第2話 恋しさは口寂しさと似てるから
コンビニ前でキミを待つ。
まるで、明かりに群がる蛾のように。
スマホに打ち込む文字は、創作してる文章と違って乱雑で。推敲に必要も音節をあわせることもいらなくて。すっごく楽で。ちょっとつまらない。
でも。柚葵に対して送るときだけは少しちがう。
何度も書いては消して。また書いて。相手がそれを受け取ったときにどう思うかを想像して。
『話、おわった?』
こんなシンプルな一文にも時間をかけてしまう。
<おわったよ。いまからそっち向かうね>
『コンビニの入り口まえで、待ってます。コーヒーに砂糖ひつようですか?』
<なにそれ短歌?w ブラックでいいよ私>
ほんとは聞きたいことは色々あって。
でも、それは会ってからでもいいと思うし。
会ったらあったで、後回しでいいっておもうんだろね。
「……また、コーンこんなに残ってる」
温かいコーンポタージュの缶を飲み干したあと、プルタブの穴をのぞき込んで。そこに残ったコーンの粒を数える。
10個くらいあるんじゃないかな。
周りをみて誰も人がいないことを確認して思いっきり頭を上にあげて。逆さにした缶からコーンを口でキャッチしようとするけど。
特に落ちてこない。
(首、痛い……)
なにやってるんだろ。わたし。
――ごめん、今日ちょっとこのあと秋吉くんに呼ばれてて。さくっと話してくるね
多分告白とか、されてるんだろーなー。
三舟柚葵って女の子はモテる。
なんで、文芸部みたいな地味な部活にいるんだろーって思うけど、で、なんでわたしみたいなのと一緒にいようとするんだろう。
彼女はミステリー小説をよく書くけど、一番のミステリーだよ。
「……粒とれた?」
「……!!///」
その少しハスキーな彼女の声にわたしは驚いてしまう。
思わず柚葵の分のカップのコーヒーを落とすかと思った。
「みてたの?」
「うん、あたまぐーーーってあげてたところから」
「……えぇ」
げんなりしながら、はい、とコーヒーを手渡す。
――告白だったんでしょ? どうだった?
言えないなぁ。
「さっきの上の句」
「え?」
「百(ひゃく)はたくさんのって意味かな? で、
たった一つの歌からここまで推測するのが柚葵なんだ。
ミステリー作家だよね。
わたしは、柚葵とわたしの分お揃いで縒り合わせたそれを制服のポケットから取り出す。
「よくわかるね。えっと、これなんだけど」
「可愛い! 綺麗な色づかい。そっか桃色と紅と白。百にはたくさんって意味もあるけど。百はモモとも詠めるものね」
そして、わたしの分は藍色と水色と白を組み合わせたもの。
「あー、察しがいい。さすが柚葵。あとね、それ柚葵の分。こっちがわたしの」
「え? いいの? 今日イチうれしー」
「告白は? 秋吉くんの」
「藍里も察しいいね。断ったよもちろん。事前にLINEで告白はされてたんだ。だから、話はわかってたんだけど」
「そこ、もちろんなんだ?」
「うん。だって皆さびしーから、誰でもいいんだよ。秋吉くんもそんな感じだと思ったし」
「柚葵はさみしくないの?」
「んー、全然。学校行けば藍里がいるもん」
なんでこんなさらっと言えるんだろう。
わたしは思わず目をまるくして、彼女の瞳を見てしまう。思わず引き込まれそうなくらいにまっすぐな目をした彼女を。
『恋しさは口寂しさと似てるから。ビターがいいの、気になるカロリー』
なんてね。と柚葵はさらっと歌を詠む。
なんでこんなさらっと言えるんだろう。二度目。
「わたしは、甘いほうがいいなー。恋もお菓子も」
「そう? でも、わたしを選ぶと苦いよ。柚子だもん」
「へ……?」
「さっきの上の句に百合が隠れてた。だからあれは告白だとおもってたんだけど」
「……//」
なんでこんなさらっと言えるんだろう。三度目。
「だから、わたしも感情のおもむくままに。でいいかなって」
「……それって」
「藍里、私たちつきあおっか」
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
作中短歌
・コンビニの入り口まえで、待ってます。コーヒーに砂糖ひつようですか?
・恋しさは口寂しさと似てるから。ビターがいいの、気になるカロリー
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