本音 5月14日③
杏梨は暗い部屋の中でソファーにうずくまって泣いていた。
仁美を傷つけた。
彼女は優しい。本当は杏梨の話を聞いているだけでその強欲さにイラついていたに違いない。でもそれを出さずに最後まで杏梨の話を聞いてくれた。
私の嫉妬だからと前置きをして、杏梨が過度に傷付かないように気を遣ってくれた。
優しい彼女は負の感情を杏梨に向けたことで、彼女自身苦しんでいるだろう。
それでもきっと彼女は忙しい彼氏には甘えずに1人で耐えるのだ。
杏梨は自分が恥ずかしかった。
いかに自分が甘やかされていたか、恵まれていたか、気がついた。
金田に彼女になりたいといって、彼女にしてもらった。
金田は忙しい仕事の合間を縫って、ご飯に連れていってくれた。
連れていってもらったのは、いつも予約が必要な人気店で、美味しいものを沢山奢ってもらった。
杏梨が眠っているときでも、いつの間にか起きていて仕事のようなことをしていた。
金田は恐らく金田なりに頑張ってくれていた。
それなのに、杏梨は寂しいと言ってしまった。だから、金田は『寂しいなら他に男を作ってもいいよ』と言ったのだ。
その言葉だけに反応して、杏梨はそうたに甘えてしまった。
金田がそうたに頼んだのは金田の代わりだ。
そして、そうたはそれを実行していただけだ。
胸についたキスマーク、そうたは杏梨が愛された証につけただけだ。寂しくないように、あの時間を忘れないように。
昨日、そうたは金田の気持ちになって言ったと言っていた。それを思い出してそれでも寂しいなら俺はもう何もできないと。
私は昨夜何て言って、そうたはあのとき何て答えていた?
金田さんっすきっ
「俺もすきだよ。嬉しいよ」
寂しいの
「俺も寂しいよ。そんな思いさせてごめんな」
金田さん、私のこと……すき?
「好きじゃなかったら、こんなことしてないよ」
こんなこと、こんなことというのは、
そうたが杏梨にした愛撫のことではなくて、
杏梨が寂しくないように金田がそうたに杏梨を任せたことだ。
私、ちゃんと好かれてた。好かれてたから寂しくないようにしてもらえてた。
金田にちゃんと好かれてるのにそれでも寂しいなら、もう俺には何もできないとそうたは言ったのだ。
そうたは、昨夜、金田になって大事なことは全部伝えたのに、それでも杏梨が金田の気持ちを理解しないから、呆れたのだ。
金田と話したい。
そう思い、杏梨は金田に電話をかけた。
ぷるるるる、ぷるるるる
呼び出し音が鳴るが金田は全然出なかった。
忙しいのかな?
そう思い、電話を切ってメッセージを書いた。
5/14 21:21
杏梨:
お忙しいところすみません。
どうしても今日伝えたくて。
寂しいなんて言って、他の男の人に頼ってすみませんでした。
私が好きなのは金田さんです。甘えたいのは金田さんです。もうそうたには会いません。
寂しいなんて言いません。
だから、金田さんもそうたに私を任せないでください。
21:30
金田:
俺は変われないし、これからも今まで通りに仕事をする。
前に寂しいって言ったのは杏梨の本音なんじゃないのか?
21:32
杏梨:
寂しいのは本音です。
金田さんが好きだから寂しいんです。
21:45
金田:
別れよう。
今まで寂しい思いをさせて悪かった。
杏梨は金田に電話をかけたが、何度かけても金田はでなかった。
22:02
杏梨:
何でですか?
私は別れたくないです。
22:05
金田:
俺達合わないよ。
杏梨はもっと他の人といる方が幸せになれる。今までありがとう。
杏梨は金田にメッセージを送り続けたが、既読になるだけで返事がくることはなかった。
そのまま金田からの連絡を待ち続けたが、夜が明けても杏梨のスマホが鳴らなかった。
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