第41話 ドラゴンブレス


 日曜日の朝早く、異世界への扉を通り、転移魔法を使い昨日の地点に戻る。事前に調べた情報によると、もう少し進むとワイバーンが住処にしている山があり、そして更にそこから山を2つ越えた先の山の頂上がドラゴンの巣となっているらしい。


 ひたすら山道を登り、ドラゴンの巣がある山を目指していく。隠密スキルのおかげでワイバーン達にも気付かれることなく山道を進む。途中何組かの冒険者パーティを見つけたが、おそらくはワイバーン狙いだろう。その証拠にワイバーンの住処である山を越えてからはもう誰にも会わなくなった。


 そして今この山を登れば頂上にドラゴンの巣があるはず。作戦も何もなく、大魔導士の魔法をブッパしてゴリ押しする予定だ。


「GYAOOOOO!」


 うおっ! いきなりドラゴンの咆哮が聞こえてきた! まだもう少し距離があり、隠密スキルを使って接近しているのにもう俺の存在がバレたのか?いや、特にドラゴンの方から姿を現す様子はない。見つからないよう隠れつつ、頂上にあるドラゴンの巣へ急いだ。






――――――――――――――――――――――――


「GYAOOOOO!」


「ちくしょう! なんて力だ!」


「リーダー! 無理ニャ、撤退するニャ!」


「くそ、だがあと数日のうちにこのドラゴンを倒さなければあいつが死んじまう!」


「無茶をしてあなたまで死んでしまって、あの人が本当に喜ぶとでも!」


「嘆くなら俺達の力の無さを後で嘆け! 今は引くぞ!」


「……撤退する! 俺が殿を務める! 下にある森の中までなんとか逃げ込むぞ!」


「おう!」


「はいニャ!」


「了解ですわ!」


 ちくしょう! 何がA級冒険者だ! 何が街一番の冒険者だ! 肝心なところで何一つできやしねえ! 俺達はなんて無力なんだ!


「GYAAAAAA!」


「やばい、ブレスがくる! 早く盾の中に!」


「リーダーが間に合わないですわ!」


「リーダー、早くニャ!」


 殿を務めて前と距離を取っていたのが仇になったか! くそ、ギリギリで間に合わねえ!


 ……悪いな、先に逝ってるぞ。俺の判断が遅かったばかりに、みんなまで危険に晒しちまった。どうかお前らは無事に逃げてくれ。


「GYAAAAAA!」


 ドラゴンの口から灼熱のブレスが放たれる。今回のドラゴン討伐のために特注で頼んだ炎に特化した大盾でようやくギリギリ耐えられる炎のブレスだ。当然生身で耐えられるわけがない。


 ……?


 すべてを諦めて目を閉じたのだが一向に肌が焼ける感覚がこない。


「んな!?」


「大丈夫ですか? 早く逃げてください。あのドラゴンは俺が倒します」


 目を開けるとそこには見知らぬ人族の男が平然と立っていた。






――――――――――――――――――――――――


 とりあえず隠密スキルで隠れながら様子を見てみると、どうやらドラゴンに挑んでいた先客がいたようだ。獣人女性4人の冒険者パーティがドラゴンと戦っている。


 こういうのに割り込むのはたぶんマナー的にダメなんだろうな。もしこの冒険者達が勝ったらドラゴンの肉を売ってもらえないか交渉してみよう。この人達が諦めて撤退したら次に戦わせてもらうか。……消耗したところで戦いを挑むのは少し卑怯な気もするがまあ仕方がない。


 そしてひとつだけ懸念していたドラゴンと意思疎通できるのではないかという点に関しては完全に否定された。破滅の森にいた魔物やワイバーンと同様に言語理解スキルは発動しなかった。あそこにいる獣人さん達の言葉は理解できるのに言語理解スキルの境界線がいまだによくわからない。


 ただ言葉が通じなくてホッとした面もある。いくら人を害する害獣であっても、目の前で理解できる言葉で命乞いをされれば、俺にはドラゴンを殺せる自信はない。もちろん言葉が通じなければ殺してしまってもいいということにはならないが、それでも同じ言葉を理解する者を殺すのはとても難しいだろう。




 どうやら獣人冒険者達は撤退を決めたようだ。それと同時にドラゴンが息を吸い込むような動作をするのが見えた。そして一番後ろにいるこのパーティのリーダーと呼ばれていた女性に危機察知スキルが反応しする。このパーティが撤退した後にこっそりとドラゴンに挑もうとしていたのだが、これは出て行かないとあの人が危ないな。


 獣人女性の目の前にでて、障壁魔法を三重に張る。


「GYAAAAAA!」


 灼熱の炎の海が障壁魔法に迫る。そして大魔導士の障壁が一つ割れた。どうやらこのドラゴンのブレスはあの神雷の腕輪並みの威力があるらしい。このドラゴンの圧も破滅の森にいた魔物以上に感じるし、これは真剣に行かないと危ないかもしれないぞ。


 どうやら獣人女性も無事のようだ。いきなりの乱入者に驚きを隠せないような顔をしている。


「んな!?」


「大丈夫ですか? 早く逃げてください。あのドラゴンは俺が倒します」


 一応断りを入れて改めてこのドラゴンを見る。


 ドラゴン、龍、ドレイク。元の世界では空想上の生き物でもあるにもかかわらず、世界中でその姿が言い伝えなどで残されている伝説の生き物だ。


 それが今、現実に俺の前にいる。ワイバーンの大きさは3m前後だがこのドラゴンの大きさはゆうにその5〜6倍の15m前後。どういう原理で飛んでいるのわからないが、バッサバッサとその大きな翼を広げ前後させて宙に浮いている。全身は美しい赤色の鱗に覆われており、頭には2本の大きな角がある。


 実際にドラゴンを目の前にすると凄いプレッシャーだ。冷静沈着スキルがなければ足が震えていたに違いない。

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