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 ロッキーの『メイクデビュー東京』への出走が見送られることになった。

 ロッキーが左前脚に、管骨骨膜炎を発症していたからだ。左前脚の第三中手骨、人間でいうすねの骨の前面に炎症が起こっている状態だった。骨がまだ完全に化骨していない若馬に対し、急激に強い刺激を与えることで発症すると言われている。

 幸い発症したのが今日、それもかなり軽度なものだったので、充分な休養を取って患部を冷やしておけば、また走れるようになるという。一日も早い回復のために、ショックウェーブによる治療や歩様検査、触診なども頻繁に行われることになった。それでも全治二か月はかかるという。

 馬の脚は「第二の心臓」と呼ばれている。馬は定期的に歩いたり走ったりすることで、脚に溜まった血を心臓に送り返している。いわばポンプみたいなものだ。そして、その四本の脚だけで、四〇〇キログラム以上の馬体を支えている。

 つまり一本でも折れてしまったら、他の三本だけで支えなければいけないことになり、そうやって一本をかばうせいで、他の三本も悪化してしまう。その間に折れた脚も少しずつ腐ってしまうため、馬にとっての骨折は、つまり死そのものを意味することになる。

 大げさでも、誇張でも何でもない。それがただ一つの事実だった。

 ならばせめて、楽に死なせてあげよう。

 そんな思いから、二度と走れないと判断された馬には安楽死の措置が取られることがほとんどだった。これを僕たちは予後不良と呼んでいる。

 ともかく、ロッキーがそうならなくて良かった。それは僕だけではなく、厩舎スタッフ全員が思っていたことだと思う。

 競走馬の休養といえば、ほとんどが放牧という形をとる。でもロッキーの場合は、ごく軽度な怪我だということと、幸い療養用の馬房が一つ空いているということで、そこを使わせてもらうことになった。

 その日から、ロッキーはしばらく療養することになった。

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