4月9日


 彼女から挑戦状を受け取ったものの、それに付き合っている暇はなかった。業者にゴミを引き取ってもらい、一通り部屋を掃除した。

 今日でこの家からもおさらばだ。

 ゴミと一緒に捨ててしまったのか、少しの寂しさもどこかに行ってしまい、僕は清々しい気分でその家を去った。

 家に帰る新幹線で、カバンに入れて置いた飲み物を探して漁っていると、『サクラの本』と現代文の教科書が見に止まった。

 帰りまではまだまだかかる。そう思ったら、暇つぶしに彼女の挑戦状を受けるのも悪くないと思った。


『挑戦状


 君に挑戦状だよ。 はいパチパチパチ!! 君が覚えているか分からないけれど、君 と過ごした約1週間は楽しいものだった。 (ホントだよ?)きっとそろそろお別れが来 る。私は最後に君に本を渡すだろう。 それを読んでから下の謎を解いてね。 ちゃんと読むんだゾ!!!!!


 ↑↑→↑→→←→↓↓↑↑←→→↑↑←←→

 ゑまろまあたほこりえてえさとわへねわすか


 サクラの本は恋愛の話

 少年が桜という先輩に片思いする話

 最後はきっと両思い』


 僕はもう一度しっかり挑戦状を読んだ。

 彼女が作った謎自体は簡単な問題だと思った。きっとひらがなの表を使った暗号だ。つまり...最初はゑの上だからゆ、次はまの上だから....まの上??そんなものない。

 早くも行き詰まった。僕は、その暗号を放置し次の文を読んだ。

『サクラの本は恋愛の話

 少年が桜という先輩に片思いする話

 最後はきっと両思い』

 この文もおかしかった。そもそも『サクラの本』は桜が後輩で男が先輩だ。学年が逆のはず.......ん?学年が逆?上下が逆?そしたら、桜が先輩に恋をするんだから片思いの向きも違うから...左右も逆??

「次は〜......」

 謎が解けそうなところで、降りる駅になったしまった。僕は慌てて挑戦状を折りたたみ、現代文の教科書に挟んでしまった。

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