第92話 後始末


 天災は倒すことができた。しかしこの後始末はどうするかな。もしも天災を倒したことが国とかにバレたら間違いなく面倒なことになるよね。王様とかお偉い貴族様とか絶対に会わないと駄目な気がする。


 この場には先ほど放った極大魔法の跡がはっきりと残っている。天災がいた部分の草木はそのまま残っているので、ケシズミとなった黒い円の中にクッキリと天災の形がそのまま残っている状態となった。


 うん、まるでミステリーサークルみたいだな。これがあれば天災が消滅したことはわかるだろう。そうと決まればさっさと撤退するに限る。これ以上の面倒ごとはごめんだ。


 まあこれでサーラさん達も引っ越さなくてすむし、王都も移転とかにはならないだろう。サーラさん達の屋敷には何度もお世話になっているし、いつも立原家の食卓を支えてくれている市場やお店も守れたことになるかな。


 とりあえず今日はもう帰るとしよう。極大魔法を撃ったことで多少の疲労感がある。


 こいつみたいな変異種がそう何度も出てくることはないだろうけど、他の極大魔法も少し練習しておいたほうがいいかもしれない。時間のある時に何もない場所を探して極大魔法の練習でもするとしよう。


 




 そして次の日、天災を倒したあとの街の様子が気になってもう一度王都にやってきた。


 昨日は大勢の人が大きな荷物を持ったり、馬車に乗って王都であるルクセリアの街を出ようとする人達が大勢いたが、今日はほとんどいない。


「昨日は街から出ようとする人が大勢いたんですけど、今日は少ないんですね?」


「ああ、なんでも昨日あの天災がどこかに消えちまったらしいぜ。誰かが倒したのか急に方向転換したのか、詳しいことは知らねえが少なくともこの辺りにはいねえって国王様から通達があったんだよ」


 すごいな、昨日の今日でもう街全体に通達しているのか。まああんな大きな巨体がいなくなっていたら、誰にでもすぐにわかるか。


「そうなんですね、ありがとうございます」


 門番の人にお礼を伝えてサーラさんの屋敷に向かう。まだ昨日と同じで、少し門番さんの数が少ないようだ。


「あ、ダルガさん。今ちょっと大丈夫ですか?」


 いつも通り顔見知りの門番の人に案内してもらい、サーラさんの屋敷の中に入れてもらった。そしてダルガさんを発見した。


「おお、マサヨシ殿! ちょうど姫様も城から戻ってきたところです。我々も今から天災のことについてお聞きするところでしたので、一緒にこちらにどうぞ」


「あっ、はい。ありがとうございます」




「どうやら天災が消滅したのは間違いないようですね」


 いつも食事をしている食堂。今日はそこでサーラさんとダルガさんとジーナさんから話を聞いている。


「……よもやあの300年以上、誰も倒すことができなかった天災を倒すことができる者がいたとは」


「正直に言って私にはまだ信じられません! いくら相性が悪いとはいえ、あの大魔導士様が倒すことのできなかった天災ですよ?」


「ジーナの言うことも最もなのですが、大勢の目撃者がいるのですよ」


「目撃者ですか?」


 思わず口を挟んでしまった。天災を倒した時に近くに誰もいなかったことは気配察知スキルで確認したんだけどな?


「ええ、10人近くの冒険者や騎士団で、その中には高ランクの冒険者もいたので信憑性はあるそうです。とはいえ、直接見たわけではないらしいのですが。


 なんでも黒い仮面を付けた怪しい男が突然現れ、高位の魔法を次々に放っていったそうです。そして極大魔法を使用した際に現れる魔法陣が、空に浮かび上がったとのことです。極大魔法を使えるものなど世界にも数人しかおりません」


 ……この国の人から見てもやっぱりあの黒い仮面は怪しいのか。防御力が一番高そうで、顔を隠せるから一番最初に選んだんだけどなあ。


 大魔導士ももう少し見た目とかを気にして作って欲しいもんだよ。まあ、この仮面を選んだのは俺だし、ちょっと良いかもとか思っていたのは否定しないけど。いいんだ、俺は装備は見た目より性能重視だから!


「そのあと巨大な火柱が天災を包みこんだそうです。その際はまだ天災は動いていたそうなのですが、しばらくした後に大きな音が鳴り響き、天災は動きを止め、その後に一瞬で消えてしまったそうなのです!」


 極大魔法が駄目で爆弾を爆発させた時だな。そしてそのあとは収納魔法で死んだ天災を収納したから、突然消えたように見えたというわけか。


「それからしばらくしたあと、慎重に様子を見に行った冒険者達が見たものは、すべて燃やし尽くされた焼け野原にはっきりと残った天災の跡。そしてその前方に残っていた天災のものと思われる血と肉片。


 その状況から見て、その怪しい仮面の男が天災を倒したと判断されました。そしてその周辺を調査し、天災の姿がないことを確認して、本日の朝に天災の脅威が去ったと街に通達が出されたわけです。


 そういえば怪しい黒い仮面の男の話が出ました時に、なぜかお兄様達が2人とも動揺しておりましたね。もしかしたらその方に心当たりがあったのかもしれません」


 そういえば第一王子と第二王子はあの仮面をつけたまま警告に行ったんだっけ。まあこれだけの力を見せたんだから、今まで以上にサーラさんを襲ってくる可能性は低くなったと見て間違いないだろう。

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