第94話 玉突き事故
ビー、ビー
続けてさらに2回大魔導士が作った連絡用の魔道具が鳴り響いた。2回ということは俺の行ける範囲で事故が起きたということだ。
「すみません、こんな状況なんですがちょっと急用ができたのでこれで失礼します。あっ、ちなみにこの魔法については秘密でお願いしますね」
転移魔法を発動させる。そういえばサーラさん達に転移魔法を見せるのは初めてだ。まあこの3人になら見せても問題ない。それよりもこんなカオスな状況なのに日本に戻らないといけないことのほうが大きな問題なんだがな。
フッ
「マ、マサヨシ殿!? いきなり消えただと!?」
「い、今の魔法はまさか転移魔法……」
「マサヨシ様と結婚……マサヨシ様と結婚……マサヨシ様と結婚……」
大魔導士の家に転移魔法で戻ってきた。
「ホー!」
「ありがとうな、フー助」
出迎えてくれたフー助と一緒に扉を通って日本に戻ってきた。すぐにスマホを見て守さんからの連絡を確認する。いつものスーツを装着してフー助に小さくなって頭に乗ってもらい、転移魔法で事故現場から一番近いビルの屋上に移動した。
ビルからはそれほど離れていない場所だったので、風魔法で足場を作り、宙を駆けながら事故現場に向かった。もちろん隠密スキルは使っている。
「……あそこか」
高速道路から煙が上がっている。守さんからの情報によると高速道路での玉突き事故で、7〜8台の車がぶつかりレスキュー隊も出動しているほどの大きな事故のようだ。
事故現場の近くまで行くと危機察知スキルが複数反応している。まだレスキュー隊は到着していないらしい。グシャグシャになった多くの車が積み重なり、車から逃げ出せた人達が少し離れたところに避難している。
とりあえず避難している怪我人に大きな怪我のある人はいなさそうなので、未だに車の中に取り残されており、危機察知スキルが反応している人達の方へ向かった。
「……うぅ」
「ハイヒール!」
運転席で頭から血を流し意識を失っていた男性を車から離れたところに運び出して回復魔法をかける。傷が治っていき、青ざめていた顔色が少しずつ良くなってくるのを確認し、次に危機察知スキルの反応が強い車へ向かう。
「………………」
うおっ! 外傷だけならさっき人よりもやばい。しかも意識もないし、全身血だらけで右腕は変な方向に曲がっている。
バキッ
歪んで開かなくなった車のドアを力尽くで開け、血だらけの男性を車内から離れた場所に運び出して回復魔法をかける。これだけの血が出ていて怪我がまったく無いのは不自然なので、さっきの男性と同じように外傷だけは少しだけ傷跡を残しておいた。よし、次だ。
「私のことはいいから早く離れて!」
「由美を置いて逃げられるわけないだろ! くそっ、足が完全に挟まっていて抜けない!」
事故の中心部のあたりで、1人の男性が前の車に追突してひしゃげた助手席に挟まっている女性を必死に助けようとしている。
「いいから早く離れて! すぐに助けが来るから私は大丈夫よ」
「いつ車が燃え上がってもおかしくない状況なのに由美を置いていけるか!」
1秒先にはガソリンに引火して爆発してもおかしくない状況で、自分の命を危険に晒しながらも必死で女性を助けようとしている。よほどこの男性にとって大切な人なのだろう。
ミシミシ
大魔導士から継承した力で、潰れている車の鉄板を力任せに引き剥がす。
「痛っ! あっ、前の方が少しだけ緩んだかも」
「本当か!? これならいけるかも、いくよ!」
「……やった、出れたわ! いっくん、本当にありがとう!」
「由美、本当によかった! さあ早くここから離れるよ!」
男性が女性を背負い、事故現場から離れていく。こっそりと女性に回復魔法をかけておくことは忘れない。う〜む、あれは惚れるな。いやすでに恋人同士っぽいし、惚れなおすといったところだ。
よし、これで車に取り残された人は全員助け出せたようだ。念のために気配察知スキルで確認してみたがもう事故現場には誰もいない。
ふう〜なんとかなったようだな。
避難していた人で大きな怪我を負っている人達に回復魔法をかけていると、事故が起こった高速道路の反対側の方から救急車や消防車などがやっていきた。
そうか、こっち側の道は事故で止まっているし、反対の方向から来たから結構時間が掛かったのかもしれない。もう助けるべき人はいないが、まだ何か起こるかもしれないし、念のためにもう少しだけここにいよう。
「おい、そっちはどうだ!」
「こっちには誰もいない。次はその車だ!」
レスキュー隊が事故にあった車を順番に調べながら生存者がいないかを確認していく。
「おい、こっちに来てくれ! 大丈夫ですか、今助けますから!」
「すぐに行く!」
「………………」
レスキュー隊が潰れた車の中から必死で要救助者を助けだそうとしている。だが、俺の気配察知スキルと危機察知スキルに反応はない。
……ということは、今車の中から助け出されている人はもうすでに亡くなっているということだ。
今までいろいろなことが起きてきたが、人が亡くなってしまったのは初めてのことだ。もちろん俺が現場に到着した時点で、スキルによるこの人の反応がなかったということは、事故が起きて即死か、すぐに亡くなってしまったのだと思う。
交通事故、特に高速道路での事故なんて普通の道よりもスピードが出ているわけだし、亡くなってしまう可能性も高い。
頭の中では、たとえ俺がどんなに早く現場に向かったとしても、今回の事故みたいに間に合わないこともあるのだとわかっていても、なんとなくやるせない気持ちになってしまう。
「ホー!!」
「……そうだな、俺が気にしていても仕方がないってわかっているよ」
召喚獣であるフー助には俺の気持ちがわかるようだ。少し大きくなって俺の頭の上で、俺を慰めようとしてくれている。
そしてその後、事故の処理が落ち着いたところで俺も現場を離れた。
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