1-12

 最後の二〇〇メートルで十二秒四だった。

 競走馬としての二歳馬は、二〇〇メートルの平均が十五秒前後。しかしロッキーは、それよりも三秒ほど速く駆け抜けた。二回目はさらにタイムが伸び、十二秒二というタイムだった。〇・二秒もあれば、後続に一馬身差をつけることができる。

「確かに速いな」と、神さんはストップウォッチを片手に呟いた。調教馬場の近くにある調教スタンドで僕はロッキーから下馬し、清水さんに預ける。

「本当ですね」と、横からストップウォッチをのぞいていた清水さんが、それに答えるように言う。「もしかして、ロッキーがこのままレースに出たら圧勝するんじゃないですか?」

「いや、圧勝は望めないかもな」と、神さんは苦笑いしながら清水さんに言う。

「レースに出れば、こんなタイムを平気で出す連中なんてざらにいる。それに競馬ってのは、馬が速ければいいわけじゃない。騎手との相性、レース展開、その他諸々の要素が合わさることで成立するもんだ。スピードだけで、一概に強い馬を定義できるわけじゃないさ」

「はい、そうですよね」と、清水さんは少ししょんぼりしたように呟いた。そんな清水さんに、ロッキーが顔を近付ける。「どうしたの、大丈夫?」とでも言いたげだった。

「まあでも、心配するほどじゃねえよ。他の競走馬と同じくらいのタイムで走れてるってことは、つまりロッキーには、競走馬としての素質があるってことだ」

 神さんが微笑みながらそう言うと、清水さんの表情が一気に明るくなった。そして清水さんは、ロッキーの首元に抱きつく。ロッキーは一瞬だけ驚いたような素振りを見せたが、嫌がることなく清水さんを受け入れていた。

 でも、ロッキーがその程度の馬ではないと、僕は直感的にそう思った。

 この子は、この先もっと強くなるはず。そんなことを思ってしまうのは、ただの自分勝手な妄想だろうか。

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