第184話 どこにでもいるやつら


「おい、立原とかいったな。てめえ、調子に乗ってんじゃねえよ!」


「先公に告げ口しやがって! ぶっ飛ばしてやるよ!」


「………………」


 ものすごいデジャブ感だな、おい……


 放課後の学校の屋上、俺を取り囲むヤンキーなやつら。この学校の屋上は不良のたまり場になっているが、俺をいじめていた露原達がおとなしくなったことにより、最近では別の不良グループであるこいつらが屋上を使っている。


 そんなこいつらに屋上へ連れ出された理由は、先日学校でこいつらから金を巻き上げられ、殴られていた別のクラスの生徒をたまたま目撃し、そこに割って入って邪魔をして、先生にそれを報告したらこいつらに呼び出しを受けたというわけだ。……いじめをしたり、人を殴ってお金を巻き上げたり、露原みたいなやつは、本当にいくらでもいる。


「おら、くらえ!」


 不良のひとりが右拳を振り上げて、俺に殴りかかってくる。


「うおっ!?」


 しかしその振りあげた拳を横にかわして、こちらの左拳を殴りかかってきた男の目の前で寸止めする。


「とりあえず暴力はやめましょう」


「て、てめえ!」


 これは別に見切りスキルを使ったとか、魔法を使って相手の攻撃を避けたというわけではない。


 あの日、異世界へとつながる扉が閉じてしまった日から、すでに3ヶ月が過ぎていた。残念ながらそれ以降に扉が開くことはなかったし、アンデからの連絡もなかった。


 もしかしたら、異世界への扉はもう二度と開くことはなく、サーラさん達にもう二度と会うことができないかもしれないという考えが何度か頭をよぎっていた。しかし、そんなことは絶対ないと信じて、今も異世界へ扉が繋がった時のために、異世界の言葉の習得に加えて、自分を鍛えることを続けている。


「ふざけんな!」


 相手が逆上して何度も殴りかかってくるが、それをすべてかわしていく。


「くそ、何で当たんねえんだよ!」


 いくらなんでも、逆上して真っ直ぐに殴りかかってくるだけなら俺でも避けられる。もちろん3ヶ月前の俺だったら、そんなことをできるわけがないのだが、今俺は自分を鍛えるために総合格闘技を習っている。


 もちろん異世界へ行ったら格闘技なんてまるで役に立たないかもしれないが、対人での戦闘経験は何かしらの役に立つだろうと、なにか格闘技を習おうと思っていた。なにを習うか迷ったが、茂木さんが総合格闘技のジムに通っていることを思い出して、茂木さんに紹介してもらったのだ。


 もちろん月々の月謝は向こうの世界の宝石や金貨を換金したお金を使っている。まだジムに通い始めてから3ヶ月しか経っていないが、一直線に殴りかかってくる相手の攻撃くらいなら避けられる。


 ジムの人にも筋が良いと褒められたし、異世界での戦闘経験は役に立っているのかもしれない。それこそ向こうの世界では命がけで戦っていたわけだしな。


「ちっ、もういい! みんなで囲っちまうぞ!」


「おうっ!」


「うら、死ね!」


「いっつ……」


 いくら格闘技を習って多少強くなったとはいっても多勢に無勢。これだけの数の相手に囲まれてしまえば、手も足も出ない。


「くそっ、硬えなこいつ!?」


 身体を丸めて頭や金的といった急所だけはしっかりとガードをする。痛いことは痛いが、身体を鍛えているし、ジムではスパーもする。そして何より、アンデとの戦闘で負った痛みはこんなやつらに殴られた程度の痛みではなかった。こいつらにいくら殴られようと怖くもなんともない!


 バタンッ


「大丈夫か、立原!」


「立原くん、先生を連れてきたよ!」


「安倍! 渡辺!」


 屋上の扉が開き、そこから安部と渡辺が現れた。そう、俺が抵抗もせずに殴られていたのは、安部と渡辺が先生を呼んできてくれることを信じて待っていたからだ。できる限りはフー助の力を借りたり、異世界から持ってきた魔道具の力を使いたくないからな。


 俺がこいつらに連行をされる直前に、ギリギリでヘルプの連絡を2人に送ることができた。場所までは送れなかったから、いろいろと探してこの場所を見つけ、先生を連れてきてくれたのだろう。


「おいお前ら、何をしている!」


「ちっ……」


「………………」


 よりにもよってこいつかあ……2人が連れてきてくれた先生は、よりにもよってうちのクラスの担任だった。こいつのせいで俺がいじめられていたのは2人とも知っているから、たぶん屋上の近くにこいつしか先生がいなかったんだろうな……


「わりい、遅くなった!」


「立原くん、大丈夫?」


「ああ、大丈夫だよ。2人ともありがとう、本当に助かった!」


 安部と渡辺が差し出してくれた手を取って立ち上がる。2人のおかげで、大きな怪我を負う前に止めてもらうことができた。2人なら人を連れて助けにきてくれると信じていたよ。


 さて、問題はここからか。

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