちょっと後輩からね」

 と答える。

「後輩やって? お前の恋人志望の間違いやろ」

 俺が矢吹にそう言うと、

「な、なんでそうなるのさ」

 と、戸惑ったように矢吹は言う。

「たしか、みおちゃんやったか。あの子ぶっちゃけお前のこと狙っとるで。そうでもなきゃあ、わざわざお前と一緒に歩いて厩舎間を移動するかっちゅうねん。絶対お前と一緒にいる時間を長くするための作戦やで。いやあ、あの子もなかなかあざといなあ」

「そうだとしたら、狙う相手を変えた方がいいよ。僕なんかと一緒にいても、幸せになんてなれないから」

「んなわけないやろ。それに、お前にはその甘いマスクがあるやんけ。お前みたいなさわやか系イケメン、周りを見てもそうそうおらんで。お前に声かけられたら、そのへんの女子なんてイチコロやろ。知らんけど」

「そうかなあ。僕はあんまり自分の顔に自信ないけど。それに、顔がカッコいいのは風早の方だよ。僕はむしろ、なんで風早がモテないのか、それが分からないんだけど」

 俺は矢吹のその言葉を聞いて、

「そういうとこやぞ、お前」

 と、思わずつぶやいていた。

「え、何が」

 矢吹は俺にそう尋ねる。

「いや、なんでもない。ただのひとりごとや。しかしまあ、ここまで無自覚とは。罪な男は大変やなあ」

 俺が矢吹をからかいながらそう言うと、

「だから罪な男じゃないって、僕は」

 と、矢吹があまりにも必死な顔でそう言うものだから、

「悪い悪い」

 と、俺はそう言いながら思わず笑っていた。

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