魔力無しですけど錬金術士にでもなってみますか

鬼戸アキラ

無題

おはようございます……と言っても今は真夜中ですが……。

8歳の私がこんな夜中に何をやってるかと言うと、自分で造りあげた『魔弾銃』で魔物を狩る為なのです。

ええ、じゃあ何故そんな物騒なモノを造ったのかって?

それは私が『魔力無し』と言う出来損ないだからですよ。

この世界では魔力を持つのは貴族としては当たり前の事なんです。


しかしながら、辺境伯の三男坊として生まれた私には生まれつき魔力が全く無かったのです。

持っていたのは前世のモノと思われる知識のみでしてね……父からは魔力無しの無能認定をされてますし……。それじゃあ廃嫡一直線って事で色々と考えた末に、その昔に曽祖父が凝りに凝っていたと言う魔導具のガラクタの中に【錬金釜】という魔導具が御座いまして、それを少々改造しまして色々と造り出して居るんです。

それで造り出す為には沢山の魔石が必要でしてね、それで夜中にコッソリと出かけては魔石を取りながら、ついでに狩った獲物で食事も摂る訳ですよ。穀潰しは満足な食事も与えられませんので……正に一石二鳥って奴ですね。

今日も『暗視ゴーグル』、『魔法障壁の腕輪』、『認識阻害のツナギ』と『無音ブーツ』の格好で出かけています。

……おっと……獲物のボーンラビットが現れましたよ。この子は魔石もあるし肉も美味いので狩りの対象です。

私は『魔弾銃』を構えて狙撃します。


パシュッ!


「ドサッ!」


……当たりましたね。


この『魔弾銃』はほとんど音がしませんので狩りには持ってこいですね。

私は周りに気をつけながら仕留めたボーンラビットに近づいて、『魔導袋』から最近造り出した自分の頭程の大きさの蜘蛛の形をしたオートマタ『解体君』を取り出してボーンラビットを解体させます。こうすれば解体の手間を省きながら解体の最中に襲われたりせずに済みますからね……所謂、危険防止という訳です。

『解体君』は木と木の間に蜘蛛の巣を張り、ボーンラビットを糸で引き上げて蜘蛛の巣に張り付けにします。そして八本の脚と牙を器用に使ってボーンラビットを綺麗に解体して行くのです。

その間、巣の真下に処理用のバケツを置いて内臓や血を落とせる様に準備をして、私は周りに気を付けながら次の獲物を探します。

『解体君』はベテランの冒険者くらいの解体スピードで魔石と肉と骨と角、そして皮を綺麗に分けていましたよ、流石に優秀です。角と骨と皮は錬金術の材料になります。魔石は【錬金釜】や魔導具の魔力として使用します。そして肉は私の食事です。

魔物避けの魔導具をセットしてから焚き火をして肉を焼きます。家ではマトモに食事を出してくれないので夜中に森で食事を摂るのです。

内臓や血は森のスライムの巣で処分します。スライムは何でも食べますからね。


この日はゴブリンを5匹、ボーンラビット2匹と中々良い稼ぎでした。ゴブリンは魔石だけ取って死骸は放置ですけどね。

そして暗い内に屋敷に戻ります。私は屋敷の誰も近寄らない離れに居ますから、夜中に出掛けても誰にも気づかれません。ご飯はいつも朝も遅い時間に1回だけメイドがさも面倒くさそうに持ってきます。残飯の様な食事なので魔導具を造り始めて狩りに出掛ける様になった3年ほど前から手をつけていません。全部バケツに捨てています。それを例の森のスライムに上げてるのです。食べたスライムが死んでないのでどうやら毒は入ってない様です。


4歳の頃から私は家のガラクタ置き場に行っては色々な壊れた魔導具をコッソリ持ち出し、自分の部屋で新たな魔導具を造ったり改造をしたりしているのです。そのキッカケとなったのは、書庫で見た古い魔道士の資料に書いてあった古びた【錬金釜】を発見した時からでした。

本来、【錬金釜】は自分の魔力を使って錬金術を行い、薬や魔導具を造り出す物です。

先ずは造り出す物をイメージして魔力を乗せて【錬金釜】に呪文【スペル】を詠唱します。すると必要な材料が水晶玉に返って来るので、それを用意して【錬金釜】に入れ、また魔力を加えながら動かすとイメージの物が造り出される訳です。

この様な【錬金釜】は特殊な技術と経験を持つ魔道士しか扱えません。我がファイアット辺境伯家では曾祖父の時代にそういった優秀な魔道士を雇って居た様なのです。しかし、今の当主……私の父カールはそのような事にお金は一銭も使いません。その為にこの【錬金釜】も使われる事無くガラクタ置き場の肥やしになっていたのです。恐らく父は存在自体も忘れてる……もしくは知らないのでは無いでしょうか。

私はいつも本を読んでいた書庫から、その昔曽祖父に仕えていた魔道士が遺した錬金術の資料をコッソリ持ち出して必死に勉強を重ねました。そして魔力の無い私が辿り着いた結論は『【錬金釜】を使う魔力が無いなら魔石の魔力を使う』という事でした。そこで私は壊れた魔導具から魔石を魔力に変換する装置を取り出します。それを箱状の装置に改造して【錬金釜】に取り付けて魔石を入れる。そして魔力を取り出して動力として使うのです。

また、呪文【スペル】を入れるのには壊れたおもちゃの楽器の鍵盤を使い、キーボードを自作して呪文【スペル】を打ち込む様に改造し、打ち込み用の水晶玉を取り付けしました。前世に使っていた液晶モニターのパソコンでプログラミングする様なイメージですね。

コレを動かす為に先ずは魔石を集める為の狩りの道具が必要でした。そこで造り出したのが『魔弾銃』です。幸いガラクタ置き場に必要な材料とクズ魔石が沢山残っていたのでそれを大量に集めて造り上げたのです。

先ずは呪文【スペル】をキーボードで打ち込みます。呪文【スペル】は古代クリム語を使い、コレを単語で表現します。試作機では試行錯誤の上でこの様な呪文【スペル】を魔石の魔力を使って打ち込みました。



《【魔弾銃】:『動力【魔石、無属性】』『飛翔体【球状[無属性魔力]】』『発射形態【魔力圧縮[前方解放]】』『発射動作【引鉄、指】』『形状【筒[鉄]、持ち手[木材]】』》



こうして造った試作機ですが、試射テストで1発撃つ事に銃身が傷付いてしまい、何度か撃つと壊れてしまいました。そして撃った魔力も遅く、飛び方が安定しませんでした。しかも反動も大きくて使い物になりません。大きく壊れてしまったので、直しが効きませんでしたのでもう一度造り直します。そこでこの様に打ち直します。



《【魔弾銃】:『動力【魔石、無属性】』『飛翔体【紡錘状[無属性魔力、硬度強]】』『発射形態【魔力圧縮[圧縮強度強、前方解放]】』『発射時飛翔体【分散抑止[筒状]、加速、高速回転】』

『発射時反動【反動無効化】』『発射動作【引鉄、指】』『形状【鉄筒[鉄、強度強]】【持ち手[木材、安定]】』》



飛翔体は弾の形を球状から紡錘状に変え、硬度強を入れて硬くします。魔力圧縮の強度を更に上げて、発射時の威力を上げます。その上で飛翔体発射時に筒状に分散抑止を掛け、更に加速を掛けた上にライフリングの様なきりもみ回転を高速で掛ける事にしました。これにより飛距離と貫通力が上がります。銃身の鉄も強度を上げたので傷もつかずに壊れなくなりました。


後は細かな改良を重ねながら仕上げて行きます。改造する際も『魔弾銃』を【錬金釜】に入れてから改造したいイメージを呪文【スペル】を打ち込みます。例えば……飛翔体を属性魔法にしたい場合……。



《【魔弾銃】:『改造『飛翔体【紡錘状[火属性魔力、ファイヤーボール]】』』》



因みにこの様に属性魔法でバレットやファイヤーボール等の物も大分後で試しましたが、銃身が異常に大きくなり重過ぎて持ち歩きが無理でした……。

その際元に戻すのも『魔弾銃』を【錬金釜】に入れて、呪文【スペル】を打ち込みます。



《【魔弾銃】:『再構築『飛翔体【紡錘状[無属性魔力、硬度強]】』』》



すると元に戻り、追加した材料も若干減りますが戻って来ます。


コレで造った試作機で遂に魔物を狩る事が出来る様になりました。

そして魔石や魔物の素材を手に入れられる様になったのです。


それからガラクタ置き場で面白い物を発見しました。それは壊れた『魔導袋』です。しかも計5袋も……私は【錬金釜】に比較的マシな壊れた『魔導袋』を入れて修理してみました。



《【魔導袋】:『再構築【修理】』》



すると必要な材料が水晶玉に現れます。しかし、ユニコーンの角の結晶とかワイバーンの爪などかなり無理筋な材料が沢山出て来ました……。仕方が無いので他の壊れた『魔導袋』を分解してみる事にしたのです。



《【魔導袋】:『分解【素材抽出】』》



すると2つ目の『魔導袋』を分解した素材で修理用の材料を手に入れる事が出来たのです。

こうして『魔導袋』を手に入れた私は【錬金釜】と使えそうなガラクタを『魔導袋』に入れてガラクタ置き場から離れの自分の部屋に移動させたのです。


この様にして私は生活をして来たのです。恐らく12歳になる頃には廃嫡は間違いないでしょうから、それ迄には屋敷の外に出されても大丈夫な様に密かに準備をしなければなりませんからね。ファイアット家の者では無い平民の『リック』としての生活をです。



空に二つある月が気味の悪いほど真っ赤に染まったとある夜、いつもの様に真夜中に出掛けますと中々獲物が見つかりません……一体どうしたのか?私はもう少し遠くまで行く事にします。何故ならお腹が空いていたからです……。

しかし、魔物は全く見当たりません……。ここまで来ての空振りはかなり珍しい……そのような事を思っていると何やら遠くの方から風に乗って音が聞こえて来ました。何かが沢山動いてる様な……。

その時突然に後ろから声を掛けられたのです。


「おい、ここで何をしている?」


私は咄嗟に振り向きざまに『魔弾銃』を構えました!そこにはプロレスラーの様なデカい男が立っていたのです。私は銃を下ろしてその人にどう言おうか考えてました。


「ん?ソイツは魔導具か?」


「……あ、はい……その……び、病気の師匠の……作品です……」


咄嗟に居もしない師匠を病人にしてしまいました……ごめんなさい……。


「って事は魔道士か?それにしちゃあ魔力を感じないが……」


「はい……私は魔力無しなので……下働きで……狩りをして素材と魔石を集めてます」


「年端も行かないガキがか?ソイツは大変だな……じゃあ今の魔導具が武器なのか?」


「は、はい……魔力の玉が飛び出します」


私は『魔弾銃』で木を撃ちますと小さな穴が開いて貫通しました。


「おいおい……こりゃ……貫通してるじゃねーか!」


「動力は魔石です……コレで魔物を倒して魔石と素材を集めてます」


「そうか……コイツはスゲエな……まあ良い。とにかくオレと一緒に来い!此処はかなりヤバいんだ!早く街まで避難しないと!」


「ひ、避難??」


「アッチから音が聞こえるだろ?ありゃあ魔物の大群だ!」


「魔物……まさか……」


「スタンピードだ!さあ!早く!」


「あー師匠がー」


「もう間に合わねえ!可哀想だが諦めろ!」


私はそのプロレスラーみたいな人に抱えられる様に街まで運ばれてしまったのです。

運ばれた街は恐らくランドルーの街だと思われます。ファイアット辺境伯領にある小さな規模の街です。読んだ本によれば昔は城として作られた場所を祖父の時代に城塞都市にした様です。


「おい、坊主!名前は?」


「リ、リックです……」


「リックか、オレはバジーナって冒険者だ。お前も武器持ってるなら手伝ってもらうぞ!人が足りねぇんだ!」


そう言うとバジーナさんは私を担いで城壁の上の方に行きました。そこには魔道士の様な人達や弓矢を持ってる人が何人も居ます。


「ここから来る魔物を攻撃してくれ!味方には当てるなよ!!」


「は、はい……」


「おいおい……バジーナ!此処はガキの来る場所じゃねーぞ!」


「ソイツは魔導具で攻撃出来るぞ!今、魔石を取ってくるから用意して待ってろ!」


バジーナさんはそのまま行ってしまいました……コレは大変困った事になりました。家を黙って出て来てますから、このままだととんでもない事になりそうです……まあ、スタンピード自体がとんでもない事になってるんですがね……。


「坊主!名前は?」


「リ、リックです……」


「リックか!それがお前の得物か?!」


「はい……『魔弾銃』と言います」


「マダンジユ?……まあ良いや!攻撃は出来るんだな??」


「あ、はい、有効射程距離は200~300mくらいはあります」


「200~300m??結構有るじゃねーか!じゃあ撃ちまくって貰うぞ!」


「は、はい……」


「オイラはレストンだ!宜しくなリック!」


「よ、よろしくお願いします……」


何か成り行きとはいえどんどんと不味い方向に転がって行く気がします。

そのうちにバジーナさんが大きな袋を持って来ました。どうやら魔石が入っている様です。


「小さい魔石一つで何発撃てる?」


「小さな魔石なら3発は……行けるかと……」


「ほう、なら此処に300は有るだろうから……えーっと……」


「900発ですね……」


「お、おう!計算早ぇな!まあガンガン撃っちまえや!」


「ガンガンって……」


するとレストンさんが「奴は冒険者ギルドの副ギルド長だから魔石を使うのは気にしなくて良いぞ」と教えてくれました……どうやらプロレスラーじゃ無かったみたいです。あっ……そう言えば冒険者だと言ってましたね、すっかり失念していました……。


しばらくすると物凄い数の魔物達が右から左の方向に向かうのが『暗視ゴーグル』で見えました。その中からこちら側に分かれてやって来る魔物達が居ます。


「クソッ……枝分かれしてきやがった!おい!こちらにやって来るぞ!」


仕方が無いので私は『魔弾銃』の持ち手をスライドさせて開き、魔石を何個か入れ込みます。そして持ち手を戻してスイッチを押すと自動的に魔石から魔力を抽出します。私は『暗視ゴーグル』を額にずらして『魔弾銃』専用に造った『暗視スコープ』を取り付けて狙いを付けます。


「しっかり引き付けてから撃てよ!!」


私は狙いが定まったので撃って行きます。


パシュッ!


当たりました……直ぐに次を狙います。


パシュッ!


パシュッ!


「おい!撃つのがはえ……ん?当たってんのか??」


「どんどん撃ちますね」


パシュッ!


機械的に魔物を狙撃して行きます……撃ち漏らしは無い様です。しかしながら魔物達の群れは止まりません……撃っても撃っても減らないのです……。

でも、仕方ありません……何せ私は魔力無しの出来損ないで有ろうともファイアット家の三男です。民を守る為にやる事をやるだけです。

私が魔物をどんどんと射殺すると周りの人達も負けじと魔物に攻撃をして行きます。


「小僧に負けらんねぇぞ!!ファイヤーボール!!」


「うぉらあぁぁ!!どんどん矢を放てえぇ!!」


城壁の上から一斉に魔法やら矢がどんどんと魔物達の群れに放たれます。しかし、数が多過ぎて魔物達の勢いは止まりません……。もう少しで城壁に突っ込んで来そうな勢いです。

その時でした、バジーナさんのデカい声が響き渡ります。


「土魔道士!!ロックウォール!!」


その合図で巨大なロックウォールが城壁の前に何重にも立ち上りました!そのロックウォールに魔物達が次々と突っ込んで行きます!私はひたすら『魔弾銃』で撃ち続けていました。

魔物達がロックウォールに阻まれて壁にぶち当たってその後に続く魔物達に圧し潰されて行きます……ロックウォールが徐々に破壊されますが勢いが徐々に無くなります。魔物達の死骸が肉の壁になり、それも魔物達の勢いを止めているのです。止まるかと思ったその時、魔物達を吹き飛ばしながら城壁に突っ込んできた化け物がいました。物凄い大きさです……こんな大きな魔物は見た事が有りません。


「う、嘘だろ……ヘビーモスか?……」


「も、もう……お終いだ……」


私は持ち手をスライドさせ、ありったけの魔石を詰め込んでから、銃口の先端にサイレンサーの様な部品を取り付けます。コレは射出される魔力を更に増幅し、超高速回転と速度を増す魔導具なのです。威力が強過ぎてまだ一度しか試射してませんが……この際ですから丁度良いので耐久性を確かめる事にします。


バシュン!!!


音がいつもより大きいです……

私はヘビーモスの目を狙いました。


『グラアアアアア!!!!』


命中です。

ヘビーモスの勢いが減速しました。

もう一つの目を狙います。


バシュン!!!


『ギャアアアアア!!!!』


命中しました。

ヘビーモスが遂に止まりました。

その時、またバジーナさんの大声が響き渡ります。


「今だ!!一斉に攻撃しろ!!」


その声に魔道士達や弓兵が攻撃を開始します!ヘビーモスが両目を潰されて暴れ回っているのでそれに魔物達が巻き込まれて、完全に停止しています。飛び道具や魔法を使える者達はひたすらヘビーモスに攻撃して行きました。私もヘビーモスの傷を狙って撃ちまくります。


バシュン!!!


大暴れしているヘビーモスに中々ピンポイントで傷口をヒット出来ません。皮は流石に分厚いので少ししか傷付かないのです。それでも構わずに皆と撃ちまくります。その内大きな魔法をヘビーモスの顔にぶち当てた魔道士が居まして大きな傷をヘビーモスが負いました。私はその大きな傷を狙って発射し続けます。


バシュン!!!


バシュン!!!


……


誰の攻撃が効いたのかは分かりませんがヘビーモスの動きが完全に止まりました……我々はヘビーモスを止めたのです!


「うおおおおぉ!!!ヘビーモスを仕留めたぞ!!」


「よし!お前ら続けえええ!!」


城門が開いて前衛職の冒険者達が魔物達に一斉に突っ込んで行きます。勢いさえ止めてしまえば後は前衛の冒険者達が魔物達を駆逐するのは可能です。我々城壁の者たちも魔道士以外は攻撃します。魔道士達はほとんど魔力切れを起こして倒れています。私は耐久性を確かめられたので部品を取り外してからまた撃ち始めます。今度は味方のサポートです……味方を撃たない様に気を付けます。

魔物達に突撃して行った前衛職の冒険者は物凄い強さです。その勢いに圧倒された魔物達が散り散りに逃げて行きます。追撃戦となった前衛職を尻目に我々城壁の者達は一斉に叫び勝利を喜びます。


「よっしゃー!!凌ぎ切ったぞぉぉ!!」


「やったぜ!!魔物共ざまぁみろい!!」


私はそのまま座り込んで、皆が喜んでいるのを見ていました……。その時にハッと気付きました!あの魔物達の本隊は私の屋敷の方面に向かった事に気付いたのです。私は真っ青になりました……直ぐに向かわなければなりません。私は魔石を少しだけ頂いてそのまま城壁を駆け下ります。


「おい!小僧どこに……」


後ろの方からレストンさんの声がしますが構わずにそのまま城門に向かいます。城門はまだ開いたままだったのでそのまま出て行きます。


「そっちはまだ危ない!戻れ!」


その声を振り切って私は屋敷の方に向かいました。途中で何度も息切れして休み休みに向かいました……コレは走り込みが必要ですね……。途中で魔物達を沢山倒しながら向かいました。

そして、到着すると見るも無惨な状況でした……城壁が破壊されて街は完全に崩壊していました。残ってる魔物達を次々と駆除しながら屋敷の方に向かうと建物は完全に破壊されて瓦礫しか残っていませんでした。

そのまま家族を探し出そうかと思いましたが、魔物達がまだ残っており襲いかかって来るので仕方なく撤退しました。


私はそのままランドルーの街の方に戻ります……途中でお腹が鳴ったので、まだ食事を取っていない事に気が付きました。途中で襲いかかって来たグランドボアを射殺して『解体君』に解体させながら周囲を見渡し警戒します。直ぐに魔導コンロを用意して解体した肉を焼いて食べました。残りの肉や素材を『魔導袋』に入れて死んだ魔物から素材や魔石を回収しながら戻りました。


ランドルーの城門に到着するとバジーナさんが駆け寄って来ました。


「馬鹿野郎が!!心配掛けやがって!何処に行ってたんだ!」


「あ……すいません……あの、師匠を……」


また居もしない師匠を出してしまいました……。


「……それで?」


「建物は完全に破壊されて……何も有りませんでした……」


「そうか……逃げてれば良いけどな……」


「は、はい……」


「とにかくコッチに来い!コレからが忙しいんだ!お前も手伝え!」


バジーナさんに連行されて冒険者ギルドに連れて行かれました。そこでレストンさんと再会したのですが、やはり叱られてしまいました。


ギルドではこの度の勝利を祝して皆が喜んでいました。私はぼーっとそれを眺めます。


(さて……コレから私はどうしたら良いのだろうか……このまま家族を探し出そうか。……いや、探したところであの扱いだし。それならいっその事このまま何処かに行ってしまおうか……)


そんな事を考えているとレストンさんが飲み物を持ってやって来ました。


「リック、コレでも飲め。師匠の事は何と言うか……」


「ありがとうございます。いただきます」


私は飲み物を飲みながらホッと息をつきました。するとレストンさんは話し掛けて来ました。


「リック、戻る所がなければこの街に居ても良いんだぞ。今回は大活躍だったからな」


「そんな……大活躍だなんて……」


「いやいや謙遜するなよ。お前の倒した魔物の数は半端ないぞ……」


すると城壁に居た魔道士や弓の冒険者達もやって来ました。


「おお!魔導具の坊主!ここに居たか!」


「いやぁ大したもんだ!ヘビーモスの目を潰したのは小僧だからな!」


などと口々に褒めてくれます。一体どうしたんでしょうか?褒め殺しでしょうか?

窓の外は白々と夜が明けて来ました。そこにバジーナさんがやって来ました。そして大声で皆に話をし出します。


「おい!野郎共!お待ちかねのお宝の時間だ!外に出ろ!」


「おおお!!!」


皆が顔を綻ばせながら外に向かっていきます。私もレストンさんに連れられて城門の外に向かいました。


「さあ、お前ら!バンバン回収していけよ!ヘビーモスの解体はギルド職員全員で取り掛かるぞ!」


そうでした……この大量の魔物達の死骸から素材や魔石を回収しなければなりません。私は比較的マトモな死骸の有る場所で『解体君』を取り出して次々と魔物の解体をさせました。レストンさん達は驚いた様にその解体作業を眺めていました。私は損傷の激しい魔物から魔石を回収し、素材も取れればしっかりと取ります。

バジーナさんは戻って来ると『解体君』を見てびっくりしていました。


「な、何なんだコイツは……」


「それは私のつ……師匠が造った魔導具で『解体君』です。魔物の解体に使います」


「こりゃ凄いな……解体職員の仕事が無くなるぞ……」


そうか、解体の仕事で食べてる人も居るんですね。その仕事を奪うのは不味いです。


「あーでも師匠がー」


「ああ、そうだったな……お前の師匠は……行方知れずだからな」


もう、死んだ事にしても良いと思いますが……最初から存在しませんからね。とにかく沢山解体しましょう。


「解体した半分はお前らの取り分だからな!しっかりやれよ!」


「おう!!」


「よっしゃー!」


半分も自分の物に出来るのか……コレは良い仕事ですね。私は『解体君』とで二人分働けますから。

こうして丸三日かけて皆で解体作業と魔物達の始末を行ったのです。始末と言っても穴を掘らせてその中に解体で残った部位をぶん投げて火魔法で燃やすだけですが……。こうしてアンデッド化しない様にするのが当たり前の様です。


冒険者ギルドでは領都の状況を把握しており、領都に冒険者達を派遣して調査と魔物達の駆逐を依頼して行かせてるそうです。


私は解体した魔石と素材を渡して、その半分をそのまま受け取りました。もちろん魔導具製作に使う為です。


「リック、お前はいくつだ?」


「年齢は8歳です」


「はぁ……やっぱりな……」


「何か問題でも?」


「お前の歳じゃ冒険者登録出来ないんだ」


「そうなんですか?知りませんでした」


レストンさんが渋い顔でその様な事を言っています。まあ、冒険者登録する必要はないのでは無いでしょうか?


「冒険者登録出来ないって事は今回のスタンピードの報奨金が貰えねぇんだ……」


「でも、魔石とか沢山貰いましたよ?」


「それはお宝だから別だ。今回の防衛戦の報奨金が出るんだよ。でも冒険者登録が無いと報奨金の類いは受け取りが不可能なんだ」


「なるほど……レストンさんは物知りですねぇ!」


「イヤイヤ、このくらいは誰でも知ってるさ。しかし、困ったな……」


「私は錬金術士の弟子です。最初から冒険者登録する気は有りませんでしたが……」


「錬金術士でも冒険者登録する奴は多いぞ。要らない素材を売りに出せるし、冒険者として活躍すれば色々な奴と顔繋ぎが出来るからな。護衛をすれば商人や貴族と、討伐に参加すれば騎士団や領主とかな」


ほう……確かに錬金術で身を立てるには客が必要か……それをゲットするには丁度良い訳ですか。なるほどコレは一つ勉強になりましたね。


「まあ、仕方が無いですよ。流石に歳は誤魔化せられませんからね」


「それならいっその事誤魔化してみるか?」


後ろを振り向くとバジーナさんが後ろから声を掛けて来たのです。今、誤魔化してみるとかおっしゃいましたが、バジーナさんは冒険者ギルドの偉い人では無かったですかね?


「そんな事を言って良いのですか?」


「構わねぇよ。オレが認めちまえば誰も文句は言わねえさ。それにお前が10歳だと言えばそれ以上調べようが無いだろ?」


「なるほど、嘘も方便と言いますからね……」


「何だそりゃ??とにかく10歳なら登録可能だ。とっとと窓口で登録して来い!」


こうして私は冒険者登録をしてしまいました……2歳もサバを読んで……。冒険者登録が終わりますとギルド証を渡されまして、その後、報奨金を受け取りました。冒険者は皆さん喜んで受け取っていました。どうもお金の価値が分かってないので本当に困りました。


レストンさんから『緑の狐』と言う宿屋を教えてもらい、しばらくそこに滞在する事にしました。

怪我人が多く居た為にポーションが不足してましてね、バジーナさんからポーション作りを頼まれたのですよ。錬金術は下働きと言う体で居たのだから出来ないと言えば良かったのですが、ポーション作りは前からやってみたかったのでその誘惑に負けてしまいました……。

先ずは魔石が必要ですと言うとバジーナさんは首を傾げていました。私の作り方は特殊だからと納得してもらいましたが、普通の錬金術士ならポーション作りに魔石は必要無いんですよね。【錬金釜】にポーションのイメージを呪文【スペル】で打ち込みます。薬草はブギ草とアセラル草の2種類が必要と出ました。そうしたら薬草集めですが素人に簡単には見つかりません。そこで『暗視ゴーグル』に薬草を見分ける機能を付けることにしました。


《【暗視ゴーグル】:『改造『分析判別【薬草[ブギ草、アセラル草]】』』》


コレでお試しに10束ほど頂いた中から1束のブギ草とアセラル草とデスアントの眼を【錬金釜】に『暗視ゴーグル』と入れて呪文【スペル】を打ち込み、釜を回しますと『暗視ゴーグル』に薬草を判別する機能が付与されました。

そして残っていたブギ草とアセラル草を【錬金釜】に入れて呪文【スペル】を打ち込み回しますとポーションの出来上がりです。コレをガラスの小瓶に入れれば完成です。

私はギルドに作った分を納品してから薬草を集めに行きます。スタンピードが起こった方面は荒らされてますから真逆の森で探します。ポツポツとブギ草の反応が有り半分だけ採取します。全部採ってしまうとその場所のブギ草が無くなってしまうからです。その後アセラル草が群生している場所を見つけて採取しました。

宿に帰ってから仕分けると60束ほど採取出来ておりました。コレを直ぐに【錬金釜】でポーションを生成していきます。

ギルドから小瓶を沢山貰って来ていたので全部小瓶に入れる事が出来ました。

ギルドに納品に行くと受付の方が唖然とした表情をしてから何処かに行ってしまいました……するとバジーナさんと一緒に戻って来ました。


「……もうこんなに持って来たのか……」


「は、はい……お急ぎとお聞きしてましたので……」


「ああ……お急ぎではあるけどな……それにお前が作ったポーションの質がエラく良いんだよな……」


「はぁ……し、師匠が良いですから……」


「ちなみにお前の師匠って何て名前だ?有名な錬金術士なんじゃねーか?」


「えっと…………エ、エジソン……です……」


私は咄嗟に世界の発明王を錬金術士にしてしまいました……エジソンさんごめんなさい……。


「うむ……聞いた事がねぇな……まあ腕が良くても無名の錬金術士なんてそこそこ居るからな……とりあえずコレは受け取っておく。金の計算をさせるからちょっと待ってな」


私はどうやらちょっとやり過ぎた様です……あまり無茶をするともっと怪しまれそうですね。これからはソコソコに働いて魔石を集めるとしますか……。その後受け取ったお金もかなりの金額で驚きましたが……。


それからはポーションを作りながら魔物を倒しつつ魔石を集め続けまして2ヶ月ほど経ちました。

スタンピードの復興も徐々に進んで行きました。風の噂ではファイアット辺境伯はスタンピードを止めようと領都に残ったが魔物達によって殲滅されたそうです。逃げ延びた長兄のダイラートが跡目を継いで復興に尽力しているそうです。

私は考えた末に兄の邪魔をしたくは無いのでこのまま消える事にしました。兄とは一度だけ遊んで頂いた記憶が有ります。私の中では唯一の優しい思い出です。


こうなったら私も覚悟を決めて、魔力無しですけど錬金術士にでもなってみますか……。


翌日、私はバジーナさんとレストンさんにこの街を出ると話をしました。


「そうか……寂しくなるな」


「わがまま言ってすいません……でも此処で色々と経験をした事で他の世界も見てみたくなりました」


「って事は、リックも冒険者としての自覚が出て来たんだろうな。冒険者とはそういうもんだ」


「私は錬金術士ですけどね……」


「そうだったな!フハハハ!」


「しかし、大丈夫なのか?向こうの国は山岳地帯を越えないとだぞ?街道は壊されて全く機能してねぇしな」


「それは問題ありません」


私は外に出ると魔導袋から6本脚のロバの様なオートマタを出しました。二人共ドン引きしてますが……何故でしょうか?


「コレは私のつ……師匠が作ってくれた『楽旅君』です。速さは大して有りませんが、何処でも楽に移動出来ます」


「……こんな物を持っていたのか……つうか魔導袋を持ってたのか……」


「マジで魔導袋は人前で見せるなよ……強奪されるぞ」


「そ、そうなのですね……気を付けます……」


「このオートマタも人にあまり見られるなよ……。とにかくお前は色んな物を持ち過ぎだ。普通は魔導具は貴族しか持ってないんだからな」


「そうだぞ。魔導袋は大きい袋の中にでも入れるか懐に仕舞っておけ。あの『マダンジユ』とか言うのも狩りの時以外は仕舞って人に見られない様にするんだぞ。分かったな?」


「はい……ありがとうございます。気を付けます……」


こうして私は街を出ました。

これから道無き山岳地帯を歩くので『楽旅君』に乗りました。6本脚で器用に道無き道を歩くのでとても助かります。魔石はかなり使うのですがね……。


こうして私は辺境領を離れて新たな地へと旅立ったのです。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇



あの悪夢の様なスタンピードから半年……ようやく被害を免れた城塞都市であるクワントラから、私はファイアット家の嫡男として再起を計り、何とか徐々にではあるが建て直しが出来つつあった。

運が良かったのは主力の騎士団の次に頼りにしていた第二魔道部隊が、たまたまオークの群れを討伐に出ていた事でスタンピードの被害を免れた事である。もし彼らが領都に居たらあの父の事だ、彼らにも無駄に領都防衛をさせて騎士団諸共全滅に追い込まれていただろう。

私はあの日姿を消した末弟の行方を探させていた。何でもリックを名乗る者が居たらしいとの噂が耳に入ったからだ。


「どうであった?」


「ハッ、ランドルーでの噂を調査した所、錬金術士の弟子と言う子供が居たらしいのですが、既に街を離れた後でした……」


「錬金術士の弟子?」


「ランドルーの街に襲いかかったスタンピードの際に不思議な魔道具……『マダンジユー』?なる武器で多くの魔物を倒し、更にヘビーモスの両目を撃ち抜いたとか」


「……その錬金術士の弟子が『リック』と名乗っていたと?」


「はい……冒険者登録では10歳だったとの話です。スタンピード後はポーションなどを作りながら2ヶ月ほど過ごしていたらしいですが、急に旅に出るとランドルーの街を出たそうです」


「……リックは8歳だ……いくら何でも10歳には見えないし、冒険者ギルドで咎められるであろう……しかも錬金術などとても……」


「はい……しかし、目撃情報では風体はリック様に似てはいる様でしたが……」


「お前も知ってる通り、リックは『魔力無し』だ。錬金術などを使える訳があるまい……ましてやそんな魔導具を持っているはずも無い。そもそも金を持っていないのだからな……」


「そうでした……更にその『リック』なる者は魔力無しにも拘らずポーションを作っていたとか……それもかなりの高品質だった様です」


「それならは余計に家のリックではあるまいよ。恐らくその子供は魔力を隠していたのであろう……貧しい平民の幼い魔力持ちは奴隷にされたりするからな……」


「ああ……なるほど確かに……では探索は?」


「もう良い……致し方あるまいよ……。その『リック』なる子供が仮に街にいたのなら家で働いてもらいたいくらいだがな。まあ、探すほどの事もあるまい……ご苦労だった、仕事に戻ってくれ」


「はい……では、失礼致します……」


あの日……愚かな父に幽閉同然の仕打ちを受けていた末弟リックは、あのスタンピードが襲って来た最中に屋敷より出奔し行方不明となった……。

父が残ると決めた時、私は避難を選択して従者達とクワントラに立てこもる事にした。あの城塞都市は曽祖父の代にスタンピードを防いだ実績があるからだ。私はそこにリックを一緒に連れて行こうと離れに従者と向かったのだ。

着いた離れでリックが受けていた仕打ちを初めて知った……。まるで貧しい平民の様な部屋に閉じ込められ、父からは足りぬとは言えソコソコの金額を与えられていたのを使用人共が共謀して懐に溜め込んでいたのだ。一日一食しか与えてなかったなどの件を聞いてから怒りが収まらず、私はニヤ付きながら話すその使用人を生まれて初めて魔法で焼き殺した。そして従者達に他の使用人全員の首をその場で跳ねさせた。

その後、愚か者の父は私が撤退を進言したにも関わらず、全く意に介さず、我が領土の有能な騎士団を盾にして領都を守ろうとして自分も魔物達の群れに殺された。そもそもスタンピードをマトモに防ごう等と不可能な事をどうして考えたのか?……全く意味不明だ。

本当に愚かしい……あの馬鹿な父は死んで当然だが、騎士団の者達には本当に申し訳無い事をした……。

愚かな父が死んだ今ならリックを普通に貴族としての教育をして、しっかり身を立てられるように出来たはずのだが……。


何故もっと早くに動けなかったのか……父にもっと進言して助けられなかったのか……考える程に本当に口惜しい……。

私が王都の魔法学院から卒業して帰ったのがスタンピードの1週間前……まさかあの様な酷い目に合わされていたとは……。歳の離れた弟とは中々会う事が叶わず、王都に行く前に遊んであげたのがリックを見た最期になってしまった……。

あのスタンピードの中で無力な弟では生きてる可能性はまず有るまい……本当に可哀想な事をしてしまった。


我が愛する弟よ……愚かな兄を許して欲しい……。神よ……願わくば弟を温かく迎えて欲しい……。

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魔力無しですけど錬金術士にでもなってみますか 鬼戸アキラ @yamihoppy0305

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