第146話 今の俺に足りないもの
「そちらについてはまだ我々もそれほどの情報を得られておりません。何せ隣国にいる者ということもありまして……
分かっているのはその者がドラゴンを単独で倒したということと、極大魔法を使えるということ、そしてひたすらに強い魔物を狩り、名のある強者に挑んでいると聞いております。実際にその者に倒された者も相当な実力者ばかりと聞いておりますので、本当に大魔導士様に近い実力を持っているかもしれません」
マジか……それが本当だったら結構やばそうなんだが。まさか今の俺の力よりも上? いや、さすがにそんなことはないと信じたいが……
極大魔法については大魔導士の力を継承した俺にも使うことができる。使えるのは火と水と風の極大魔法だ。それぞれ使ってみたが、どの属性の魔法も相当な規模の魔法だった。
「それと最後にもうひとつ……」
おお、あとの情報は俺も聞いていない情報だ。
「えっと、これはさすがにデマだとは思うのですが、一応伝えておきます。なにやらその者は
……ですが歴代の極大魔法の使い手は熟練の魔法の使い手ばかりです。かの大魔導士様でさえその域に到達したのは30代と伝えられております。いくらなんでも子供が極大魔法を使えるはずがないと思います」
「子供ですか……」
なんなんだろうな。まさかマッドな魔法使いが若返ったとかじゃないよな。
「いえ、さすがに今のは忘れてください」
「ありがとうございます。一応心に留めておきます」
子供の姿か。デマならば問題ないが、もし本当だった場合は多少の心構えがあるのとないのでは違う。一応心に留めておこう。
「あとこの国の代表者になりそうな、王城の騎士団長の実力はどれくらいあるのか知っていますか?」
「ええ、彼は有名ですよ。私も一度会ったことがあります。実力的には私と同じか私より少し上といったところでしょうか。全盛期の彼であれば、それよりも数段上の実力を持っていたと思うのですが、やはり彼も老いには敵いませんね」
「なるほど」
どうやらその騎士団長さんとやらはそこそこ歳をとっているらしい。
「……この国の代表者として戦われるおつもりですか?」
「………………」
実際にギルダートさんにそう聞かれてしまうと即答はできなかった。今回の件はこれまでの出来事とは何もかも違う。
確かに今までも強大な魔物を相手に戦ってきた。ドラゴンに変異種や天災、ダンジョンのボスなど……しかしその相手のすべてが魔物であり、人ではない。人も相手にしたが、それはすべて格下の相手ばかりだ。
今回の相手は人……それも下手をしたら大魔導士の力を継承した俺よりも強い相手かもしれない。俺は大魔導士の力を継承したとはいえ、完全に使いこなせているわけではなく、強大な力のほんの上澄みを使っているだけにすぎない。
相手は強者を求めて名のある強者や強い魔物を求めて戦っている本物の強者だ。そんなやつと決闘という殺し合いが、果たして俺にできるのだろうか? 大怪我どころか死ぬ可能性だってある。
「……戦います」
だが、このままサーラさんを黙って見捨てることなど決してできはしない。彼女は俺がこの世界にやってきて初めて出会った大切な人だ。
最初は彼女が盗賊に襲われていたのを助けただけだった。それから街を案内してもらったり、身分証を作ってもらったりとてもお世話になった。
彼女が笑っているのを見るだけで俺も自然と笑みが溢れる。彼女が俺の作った料理を美味しそうに食べてくれるのを見ると俺も嬉しくなる。彼女が楽しそうにそこにいてくれるだけで、なんだか俺まで幸せな気持ちになってくる。
たとえ俺の命を賭けることになったとしても、サーラさんを救いたい、その気持ちだけは俺の本心だ。
「……よほどその王族の方が大切なのですね。わかりました、微力ではありますが、私にできることなら何でもします!」
「ありがとうございます。決闘の日がいつかはわかりますか?」
「はい、一般には公開されておりませんが、4日後にベージル平原というバードン国とエドワーズ国のちょうど境目で行われます。王都であるルクセリアからは馬車で半日といったところでしょうか」
……残り時間は少ないな。とにかく付け焼き刃でもかまわないから準備をしなければならない。
「ギルダートさん、お願いがあります。俺の訓練相手になってもらえないでしょうか? 俺はかなりの力を持っていると自負しているのですが、人相手の戦闘経験がほとんどありません。
それと今付近にいる高ランク冒険者に俺の訓練相手をしてもらえるよう緊急依頼を出してもらえないでしょうか? お金はいくらかかってもいいので、今受けている依頼をキャンセルか一時保留にしてもらってでもお願いしたいです」
今の俺に絶対的に足りないもの、それは対人戦闘経験だ。大魔導士から継承した魔法やスキルの把握については多少はしているが、対人戦闘経験については圧倒的に足りていない。
明日から始めるとしても残りはたったの3日しかない。幸いこちらの世界のお金は使えないほどある。お金の力で高ランク冒険者を集めて付け焼き刃だが、対人戦の特訓をしよう。
「わかりました! 緊急依頼ということで、付近にいるBランク冒険者パーティ以上を全員招集しましょう!」
「あ、緊急性のある依頼や人命に関わる依頼を受けている人は招集しなくていいですからね」
「承知しました。それではすぐに手配致しますね!」
「ギルダートさん、本当に助かります。ありがとうございます」
「いえ、私も頼っていただいて嬉しい限りです。それにマサヨシ殿に助けていただいた借りをようやく返すことができますよ」
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