5-5

 そしてゲートが開かれた。

「スタートしました」という実況と共に、十二頭の三歳牝馬が一斉に走り出す。中山競馬場第十一レース、芝一八〇〇メートルのGⅢ競走、『フラワーカップ』の火蓋が今、切って落とされた。私はその中の一頭、5枠5番カコノガーベラに騎乗している。

「ややばらばらっとしたスタート。6番ソコンミサンガは最後方やや遅れてスタートしております」

そんな実況が響く中、私はガーベラを馬群の後方に控えさせる。ガーベラがやや掛かり気味だったから、私は手綱を短く持って抑える。普段のガーベラなら後方から三頭目辺りで控えさせるが、今回は十二頭だから、最後方からでも充分戦える。

「さあ先頭を行くのは12番のセトナイトアイリス、現在単独一番手。その後ろ一・五馬身程、2番ファストヒロインがそれを追う。

 その後ろでは外から10番ムツノハナ。並んで内には4番リュウセイオドリコがいます。それから1番クイーンストライプはこの位置。

 中団は四頭がまとまった。内の3番ヤタノブルーリボンが体勢有利か。それを追うように9番のシノノメヴィルゴ。間を割って7番ユウショウベルも突き抜けて来る。大外からは11番ダイヤンクノイチがその三頭を交わそうとする勢いだ。

 そして二馬身程離れて、後方には8番プラチナドール。その後ろには6番ソコンミサンガが控えます。そして最後方には5番のカコノガーベラです。先頭から殿まではおよそ二十馬身、縦長の展開となりました」

 馬群は向こう正面の直線に入った。各馬が少しずつ、にじり寄るように先頭へと迫って行く。それでも私は、ガーベラを抑えることに専念する。ガーベラも掛かることなく自分のペースで走れている。

「さあここで一〇〇〇メートル地点を通過。通過タイムは一分〇秒九。先頭セトナイトアイリスまだ余裕がありそうだ。しかし後続がじりじりと詰め寄って来た。そして各馬第三コーナーに突入。残り六〇〇メートルの標識を通過。ここでファストヒロイン動いた。ファストヒロインがセトナイトアイリスを捉えようと言ったところか」

 よし、今だ。

 そう思った私は、手綱を強く扱く。ガーベラはそれを合図に加速を始めた。ガーベラは今いる位置から、目の前にいる8番と6番を交わしていく。そしてガーベラは、そのまま中団四頭を捉えようとしていた。

「ファストヒロイン先頭に代わった。ファストヒロイン先頭。セトナイトアイリス苦しいか。後続も続々と迫って来ている。第四コーナーを回って、さあ残り四〇〇メートル、そして最後の直線も見えて来た」

 中団でまとまっていた四頭がそれぞれ動き出した。私はそれと同時に、ガーベラの右腹に二発鞭を入れる。ガーベラはそれを合図に、さらに加速して中団四頭をそれぞれ交わした。私はガーベラの右腹にもう一発鞭を入れる。ガーベラは大外へと向かって行った。

「各馬第四コーナーを周り最後の直線。中山の急坂へと向かって行く。先頭は代わってファストヒロイン。セトナイトアイリス馬群へと沈んだ。そして二番手にはクイーンストライプ。ムツノハナとリュウセイオドリコは現在三番手争いだが、その外からカコノガーベラがやって来た。カコノガーベラ、そのまま二頭を交わして行く」

 そしてガーベラは単独三番手の位置に着いた。私は更にガーベラに鞭を入れる。ガーベラの脚がまた更に速くなった。

「内からクイーンストライプが迫って来た。先頭ファストヒロインに食らいつく。そのまま並ぶか。いや交わした。クイーンストライプ先頭。その外からカコノガーベラもやって来た。ガーベラがクイーンストライプを追い掛ける。しかしクイーンストライプだ。1番クイーンストライプ、一着で今、ゴールイン。

 クイーンストライプと平坂ひらさか 光輝こうき、見事に重賞三連覇。そして二着にカコノガーベラと早乙女 風花。馬場厩舎が誇る二頭が、同厩舎の二人を乗せてワンツーフィニッシュ。

 馬場厩舎強気の二頭出し。その想いを見事結果で示しましたこの二頭。ファンの不安を一蹴し、『桜花賞』への桜花賞への道を切り拓きました。

 勝ちタイムは一分四八秒七。最後の六〇〇メートルの通過タイムは三五秒六と表示されています。

 一着1番クイーンストライプ。その外から5番カコノガーベラが二着に入線しております。そして三着2番ファストヒロイン。四着には3番のヤタノブルーリボン。五着11番のダイヤンクノイチとなりそうです。着順確定まで勝馬投票券をお持ちのままでお待ち下さい。

 以上、中山競馬第十一レース、GⅢ競走『フラワーカップ』の模様をお伝え致しました」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る