第50話 パーティハウス


「……えっとみなさんちょっと近くないですか?」


「ん? そんなことないと思うぞ、マサヨシ兄さん」


「ええ、きっと気のせいですわ、マサヨシ様!」


「気のせいニャ!」


「おい、いいから3人ともさっさと離れろ!」


 リリスさんが大きな声でみんなを引き離そうとする。そうだよね、やっぱりどう考えても近いよね!


 今の俺は右腕には大盾を持っていたノノハさんが、左腕には魔法使いのルルネさんが腕を絡めてくる。そして背中にはネネアさんが抱きついておんぶしている状況だ。


 後ろはともかく、両側の2人の胸部の膨らみが完全に密着しているわけで、男子高校生にとっては刺激が強すぎる。俺も鎧を着ていなければ前屈みになっていたところだ。


「……仕方ないですわね」


「……ちぇ」


「……ニャ」


 ふう、ようやく3人とも離れてくれた。さっきからすれ違う人達(男性)が全員こちらを睨んでくるから生きた心地がしなかった。両手に花どころか後ろと隣にも花を持っていたら、それは刺されてもおかしくない状況だ。


 というか俺もそんな状況を見たら睨む以上のことをしてしまう可能性は高かった。しかし3人が離れてしまって残念でもある……こんなに女の子と密着したことなんてなかったのに。




 冒険者ギルドを出て5人で彼女達の拠点に向かう。ドラゴンを倒したことも秘密にしておきたいし、冒険者ギルドや広場だと会話が周囲の人に聞かれてしまうからな。


 案内された彼女達の拠点はそれほど大きくはない普通の家だった。ひとつの家をパーティで購入し、各部屋を個人の部屋にしていると言っていた。パーティハウスというものだろう。さすがに女性4人が住んでいる家にお邪魔するのは非常に緊張する……


「それじゃあ、まずはあの後のことだな」


「はい」


 大広間でリリスさん達からあの後の話を聞いた。ドラゴンの肝を無事に領主の屋敷に届け、待機していた錬金術師が最後の素材であるドラゴンの肝を使い、秘薬の精製に成功した。そしてそれを領主様に投与したところ少しずつだが体調が回復してきたらしい。今日お見舞いに行ったところ、今では歩けるほど元気になったようだ。


「彼女にだけは俺達がマサヨシに助けられたことを伝えたいのだが大丈夫だろうか?」


 まあ当事者だし、領主様なら簡単にバラしたりはしないだろう。


「ええ、問題ありませんよ」


「そうか、すまないな。全快したら直接お礼を言いたいと言い出すと思うから、忙しいところ申し訳ないが、少しだけ時間を取ってくれると助かる」


「ええ、その時はまた教えてください」


 趣味とかに忙しいだけで、時間には結構余裕はあるから問題ない。


「ありがとう、彼女に伝えておくよ。それでまずはこれがその秘薬だ」


 リリスさんが小さな小瓶を5つほど持ってきた。


「……えっとこれは?」


「今回領主様が患ったゾルアヌーク病の特効薬である秘薬だ。他にもいくつかの病の特効薬になる。錬金術師に1つ、冒険者ギルドに5つ、残りはマサヨシが持っていてくれ」


 なるほど、秘薬と言っても一度に結構な数ができるんだな。まあ逆にいうとあれだけ大きなドラゴンの肝を使ってこれくらいの数しか作れないということでもある。


「ありがとうございます。それでは4つだけもらって残るひとつはこのパーティのために取っておいてください」


 よくわからない病だが、身の回りの人達がかかる可能性があるのならばもらっておこう。ひとつはリリスさん達に持っておいてもらえばいいだろう。


「俺達の分は気にしないでくれ。もし俺達が病にかかったら冒険者ギルドに渡しておいた分をもらえるようになっている」


「なるほど、でしたら5ついただきますね」


 収納魔法で5つの小瓶を収納する。まあ使う可能性があるとも思えないが、収納魔法で入れておく分には特に問題はないだろう。


「それでこれがギルドに秘薬を5つ納めた分の代金だ」


 ジャララ


 うん? 俺の見間違いかな? 確か一枚50万円相当の100万Gもする大金貨でかなりの数がある。


「大金貨で100枚、全部で1億Gある」


「1億G!?」


「ああ、もしもドラゴンの肝を王都で競りにでも出せば3億Gくらいの値がつくだろうからな。渡した5瓶も、現金に替えたいなら同じ金額でギルドが喜んで買い取ってくれるぞ」


 5000万円……安い家なら買えるんじゃないか? しかも秘薬を売れば更に5000万円か。今現金が必要というわけではないから売らないけど。しかもこれが肝だけの値段なんだから驚きだ。ドラゴンの素材はまだ丸々残っているから全部売れば10億くらい超えそうな気がする。


 さすがはドラゴン、倒せば一攫千金というのも頷ける。一匹でも倒せば一生を遊んで暮らすことくらいわけないってことか。


「それでこれが私達からの謝礼で同じ1億Gある」


「なんで!?」


 なぜに今の話の流れからそんな金額になるの? さっきの説明だと領主様に使った秘薬が1瓶2000万Gくらいじゃないの? 錬金術師さんに報酬で渡した分を入れたとしても4000万Gが最高じゃね?


「みんなで出した結論だ。最悪あの場で俺だけでなく全滅していた可能性も十分にあった。そして領主であるあいつも助かることはなかったから、俺達全員の命の恩人ということで俺達が今払える全額だ」


「それと売らないように言われましたが、この家や装備のすべてを売れば更に1億Gくらいにはなるかと思いますわ」


「だニャ!」


「いやいやいや! そんなにいりませんから!」


 相変わらずこの世界の人達の謝礼は明らかに多すぎる。

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