おっさんは田舎に引っ込んでなぜか宇宙に行った

雪だるま弐式

おっさんは田舎に引っ込んでなぜか宇宙に行った

おっさんは田舎に引っ込んでなぜか宇宙に行った



「おー! すごい!」


俺はそう叫ばずにはいられなかった。

何故なら、透明なガラスのような素材の向こうに映るのは青い星、地球だったからだ。

どこかの動画でも写真でもなく、自分の肉眼でリアルで宇宙空間から我が愛すべき地球を見ているのだ。

子供の頃、一度は夢見た宇宙から地球を見るという夢。

それが30歳目前で叶うなんて思わなかった。

そんなことを考えていると……。


「いや、そんなに喜んでもらえて恐縮です」


そんな声が後ろから聞こえて振り返ると、そこにはどこからどう見ても日本人であり俺よりも年上で50当たりの白髪交じりのいい人そうなおじさんがマグカップをもってやってきていた。


「コーヒーですが、いかがですか?」

「あ、いただきます」


素直に好意を受け取り、コーヒーを一口飲む。

ほろ苦い味が口に広がり、多少興奮が収まる。


「あー、騒いでしまって申し訳ないです」

「大丈夫ですよ。私はきにしませんし、ほかの誰の迷惑になるようなことはないですからね。なにせここは宇宙ですから」


そう言って笑うおじさんこと、佐藤さん。

何を言っているのだろうと思うだろう。

だが、事実なのだ。俺が今いるのは宇宙。

そこは、無限のフロンティア。

星の大海に踏み出しているのだ。


「しかし、本当に佐藤さんは宇宙人だったんですね」

「あはは、すぐには信じてもらえないですよね」


苦笑いをしながらそう答える佐藤さん。

そう、佐藤さんは自らを宇宙人と名乗っていたのだ。

とりあえず、用意されている椅子に座って、改めて話をすることにするが……。


「あれ、そういえばなんで地に足がついているんですか? 無重力は?」


宇宙空間というのは無重力地帯だ。

こうして床に足を付けて歩くというのは出来ないはずだし、もらっているコーヒーも水球になることもなく、コップに普通に注がれている。


「重力発生装置があるからですね。無重力も体験できますが、ここは勘弁してください。ものが散らかってしまいますから」


確かに、周りを見れば普通に戸棚にものが置いてある状態だ。

こんなところが無重力になれば物が空中に散乱することになるか。


「なるほど。やはりこの地球にやってきたということは私にも想像がつかない技術をお持ちだということですね」

「そうですね。流石に惑星間航法などは今の地球の技術では危険が伴い、時間もとてつもなくかかるでしょう」


佐藤さんは相変わらず俺の質問に丁寧に返事をしてくれて笑顔を絶やさない。

どこからどう見ても日本の優しいおじさんにしか見えないが、この宇宙空間での話が証拠となっている。

夢と否定することもできない。

何故なら家からこの場所まで上昇して大気圏離脱などもこの目で見てきたからだ。

まあ、それも夢といわれるとどうしようもないが、正直な所俺なんかみたいな、都会の仕事辞めて田舎のやっすい一軒家と畑を買った男をだますメリットを感じない。

つまり、だます理由がないという話だ。

これで、お金を借りて来いとかいうならまだわかるけど、宇宙に連れて行くってなぁ?

とりあえず、佐藤さんがいい人なのはわかったがここに連れてきた意図が分からない。

なので……。


「……佐藤さんが宇宙人であるというのはわかりました。ですが、なぜそれを私に明かしてくれたのですか? 関係といっても今日たまたま役場で会ってお話したぐらいですよね?」


そう、この佐藤さんが俺の長年の付き合いの相手だというのであればまだ話はわかるのだが、佐藤さんと出会ったのは今日が初めてだ。

それなのになぜ?

すると佐藤さんは困ったような顔で……。


「自分で言うのもなんですが、簡単にいうと勘です」

「勘ですか?」


おいおい、宇宙人にしては適当だな。

地球以上の科学力を持った人の言葉とは思えない。


「確かに科学的とはいいがたいのですが、元々技術の発展はそうなるかもしれないという仮定があり実験して実証することから始まります。つまり、勘が働くわけです。そして、残念ながら人材の良しあしにかんしてはいまだに私たちの技術でも把握できていないのです」

「人の良しあしといういと?」

「仕事が続くかどうかというやつですね。続くだろう良いと思った人材を採用しても色々な理由でやはり離職してしまう方おおいです。もちろん、続けてくれる人もいますけどね」

「ああ……」


脱サラして田舎に引っ込んだ俺にはよくわかる。

採用してくれた上司には感謝してはいる。

別に人間関係も悪くはなかった。

会社的にもそこまでブラックでもなかった。

やめる主だった理由は無かったが、それでも俺は離職してここにきた。

ただここにきてのんびりしたかった。というのが思いつく限りの理由だろうか?


「言いたいことは分かりましたが、私が佐藤さんのお話で仕事についてやめないと思うのですか?」

「はい。私の勘がただしければ。まあ、はずれはしますけどね」


あはは、と笑って再びコーヒーを飲む。


「わかりました。とりあえずお仕事の内容を聞かせてもらっていいでしょうか? あ、履歴書とか必要ですか?」


仕事に関することだ。

履歴書が必要かもしれないという何とも的外れな言葉が自分でも出たと思う。

すると、佐藤さんはいえいえと首を横にふり。


「大丈夫です。こうしてお話をする前に色々調べらせてもらいました。申し訳ございません」

「いえ。当然だと思います。ですが、それならなおさら私には目立った特技などはないですが?」


宇宙に簡単に飛べる技術がある人だ。

俺の素性なんて簡単に調べられて当然だろう。

だからこそ、なんで俺だという疑問が湧く。


「先ほども言いましたが、特技などでなくて続くかどうかなのです。続かなければ特技など仕事に有効なことがあっても意味がありませんからね」

「まあ、確かに……」

「それで仕事の内容なのですが、惑星の調査なのです」

「はい?」


いきなり物凄い話が出てきた。

わくせい? ワクセイ? 惑星? 星?


「はい。その通りスターではなく、アースのような感じですね」

「あ、あの、惑星の調査といっても、私にはなにも……」


俺はとっさにそう言った。

当然だ。

いきなり惑星の調査しろとか言っても何も知識の力もないので調査の仕様もないだろう。


「ああ、端的に言いすぎますた。すみません。私がある程度細かい指示を出しますので、担当してもらっている数十個の惑星で調査をしてほしいのです」

「数十個!?」


一つとかじゃない?

あまりのスケールでかさに驚く俺。


「少ない方なんです。上手くいけばもっと数を増やしたいですから」

「はぁ……」


これで少ないとか意味がわからないが、とりあえず話を聞こう。


「とはいえ、惑星の調査が必要なのか。という根本的なところから説明いたしましょう」

「お願いします」

「まず私がしている仕事は指定されている複数の銀河の管理となっています」

「……」


いかん、本当にスケールがでかくなっている。


「まあ、地球でわかりやすく言うと不動産の管理というやつでしょうか」

「つまり、地球は佐藤さんたちが所属する組織のモノだと?」

「そうですね。同じレベルの組織相手にはそう主張します。まあ、聞き方によると気分が悪いですよね。これも地球でわかりやすく言うのであれば、いまお住まいになっている土地はあなた個人の者ではあるが日本が管理している土地でもあるわけです。日本の法律で所有権が認められているというやつですね。だからといって、そこに住んでいる人たちを無理に追い出したりしていいわけではないのです。そんなことをすれば人権団体とか大反発でしょう?」

「確かにそうですね。あくまでどこの所属、管理下ということですね」

「はい。その通りです。で、私が所属する。えーと日本語で言うのであれば銀河管理組合ですかね? そこではどんな惑星があり、どんな資源、生物、そして力が眠っているかを確認することが必要なんです。管理しないといけないですから。不動産を持っているのに、間取りや土地をしらないのはだめでしょう?」

「その通りですね」


管理するのに、その内容を知らないとか意味がわからない。

なので俺は深く同意する。


「ですが、ご存じかと思いますが、銀河というと物凄い数の星々の集合体です。その管理となると……」

「物凄い人員や時間が必要ですね。ですが、それなら佐藤さんと同じ人たちを……」


雇えばいいじゃないかと言おうと思うと……。

残念そうに首を振って。


「私たちからすると、銀河管理組合の惑星調査員というのは……あれです辺鄙な支社に島流しというのと同じなんです……」

「あー、不人気職なんですね」

「私はこうしてあなたのような方。そして妻のような理想的な伴侶との出会いがあるのでとてもいい職場だと思うのですが……」

「こちらでご結婚を? というか交配が可能なのですか?」

「はい。そういうのは解決できる力はあります。ですが、外から見ると田舎に飛ばされると思うのでしょうね」

「あー……」


日本の若者が都会を目指すのと一緒だ。

特に東京での就職。


「ワープ、つまり転移で一瞬で移動ができるのに、この職業は嫌だというのですよ。まあ、気持ちはわからないでもないですが、己が知っている文化や技術とは違う所に赴いて、常識が通用しないところで相手と話し合うというのは大変なのは本当です」

「外国に行くのと同じですね」

「ええ。付け加えるのであれば失礼な話ですが、文明が進んでいないところとなると、こちらでいうなれば未開のジャングルなどに行くような感じになるのでしょう」

「なるほど」


確かに言い方は失礼とはおもうが、感覚としてはその通りなんだろうな。

俺だってテレビも携帯もゲームもできないような土地に住みたいとは思わない。


「というわけで、こうして私のような現地で活動している調査員が採用権を持っているわけです。そうでもしないと仕事になりませんから」

「理由は分かりましたが、それでしたらもっと有能な、例えば国の代表などに協力を求める方が効率的なのでは?」


俺は至極当然のことを言ったのだが、佐藤さんは困っているような感じで、首を横に振りながら……。


「残念ながら、権力を持ってい人たちは不向きなのです。どうしても自国の国益につなげたがるので。あなたも知っているでしょう? この星ではいまだに戦争が絶えないことを」

「……ええ、それはまあ」

「そんな中に、惑星一個分でも未知の資源がある惑星を一国の要人に任せたとします。それが内緒で無事で済むと思いますか?」

「……」


ないとは言い切れない。


「私たちの目的は惑星の調査です。必要な拠点の確保や人員の雇用も認めますが、無用な搾取はするつもりはありません。なんのための惑星調査かわからないですからね」

「確かに。それではなぜ私なのでしょうか?」

「そういう権力に興味がないというところですね。そしてそれを誰かに伝えるすべもなければメリットもない。この惑星の政治状況からすればこれが事実と認識されればあなたは常に命を狙われることとなるでしょうからね」

「映画みたいな話ですね」

「実際にはそんな素敵な話にはなりませんよ。残念ながら。そしてもう一つ理由を挙げるとすれば……」


そう溜めてこちらを見た佐藤さんは優しい顔になって。


「あなたが優しい人物であるということですね。あの役場でこまっていたらすぐに声をかけてくれました。だからこそ誰かを虐げることはないと思いお話させていただいただのです」

「それが勘ですか」

「ええ、惑星調査を頼んだ末に、王様としてふるまっていたというのもありますからね。呆れましたよ本当に。即座に解雇ですから」

「王様になるとかはダメなんですか?」

「周りからお願いされた末ならわかりますが、周りに首輪をつけて、町からは怨嗟の声が響いてはね?」

「それは……最悪ですね」

「それにそこの王様をやっていてほかの惑星調査が滞る始末ですから。本末転倒です」

「ああ、そりゃだめですね」


本来の仕事をしないとかだめすぎる。

とはいえ、そこであることに気が付いた。


「申し訳ないですが、やはり私にはその仕事は無理そうです」

「おや、どうしてですか?」

「いま、私は畑を持っているんですよ。まあ個人の趣味程度ではありますが、それを手伝ってくれている人たちもいますので放棄する気にはなれないです」


そう、田舎に越してきたのは安い家を手に入れることだけが目的ではない。

農業にもちょっと手をだしてみたかったのだ。

本業の人にとっては遊びでしかないが、初めてなのでそれは許してほしい。

今は近くのおじいちゃんおばあちゃんから手助けをしてもらって畑を維持している。

そういう意味もあって放置するわけにはいかない。


「なるほど。それは実に素晴らしい!」

「え?」


俺は残念ですね。という言葉を期待していたのに、佐藤さんは喜びに打ち震えていた。


「私たちの本星。つまり故郷ではすでにレプリケーター。つまり空気中のエネルギーを使うことによって食べ物や飲み物、果てはある程度の物質を作ることは簡単にできます。ですがやはり土から育てた作物や飲み物は特別なモノとして認識されているんですよ。あれですね、ブランドというやつです」

「はぁ」

「ですが我が本星では手を泥で汚すとかありえないとかいうんですよ。バカですよね。それで本物を欲しがっているわけです。まあ、その食べ物が育つ土壌もいまでは環境汚染でないのも原因ですが。と、話がそれましたね。畑を持っているというのは私たちにとってもよいことですし、それを手放すなど言語道断。良ければ畑を維持する人材は用意いたしますので、良ければこちらの希望する作物などを作って卸していただけないでしょうか?」

「あの、そういうのは惑星調査に影響しないのでしょうか?」

「大丈夫です。手を入れるのは地球人であり、その土地の所有者であるあなたという名目になりますから」

「なるほど。そういうことですね。では、今の土地を放棄する必要はないという認識でいいでしょうか? こちらに戻ってこれるのでしょうか?」


とりあえず、問題ないといわれたのでどこまで職場環境が整えられるのかを聞いてみることにする。


「ええ。それはもちろんワープで一瞬で戻れるようにいたしますし、日帰りで大丈夫です。給与に関しては要相談となりますが、それとは別に惑星調査で得られた現地の鉱物、わかりやすい例でいうと金などの気象金属や鉱物などはこちらで買い取って換金することもできますし、仕事を始めるにあたって、宇宙船の支給、護衛のアンドロイドたち、武器、物資などはこちで用意させてもらいます」

「至れりつくせりじゃないですか。それでなんで?って田舎ですからか」

「そうです。とはいえ、あなたにとって宇宙船は高価なものに見えるかもしれませんが、私たちにとってはすべて込みで軽自動車ぐらいの価格ですね」


安いのか高いのかちょっとわからないな。

いや、一人を辺境に送るのに100万から200万で済むなら安いか。

仕事で稼げるようになるまでに育て上げるのは1000万単位かかるとかいうしな。


「もちろん、私もサポートで相談に乗りますし。そうだ、一度一つの惑星調査をしてみませんか?」

「えーと、そんな体験就職みたいなことをしていいんでしょうか?」

「大丈夫ですよ。そうでもしないと人手が足りないと思ってください」

「そこまでですか……」

「はい。そこまでです」


宇宙でも人材不足は深刻らしい。

さて、帰りも保証されていてお気軽な惑星探検ができるときた。

これは断る理由もないのでは?

いやいや、まてまて。

大事なことを聞いていない。


「お試しでする前に、その一度はどれぐらいの期間なのでしょうか?」


そうだ。

そこを聞かなくては詐欺系の場合実は一度の調査は10年かかりますとかとんでもないことを言いそうだ。


「おお、そうですね。そこらへんはちゃんとしておかないと契約にはなりませんね。一応先ほどのお話から察するに、日帰りできて、そこまで時間のかからないものがいいのでしょう?」

「ええ。それはまあ」

「でしたら、お試しでの調査依頼で落下地点約直径10キロ範囲の生物調査などを頼んでいいでしょうか? ああ、もちろんすべてを調べろというわけでもなく。そうですね、ここは歩合制で1つの生物調査につき2万円……いえ4万円だしましょう。期間は一週間ほど」

「1つにつき4万円!! ……ってそれはいいのかちょっと判断がつきませんね」


実は全部登録済みで新種発見無しで支給額ゼロというのもあり得る。


「確かに、場所によっては一つ見つけてあと全部同じということもないこともないです。なので、一週間調査をしてくれれば契約履行とみなします。仕事をこなしたということで40万円の支給をいたしましょう」

「よっ、よんじゅう……」


まさかたった一週間で、そんなに……。

下手な中小企業より圧倒的な給与。


「あ、ちゃんと福利厚生。つまり健康保険、厚生年金を3か月分保証いたします」

「なにっ……。それはつまり……」

「はい。就職したという扱いにさせていただきます」

「って、日本に企業として存在しているんですか?」

「はい。表向きは別のことといいますか、貴金属の売買ですね」

「ああ、だから買取ができるんですね」

「そういうことです。というか、こういう保証がないと家族がいないのはもちろん縁者すら乏しい人を選ばないと怪しまれますからね」

「用意周到なんですね」

「これぐらいしないとこの地球の日本で雇用者を守ることはできませんし、無責任ですよ」


なんという至れり尽くせり。

不味かったらあとで引き返せばいい!

ここまで言われて引いてはいけない!

そうだ、好意を無下にするのはよくない!

だから俺は……。


「どうでしょうか?」


と、不安げにこちらを見る佐藤さんに対し。

椅子から立ち上がり、頭を下げて。


「改めて|野田裕也(のだゆうや)と申します。よろしくお願いいたします」

「はい。よろしくお願いいたします」


こうして私の田舎にいながら宇宙にいくという奇妙な生活が始まるのであった。



レポート1:「ああ、たしかこんな始まりだったかな?」


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