去具

エリー.ファー

去具

 別れのために集めた道具を燃やす。

 私はここにいることに決めた。

 どこにも行かず、この森を守る。

 多くの人がやって来ては、この森の命を奪おうとした。きっと、何かしらの考えがあっての行動だろうし、一応の正義もあるのだろう。

 私は、今日も正義の使者のなり損ねである。

 一生に一度の過ちを誰かに見てもらいたくて、今日も森の中に自分を生み出しただけに過ぎない。

 安全からは程遠い人生。しかし、窮屈ではないから、いつまでも浸っていられる自分の哲学。

 嘘をつく者はいない。代わりに真実を語る者もいない。

 誰もいない。

 私のみの森である。

 命の声がするが、私に語り掛けてくれるわけではない。



 犯罪者のくせに、今更何を言ってるんだ。

 選べよ。ここで選べって。

 何もかも間違いだったとして、しょうがないだろ。

 もう、終わったんだからよ。



「おはよう」

「おはようございます」

「それで、何が目的だ」

「降りて下さい」

「降りるってのはなんだ」

「ヘッドからバーストして下さい」

「破壊はこの組織の生業そのものだ。意味は分かる」

「だったら」

「バーストはするものじゃない。させるものだ」

「あなたに恩義がある」

「その話は役に立たないな」

「なんとなく分かってはいましたが」

「だったらアクセルを踏め」

「踏めません」

「それなら、首を括れ」

「できません。どちらもできません」

「夜は短い。日の出と共に、俺たちは死を見つめることになる。今か今かと待ちわびた」

「それが、今なのですか」

「遅い。だから、お前は」

 血飛沫。

 足音。

 砕かれた硝子。

「誰だあいつら」

「もう、いいんだ。もう、いい」

「しかし、ヘッド。このままじゃ」

「もう、大丈夫だ。楽になってきた」

「待ってください。俺はまだ」

「バーストはするものじゃない。させるものだ。そして、してしまうものだ。たった今、俺はバーストしてしまった」

「泣かせてください」

「諦めろ。俺たちは、潤んだ視界を歩むべきじゃない」



 リノグラス。スヴェルテナー。

 ジェイブルーズース。

 トウジェノ。ホーコーフートルンスーパークルゥダン。



 カーペットに落ちた氷は中々溶けようとしなかった。その周りは細く透明に光っている。滑らかな毛並みは、より一層艶やかになったが、少し時間が経つだけで下品に広がった。

 顔を上げれば、遠くに燭台が見えた。最も大きいものは光そのものである。宙に浮いているように見えたせいで、冗談に感じられた。風もないのに震えていたせいだろう、スーツ姿の男がクラッカーを食べながら指をさして何か話していた。隣の女は苦笑していた。向かい合う男女は酷く退屈な造形であった。

 窓の外で、男が犬と戯れている。

 そう、見えただけだった。

 男が倒れて、犬は男の顔面に顔を近づける。

 視線を切る。

 踊り場にある花に水をあげる時間になった。まずは台所へと向かわねばならない。

 仕事だ。



「打ち込んでくれ」

「何をだ」

「魂をだ」

「下ネタか」

「違う」

「何が言いたいんだ」

「頭文字を並べて、意味を作る。解いてもらわなければ謎に意味はない。リップサービスとキャンドルサービス、大いなる問題のためのアメニティでもある」

「悪趣味に哲学を込めるのか」

「悪趣味だからさ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

去具 エリー.ファー @eri-far-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ