第113話 対価


 疾風迅雷パーティの話を聞く前に、まずは凍らせたこのゴキブリ共をなんとかしなければならない。……のだが、ゴキブリ共の後処理はみんなに任せてしまった。


 どうやら俺以外のみんなはゴキブリにそれほど嫌悪感がないらしい。ゴキブリに嫌悪感を抱くのは元の世界の人だけなのかな。


 そしてリリスさん達と疾風迅雷パーティのメンバーが手分けして生き残っていたゴキブリにとどめをさしていった。そして最後のゴキブリを倒すと大きな音を立ててボス部屋の奥の扉が開いた。


「よし、これでダンジョン攻略の依頼は達成だな」


「あの奥の部屋にボスを倒した報酬の宝箱と、ダンジョンの入り口まで戻れる魔法陣があると思いますわ」


 お、宝箱か。10階層を超えたあたりから中身の入った宝箱をいくつか見つけたのだが、それほど性能のよくないナイフや盾くらいしか出てこなかった。さすがにダンジョンのボスを攻略したわけだし、多少はいいものが入っているんじゃないか?


「今回ボスの中に魔法石を持った個体はいなそうだな。素材はこいつらの殻くらいは売れそうか?」


「……俺の分は絶対にいりませんからね」


 ゴキブリの外側の殻とか絶対にいらない。ゴキブリの防具とか、たとえ防御力が高くても絶対にごめんだ!


「お兄ちゃんに苦手なものがあるなんて意外だニャ」


 日本人なら大抵の人が苦手だと思うよ。外国の人とかどうなんだろうな?




「それでは詳しい話を聞きましょうか」


 ゴキブリ共をすべて倒したあと、俺とリリスさん、疾風迅雷パーティのリーダーと小柄な男。その4人で話をしている。他の人達は手分けをしてゴキブリの解体をしている。


「俺の弟が最近になって冒険者になったんだが、少し前に魔物に襲われて大怪我をしちまった。村の付近にいる回復魔法の使い手では現状を保つことで精一杯だ。


 大きな街まで移動させるのが難しく、高位の回復魔法の使い手を片田舎の村まで呼ぶには相当な大金が必要になる」


 なるほど、この世界の移動手段だと村から街まで行くのに数日から数週間、場所によっては馬車も使えず一ヶ月なんてこともありそうだ。そんなところに高位の魔法使いを呼ぶのにはよほどの大金が必要になるのだろう。


「アレックの野郎の身内だからな。俺達もできる限り力になろうとしたが、なにせ急な出来事ですぐに金が用意できねえ。それで金になりそうな依頼を片っ端から受けつつ、こいつらの村まで足を運べる高位の回復魔法の使い手を探していたんだ」


 どうやらこのアレックという小柄な男の弟が魔物に襲われて大怪我をしているらしい。そしてこの強面のリーダー、見かけによらず仲間想いのようだ。


 なるほど、切羽詰まっているわけだ。弟さんを助けるために、早急にお金が必要だったということか。アレックさんの村の位置を聞いたところそれほどまで遠いというわけではない。


「……わかりました。このダンジョンから出たらアレックさんの村に向かいます」


「本当か!?」


「ただしいくつか条件があります。まずは弟さんを助けることができなくても文句は言わないこと。俺もできる限りのことはしますが、間に合わなかったり、俺の魔法で治せなくても俺やリリスさん達を絶対に恨まないでください」


「ああ、当たり前だ!」


「あ、ああ。もちろんだ!」


「治療報酬は治療が成功した場合のみで、お金はいりません。そのかわりに治療がうまくいったら貸しひとつで、俺に何か困ったことが起きたら手を貸して下さい。それでどうですか?」


「……あ、いや、金なら払う。今は全額は払えないが、借用書を書いて必ず返すぞ」


「いえ、今はお金はあまり必要じゃないので、何かあった時に助けてくれることのほうが嬉しいです」


「……ちょっとストップだ。マサヨシ、ちょっと来てくれ」


「はい?」


 話の途中でなぜかリリスさんに止められる。そして2人と離れたところで話をする。


「マサヨシが優しくて困ったやつらをほっとけないのはよく知っている。俺達もそれに助けられたしな。だが、それに対する対価はきちんともらってほしい。マサヨシはそれだけのことをしてきているんだ」


「………………」


 ……対価か。こちらの世界ではそれが当然なのだろう。これだけ物騒な世界なら、誰かを助けようとするとするで、自分の命も危険に晒されるわけだからな。


「……本当はもう少しで金がたまるから、その後に言うつもりだったんだけどな。実はみんなやドラゴンの秘薬で助けてもらったマリーと相談して秘薬の分の代金はマサヨシに返そうってことにしていたんだよ」


「え、それは別にいいのに」


「いや、マサヨシの優しさは嬉しいが、その優しさに甘えたくない。それにマサヨシとは一方的に借りている関係じゃなく、関係でいたいんだ。だからこそマサヨシには金がたまったらちゃんと受け取ってほしい」


「……リリスさん」


 俺は軽い気持ちでお金はいらないと言ってしまったが、借りている側はそう軽くは思えないのだろう。もちろんリリスさん達とは対等な関係でいたいと思っている。


「わかりました。お金がたまったらありがたく受け取らせてもらいます。それとちゃんと対価はいただくようにしますね」


「ああ、ありがとよ」


 お礼を言うのはこちらのほうだ。リリスさん達にはいろいろと大切なことを教えられる。




 というわけで治療報酬はもらうことにした。金額は相場の最低限だが、そのかわりに何か俺が困っていることがあったら助けてほしいということも条件にしておいた。


 だが、それも怪我を治すことができてからだ。急いでダンジョンを出てその村に向かうとしよう。

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