第16話 怪しい人物
「夏休みやよっ! どっか行こう!!」
「どっかって、どこ?」
「遊びに行こうよ。閉じこもってばっかりじゃ、カビが生えるよ!」
「湿度も調整して快適ですけど。カビ生える環境じゃないですけど」
「いいからっ! さっさと着替えて、アイス食べに行こう」
「はいはーい」
タエが部屋に戻り、準備には少し時間がかかるので、玄関に座って待つ涼香。そこへタエの母親がやって来た。
「待ってる間、お茶でも飲んで」
「あっ、ありがとうございます」
冷たい麦茶が体に染み渡る。涼香は一気に飲んでしまった。
「ねぇ、涼香ちゃん。最近のタエちゃん、変わった様子はない?」
「変わった様子? いつも通りですけど、何かあったんですか?」
涼香が眉を寄せた。母親も頬に手を当て、困った表情をしている。
「よく分からないんだけど、最近映画の戦闘シーンばっかり見てんのよ。イメージトレーニングとか言って。不良とつるんでたりしない?」
目を丸くした涼香。笑い出した。
「タエに限って、そんな事ないですって。学校でも、そういう奴らを嫌そうな目で見てるのに」
「なら良いけどね。決闘でもするのかと思った」
「一応、本人に聞いてみます。間違った方向へ行くなら、ちゃんと止めますから」
「よろしくね。ありがとう」
「準備できたよー」
「二人とも、気を付けてね」
「はい」
「行ってきまーす」
母は元気に出発した二人を見送った。タエの後ろ姿を見て、
大阪まで少し遠出をして、美味しいと評判のアイスクリーム屋さんへ行った。材料にこだわったアイスが乗ったスイーツは、タエと涼香を幸せにしてくれる。そして可愛い雑貨屋にも立ち寄り、いろいろ見て回った。インドア派のタエでも、テンションが上がる。
しかし、一つ気になる事があった。
(視線……?)
周りを見回しても、自分と目が合う人はいない。タエは気のせいだと言い聞かせ、買い物を楽しんだ。
「あー、満足満足」
タエが公園のベンチに座って伸びをした。服や髪留めを買えてほっこりしている。涼香も隣で休憩だ。日差しは暑いが、日陰で休んでいるので大丈夫。
「閉じこもってるより良いでしょ」
「あっちはあっちで良い所あるよ。でも、今日は美味しかったし、楽しかった」
涼香はタエの笑顔を見て、ふっと笑った。
「ねぇ。最近、映画の戦闘シーンばっかり見てるんだって?」
「お母さんから聞いたのか」
変な汗が出てくる。涼香は頷くも、真剣な顔になっていた。
「おばさん、心配してたよ。不良と関わってないかって」
「あははっ。それは万に一つもないなぁ」
「それなら安心したけど。もし悩みとかあるなら、言ってよね。おばさんにも話してあげなよ」
「うん。分かった。ありがとう」
涼香は周りに気配りが出来る子だ。タエも見習わなければいけないと、いつも思っているが、なかなか難しい。母親を心配させてしまっているなら、ちゃんと謝らなければ。
(でも、本当の事は言っても信じてもらえへんやろうし)
どう言おうか考えていると、二人に影が落ちた。
「ねぇねぇ。めっちゃかわいいけど、どこから来たん?」
「え゛……」
タエと涼香が同じ反応をする。目の前には、茶髪と緑、金色といった、明らかに日本人の顔をしているのに、日本人の髪色を全くしていない、チャラさ大爆発の男三人組がいた。
「さて、帰ろっかお姉ちゃん」
「そうね妹。お母さんが待ってるわ」
涼香の美貌はどこへ行っても効果があるので、ナンパをされる事もしばしばあった。そんな時は、背の低いタエが妹、涼香が姉になり、寸劇をしつつ、そそくさとその場を去るという方法を取っている。相手にしないのが一番だ。無視して気付かないフリで今まで問題なく来られたのだが、今回は違った。
「あれ、姉妹なの!」
「姉妹でかわいいって、最高やん」
「いくつ? 俺らと遊ぼうよ」
「結構です。間に合ってます」
涼香が愛想笑いでかわし、さっと背を向ける。が、軽くあしらわれた事が気に入らなかったのか、金髪の男が涼香の肩を掴んだ。
「そんな事言わずに、行こうって」
「良い所知ってるんだ」
「ちょっ、やめて……」
逃がさないと言わんばかりに、涼香の腕まで掴もうとする男達。タエの中で、何かが切れた。
「さ、妹ちゃんも一緒に――」
ぱしっ!
「いって!」
緑頭の男が声を上げた。手首を押さえている。涼香が驚いて見れば、タエの右手が手刀の形を取っていたのだ。タエは自分の腕を掴まれる寸前、男の腕を右手で叩いて払ったのだった。
「何すんだこの野郎!」
「嫌がる女の子を、無理やり連れて行こうとするからやろうが」
驚いて掴む手が緩んでいるのを見て、タエは涼香を自分の後ろにやる。
「タ……」
「てめぇ、生意気なんだよ」
「こっちは嫌がってんだ。女なら他を当たれ」
ぎっと
(妖怪を相手にしてるから、こいつらがちっとも怖くない。ただのナンパ野郎に負けるか!)
買った荷物は左手に持ち、右手で拳を作って構えた。ハナとの体術の鍛錬のおかげで、技はしっかりと魂に刻まれているタエ。生身の体では岩は砕けないが、涼香をナンパ男達から守る事くらいはできるだろう。
「なにこいつ、空手でもやってんのか?」
「女だからって容赦しねぇぞ」
もはや喧嘩に変わってしまう、
だが、タエの思考は途中で途切れる事になる。
「すまんなぁ! 遅れた!」
「っ!?」
いきなりタエの視界がぐらりと揺れた。強い力に引っ張られ、がっちりと肩を抱き寄せられる。
「なっ」
突然の事に動揺して、タエが肩にある手の
(だだだだだだだ、誰ぇ!?)
パニックでフリーズ。タエの思考回路は凍り付いた。
「何やお前ら。俺の大事な子に手ぇ出して、ただで済むと思うなよ?」
赤い瞳、鋭い目つきで男達を見据えると、ナンパトリオは背筋を正した。
「だっ、出してません!」
「お、俺達はこれでっ」
「すいませんでしたああぁぁ!!」
「あの、ありがとうございました。そろそろ離してもらえると……」
「あぁ、すまんなぁ。びっくりさせて」
「いえ、助かりました」
タエから一歩離れる男。身長は、180センチはあるだろうか。大きい。そして、赤く背中まで伸びた髪の毛、赤い瞳。今の夏の時期にはとても暑苦しく見える。しかし、にかっと笑う顔は
(この人、普通の人と気配が違う――? でも、妖怪とも違う感じが……)
とにかく、どこの誰かは知らないが、新手のナンパかもしれないと考えたタエは、警戒を止めなかった。それを悟って、苦笑いの赤い兄ちゃん。
「そんな構えんでええよ。
両手を挙げて、何もしませんよのポーズ。とにかく今は、早く帰った方が良い。タエは涼香に声をかけた。
「じゃ、お姉ちゃん、帰ろ」
「うん。あの、助けていただき、ありがとうございました」
涼香も丁寧に御礼を言う。
「気を付けて帰りぃや」
人の好さそうな笑みで、手を振って見送ってくれた。
「良かったね。タエも、ありがとう。なんか、かっこよかったよ」
「あはは、ありがと。イメトレのおかげかな」
「えっ。もしかして、こういう時の為に映画見てたん!?」
「そういう事にしとこうか」
二人が小さくなっていくのを見ながら、赤い男はにやりと笑った。
「ふぅん。なかなか面白い子やな。あれが京都の代行者か」
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