魔王直下の相談室
じぇいそんむらた
プロローグ
真っ赤に燃える建物、その中で、男と少女が向かい合っている。
そばには、胸から大量の血を流し命を失った女と、気を失った男が倒れている。
「これは、お前の仕業か?」
男の問いかけに、少女は怒りや憎しみに満ちた瞳を向ける。
「消してやる……母様を殺したやつも……わたしも……母様がいない世界なんて……生きる意味なんてない」
少女の言葉に、男は悲しそうに顔を歪める。
何を言うべきか、しばし考え、口を開く。
「では、今作ればよいではないか。新しい、生きる意味とやらを」
「……作る?」
「そうだ、余が与えてやろう」
まるで、できないことなどない、と言わんばかりの、堂々とした言い方。
少女は目を丸くする。
「わたしを愛してくれる人は、もういないのに?そんな世界に、意味はあるの?」
男は少し考え、少女の前に進む。膝をつき、目線を合わせ、少女の肩に優しく手を置く。
「ならば、余が愛そう。他の誰よりも強く、お前の命尽きるその日まで」
その言葉に、信じられないという表情で、男を見る少女。
だが、男の眼差しに躊躇いはない。
「……ほんとうに?」
信じられない様子の少女を、男は優しく引き寄せ、抱きしめる。
「本当だ。お前が望むのなら」
少女は、少し躊躇った後、遠慮がちに抱きつく。
「……ありがとう」
少女は小さく言う。そして意識を手放した。
炎は一瞬にして消え、外から人々の驚く声があがる。
腕の中で気を失った少女を、男は抱き上げる。
そして、まだ幼く小さい額にそっと口づけを落とした。
「どのような愛し方かは、わからぬがな……」
男は、ふっと笑い、建物を後にする。
それからしばらくして、ある噂が魔王城や城下町の人々の中を巡るようになった。
魔王様が、幼い人間の少女を引き取った……と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます