1-7
そしてゲートが開かれた。
「スタートしました」という実況とともに、十六頭の
「揃いました。各馬綺麗なスタートを切っています」
そんな実況が響く中、僕はそのままアクアを内ラチ沿いに寄せる。すると、こちらの思い通りにアクアが動いてくれた。実際のレースで僕がアクアに騎乗するのは初めてだが、アクアは僕を嫌がっていないようだった。
出だし良好。いい感じだ。
「さあまずはゴール前の坂を上っていきまして、各馬これから第一コーナーへと差し掛かります」
しかしまだゴールではない。これから阪神のダートコースを一周する必要がある。第一、第二コーナーを通過しながら、僕は先頭の様子をうかがった。
「さあレースは縦長の展開になりました。先頭は9番ヤタノスイートピー、独走状態。
その後ろには外から12番ソコンティアラ。内には7番セトナイトヒナが四分の三馬身差で追いかけ、4番ユメユメはその後ろにぴったりと付く形になった。
その後ろ三頭がまとまって、大外10番ダイヤンラヴァー。真ん中に5番ダンガンエクレールがいて、内には3番アクアスプラッシュが並んでいる」
アクアは現在、向こう正面で中団の先頭、最も内側の場所を走っている。もしこのまま行けば、最後の直線で囲まれてどこにも逃げ場はなくなってしまう。
失敗したか。
いや、大丈夫だ。このままでいい。
そろそろ誰かが仕掛けてくるはず。
その直後だった。
八時の方向、蹄の音がだんだんと大きくなって近付いてくる。
見ると、アクアと並んでいる10番の後ろ、大外から6番が来ていた。
「ここで6番のブルームフォーユーが上がってきた。中団をここで交わしていく。先行二番手集団の後ろに付けた」
そうして10番の前に出た6番は、そのままアクアの目の前にいる先行集団に大外から混ざっていく。
いや、違う。
並ぶどころか、先行集団から頭一つ抜け出している。
あの勢いのまま、この直線で先頭を捉えるつもりだ。
そう思った瞬間、アクアが前に出たがっているのを感じた。僕は手綱を短く持ち、アクアの脚を貯めることに専念する。
落ち着け、まだ仕掛ける時じゃない。
アクアに言い聞かせるように、僕は心の中で独り言を呟く。
そして6番がそのまま先行集団を交わそうとした時、馬群は第三コーナーに差し掛かった。
「さあ第三コーナーに差し掛かりまして、あっと、ここで内からセトナイトヒナが来た。ブルームフォーユーを交わそうとしているが、その後ろからユメユメも来ている。内から二頭が追い上げてきた」
チャンスだ。
手綱をしごく。アクアがぐんぐん加速していき、先行集団の空いた内側を狙うように滑り込む。4番の後ろに付けたところで、10番も後ろから追い上げてくる気配を感じた。
「第四コーナー、ここでセトナイトヒナが交わした。続いてユメユメがこれを追走する。ブルームフォーユーここで後続に沈んだ」
僕は手綱にさらに勢いをつけ、そして素早く振り落としていく。直後、アクアが6番を内から交わすと、その後ろで10番が6番を交わすために大外へと避難する。10番にロスが生まれた。
「残り四〇〇メートルを切って、さあ最後の直線。ヤタノスイートピー粘っている。その内からユメユメが来ているがどうか。外からセトナイトヒナも来た。先頭三頭、ここでユメユメが交わした。内からユメユメ。大外からセトナイトヒナも交わしていく。スイートピーここまでか。スイートピー沈んだ。その後ろからアクアスプラッシュ。二番手にアクアスプラッシュが来た。先頭二頭の競り合い。アクアがそれを狙っている」
ここでアクアを外側に寄せる。ここでもアクアは思い通りに動いてくれた。
これで、先頭二頭をまとめて狙える。
内に4番、並んで7番。アクアのことなど見ていない。
いける。
そう思った直後だった。
突然、アクアの横に一頭の馬が迫ってくるのを、僕は視界の隅で確認した。
僕は思わずそちらへ振り向く。
10番、ダイヤンラヴァー。
そう認識した時には、10番はもう頭一つ抜け出していた。
まずい、交わされる。
「残り二〇〇メートル。外から10番ダイヤンラヴァーが来た。アクアを交わす。先頭二頭に並んだか。いや並ばない。ダイヤンラヴァーここで先頭に変わった。ダイヤンラヴァー、そのまま頭一つ抜け出して今、ゴールイン。
最後の最後でダイヤンラヴァー、四番人気が後ろからまとめて交わしていきました。鞍上
そして二着、三着は際どいところ。7番セトナイトヒナがやや優勢かと思われますが写真判定となりました。そして四着に3番アクアスプラッシュ、五着は9番ヤタノスイートピーと表示されています。着順確定までもうしばらくお待ちください。
以上、阪神競馬第一レース、牝馬限定『三歳未勝利戦』の模様をお伝えいたしました」
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