第144話 戦争
戦争……
元の世界では今もなお紛争地帯の場所はあるが、日本に関しては平和が続いているので、それほどピンときていない。
しかし、この世界の文明レベルでの戦争と聞くと最悪のイメージしかない。何千、何万人もの人が争って負けた国は勝った国の奴隷となり、すべてを奪われたりするのだろうか。
「いえ、なんとか全軍での正面衝突は避けることができました。お互いの国の多大な被害を避けるために、各国でひとりの代表者を選んで戦い、勝った代表者の国が勝者となります。
負けた国が勝った国の属国になるだけで、負けた国の国民の命や自由が失われるわけではありません。街の市民や商人、冒険者の方々は今までと同じように生活ができると思います」
「そうなんですね! よかった、戦争と聞いたから、国と国の兵士達が全員で殺し合いみたいなことをするのかと思いましたよ!」
ダルガさんにいつもの部屋に案内されて、久しぶりにサーラさんと会った。その後ろにはダルガさんとジーナさんもいる。
隣の国と戦争が起きると聞いた時にはどうなることかと思ったが、代表者同士の決闘ならそれほど大きな被害にはならないだろう。魔法が使えるこの世界なら大規模な戦いとなれば、下手をしたら元の世界の戦争以上に悲惨な戦いになる可能性もある。
「昔は国の総力を挙げての戦争も多々ありましたが、お互いの国民の犠牲があまりにも甚大だったため、最近では代表者による決闘で揉め事を解決する方法が多いですね」
「なるほど。確かにまだそちらの方法のほうがよさそうですね」
本当は国ごとの争い事自体がないのが一番なんだろうけど、それはどこの世界でも難しいんだろうな。
「ちなみにどちらの国が勝ちそうなんですか?」
「……我が国の勝利は絶望的ですね」
「絶望的なんですか……」
……どうやらサーラさんの国の勝ちは絶望的らしかった。
「我が国の代表者はまだ決まっていないのですが、バートム国の代表者が問題でして……」
「そんなに強い人なんですか?」
「正式な代表者は当日に発表されるのですが、どうやらバートム国は今この辺りで噂になっている大魔導士を継ぐ者を味方につけることに成功したようです」
「大魔導士を継ぐ者ですか……」
確か以前に一緒にダンジョンに潜った冒険者のボリスさんに酒場で聞いた話だな。大魔導士にも匹敵するほどの力を持っていると噂されていたやつか。
「ええ。巷ではドラゴンを倒したり、極大魔法を使えたり、かの天災をも倒したと噂されております。天災についてはおそらく異なるのですが、残りの2つについてはすでに確証を得ております。
我が国ではそれほどの力を持つものはおりません。今のところは王城の騎士団長が我が国の代表者となる予定ですが、正直に申し上げまして勝つことは非常に難しいでしょう」
「で、でも、別に負けても大丈夫なんですよね?」
「……ええ、マサヨシ様は何も心配する必要はございませんよ。ですが国同士の代表者による決闘が終わるまで少し王都が騒がしくなるので、他の街に避難することをお勧めしますわ」
「なるほど、わかりました」
「あの、マサヨシ様……」
「ジーナ!」
「は、はい! 失礼しました!」
「ど、どうしました、サーラさん!?」
ジーナさんが何かを話そうとしたところでサーラさんがそれを止める。
「いえ、なんでもございませんよ。せっかくなのでマサヨシ様からいただいたお土産をみんなでいただきましょう!」
「あ、はい。美味しそうなドーナツが売っていたんで買ってきました。せっかくなんでみなさんでどうぞ」
ネットで調べたら海が近いけどドーナツ店のお土産が有名だったのでドーナツにしてみた。他にも干物とか売っていたけど、サーラさん達は甘いもののほうが好きだからな。
「ありがとうございます。マサヨシ様も一緒にいただきましょう」
「はい」
そのあとはみんなで俺のお土産とこの屋敷の料理を任されているファラーさんが作ってくれたお菓子を楽しんだ。
「それではマサヨシ様、お土産ありがとうございました」
「いえ、こちらこそご馳走様でした。ファラーさんのお菓子はとても美味しかったです。もうすぐ俺が持ってきたケーキも再現できそうですね」
「ええ、ファラーならいずれきっとマサヨシ様にいただきましたケーキも再現できるでしょう。マサヨシ様、いつも本当にありがとうございます」
「いえ、俺もいつも楽しませてもらっていますからね。それではお邪魔しました」
「マサヨシ様、お元気で!」
「ええ、サーラさんもお元気で」
サーラさんと別れて、そのままサーラさんの屋敷を出る。
「……サーラ様、本当によろしかったのですか? マサヨシ様なら、噂の大魔導士を継ぐ者とやらにも勝てるかもしれませんのに」
「ジーナ、その話はもういいのです。決闘は相手を戦闘不能にさせるか相手が死ぬまで行われます。いくらお強いマサヨシ様でも勝てるという保障はありません。それにマサヨシ様の命の危険がある以上、決して我々の事情にマサヨシ様を巻き込むわけにはいかないのです」
「ですがこのままでは姫様達王族の命が……」
「じい、それも王族の務めですよ。むしろ私達王族の命だけでこの国の民の命が守られるのなら、それはとても喜ばしいことでしょう」
「……姫様」
「お兄様達はそれをするくらいなら全面戦争を望んでいたようですが、お父様がこちらの道を選んでくれて本当によかったです。それより私は2人とも昨日中に解雇したのに、なぜまだこの屋敷にいるのですか?」
「……私はサーラ様の護衛ですからね。最期までご一緒させていただきます」
「私もですな。それに直前に解雇されたとしてもあまり意味をなさないでしょう」
「……はあ。さすがに護衛にまで処分が下るようなことはないと思いますが、当日は絶対についてきてはいけませんからね」
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