第138話 ビーチバレー大会


 そのあとはみんなと無事に合流できた。確かに海の家ってどれも似たような感じで、一度外に出てしまうと、どの海の家だったか分からなくなるな。


「このあとはどうする? またビーチバレーでもしようか?」


「う〜ん、僕はパラソルの下でゆっくりしているかなあ」


「せっかくなら俺はもう少し海で泳いでもいいかな」


 海に来ることなんてかなり久しぶりだからな。せっかくならば、もう少し海を楽しむのもありだ。


「そういえばさっき迷ってビーチを歩いていた時に、ビーチバレー大会が始まるみたいだったわ。急いでいたから詳細は見てなかったけど」


「へえ〜ちょっと見に行ってみようか?」


「いいね。そういう大会って見ているだけでも楽しいものだしね」


「賛成! とりあえず見るだけ見てみようぜ」


 ビーチバレーの大会か、ちょっと見たいかも。みんなでスポーツ観戦するのも楽しそうだ。……決して水着の女性選手達を見たいというわけではない。




「「男だけの大会か……」」


 安倍と声が被ってしまった。気持ちは痛いほどわかるぞ。


 ビーチで始まろうとしていた大会は、男限定で2対2のチーム戦だ。小規模な大会で当日参加もオッケーらしく、賞金も1位は3万円もらえるらしいから結構な参加者がいる。


「へえ〜結構参加者がいるんだね」


「見てるだけでもつまらないし、参加してみるか? 参加費も無料らしいしな」


「ぼ、僕はやめておくよ」


「俺も今回はパスっすね」


 渡辺はともかく茂木さんもパスか。さっきみんなでやったビーチバレーの時に思ったのだが、もしかしたら球技は苦手なのかもしれない。


「なら一緒に出ようぜ」


「おう! せっかくなら優勝を目指そうぜ!」


「安倍くん、立原くん、頑張ってね!」


「みんなで応援するからね!」


「よっしゃあ! 行くぜ、立原!」


「おい安倍、受付はこっちだぞ!」


 女子に応援されてやる気の出ない男なんていない。かくいう俺も川端さんと佐山さんの前で、ちょっとはいい格好ができるんじゃないかと思ってしまっている。


 まあこれくらいの遊びみたいな大会なら多少は目立っても問題ないだろう。とはいえ動きすぎて、動画の黒い仮面の人物が俺だとバレないように注意しないとな。




「ピー!」


「しゃおらあ!」


 タンッ


 安倍のサーブが見事に相手チームのコート内に突き刺さる。


「ピー! ポイント、安倍・立原ペア。21点先取により、安倍・立原ペアの勝利」


「ナイス、安倍!」


「おう、まずは一回戦突破だな!」


 ビーチバレー大会が始まり、まずは一回戦。安倍は体育会系の部活をしていることもあって、身体能力はかなり高い。体育の授業でもいろんな球技を器用にこなしていたもんな。


 俺のほうもあまりズルにならない程度に身体能力を抑えて参加している。今回の大会では21点先取のワンセットマッチで、一回戦は21-8の圧勝で終わった。というのも……


「いやあ、さすがに若い高校生には勝てんかったか」

 

「じゃが楽しかったな。ありがとよ」


「あざっした!」


「ありがとうございました!」


 俺達の対戦相手はおじいちゃんだった。むしろ連携ミスなどで8点も取られてしまったが、まあ即席のペアならこんなもんだろ。


「安倍くん、立原くん、ナイス勝利!」


「2人とも格好よかったわ!」


「サンキュー! だけどまだまだだったな。どっちが取るかをもっとハッキリと決められるといいんだけどな」


 今回の失点のほとんどが、いわゆる味方同士のお見合いという形での失点やサーブのミスだった。


「そのあたりは難しいよな。ただ今の試合でも経験は積めたし、次の試合から調整していこうぜ」


 川端さんと佐山さんの声援も嬉しいのだが、安倍もマジモードだからな。俺もできるだけ頑張るとしよう。




 続く2回戦と3回戦もなんとか勝利することができた。どうやら抽選を受けた安倍のくじ運が相当良かったらしく、相手が中学生や40代くらいのおじさんだったというのもでかかった。トーナメント表の反対側のブロックは大学生や20代くらいの男性が多かったから、安倍の運はかなり良かったのだろう。


 そして続く4回戦。これに勝てば決勝へと進出することができる準決勝戦だ。ここまで来られると優勝を意識してしまうな。


「あっ!?」


「ああん? てめえ、さっきの野郎か」


「チッ、女連れだった野郎か」


「なんだ、立原。あの2人と知り合いなのか?」


 俺達の準決勝戦の相手、それは先程佐山さんに絡んでいた金髪の男と鼻にピアスを付けた男だった。


「……いや、知り合いじゃない」


 さっきの佐山さんがこいつらに絡まれていたことについては、みんなに話していない。せっかくの楽しい気分に水を差すことになるから黙っていたんだ。


 まさか準決勝の相手がこいつらだったとはな。可愛い女の子と一緒に海に遊びに来ている俺と安倍を睨んでいる。……男だけで海に来て辛い気持ちは俺も十分に分かるのだが、できればそれを顔に出さないでほしい。


 競技がビーチバレーでよかったよ。もしも相撲とかだったら、グーで殴ってきそうなほどの勢いで睨んできている。


「それではこれより準決勝戦を始めます」

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