第35話 ワイバーン料理


「すみません、このおすすめのレッドブルの串焼きとビーカクックの串焼きってやつを1本ずつください」


「あいよ! ちょっと待ってな。おや兄ちゃん、この辺りじゃ見ない顔だな?」


 屋台の店主である髭面のおじさんが手を動かしながら話しかけてくれた。俺もこの辺りの名物とかを聞きたかったしちょうどいい。


「ええ、ここから結構離れた国から旅をしています。ちょうど今ルクセリアからこの街に到着しました」


「おおそうか! ルクセリアの街に比べたらそれほど大きな街じゃねえが楽しんでいってくれよな! ほらお待ち!」


 串焼きを2本受け取り代金を払う。日本円にすると一本300円くらいか。


「うん、脂が乗っていてすごく美味しい! それにこの塩ダレが本当に美味しいですね!」


 どちらの串焼きもとても美味い! 牛とも豚とも鳥とも違った味わいだ。串焼きといえば甘辛いタレか塩だが、この店の塩ダレもさっぱりしていてなかなかいける。普通の屋台のお店で、しかもこの値段でこれが味わえるならだいぶお得なんじゃないか?


「美味そうに食ってくれるなあ。その塩ダレはうちの店の秘伝のタレでよ、祖父さんの代から引き継がれている代物よ!」


「なるほど、それでこんなに美味しいんですね! この辺りだとレッドブルとかビーカクックが有名なんですか?」


「そうだな。この辺りで取れる肉の中ではその二つがピカイチだ。本当はこの辺りだとワイバーンの肉が一番のおすすめなんだが、ちと仕入れ値が高くて屋台で出すには難しくてな。もし懐に余裕があるなら向こうの方でワイバーンの肉を出している店があるから行ってみるといいぞ」


「ワイバーン!! ありがとうございます、行ってみます!」


 さすが異世界!! まさか早々にワイバーンの肉が食べられるとは!この世界のワイバーンがどういう存在なのか分からないが、これもドラゴンといえばドラゴンなんじゃないのか?




 串焼きを食べ終わり、屋台のおっちゃんのおすすめしてくれたワイバーンのお店に行ってみる。確かに少し高級そうなお店で、日本円にすると数万円はかかりそうだ。この世界では何百万円も持っているわけだし使う予定もない。この際だしパーっと使ってしまおう!


「お待たせ致しました。ワイバーンのステーキ、ワイバーンのシチュー、ワイバーンのテールスープでございます」


 うおおおおおお!!


 すごい、これがワイバーン料理か! お金には余裕があるから奮発して三つも料理を頼んでしまった!


「こちらのステーキはワイバーンのサーロイン部分を使用しております。シチューにつきましてはモモの部分を煮込んでおります。ワイバーンの尻尾部分は少々硬いので長時間じっくりと煮込んで塩味のスープ仕立てに致しました」


「なるほど、ありがとうございます」


 ウェイターさんからの説明が入る。さすが高級店だけあってウェイターさんの服装も接客もちゃんとしている。周りのお客さんも貴族や商人の格好をしている人が多く、鎧を着た冒険者の格好をしている者は俺一人だけだった。


「それではいただきます!」


 さあまずはワイバーンステーキからだ。じゅうじゅうと焼けた鉄板に綺麗な焦げ目のついた肉が載っている。ナイフを入れるとすっとその身に刃が入り、優しく切れる。その一切れをフォークでゆっくりと口に運ぶ。

 

 歯を入れると思ったよりもだいぶ柔らかい。溢れ出る脂の旨みやレア状態の肉の赤身の肉の旨さが口の中に溢れかえる。そして塩と胡椒のシンプルな味がその肉の旨さを一際輝かせる。俺が今までに食べた肉の中でも一番の味かもしれない。


 美味い!! なんという美味さだ。これは日本のA5ランクの肉とかも超えるんじゃないか? そんな高級肉、食べたことがないから分からないけど。




 気付けば無我夢中ですべてのワイバーン料理を食べ尽くしていた。ステーキだけではなく、シチューもスープも本当に美味しかった。いやあ、これは大満足だ!


「ご満足いただけましたでしょうか?」


 先程の初老の男のウェイターさんがお皿を下げてお茶を入れてくれた。


「あっ、はい! どの料理も本当に美味しかったです! ワイバーンのお肉って美味しいんですね」


「ご満足いただけまして何よりです。当店のワイバーンは専属の冒険者に定期的に依頼し、この街の北部にある山脈で狩ってきたものとなります」


 ふむ、北の山脈にはドラゴンだけじゃなくてワイバーンもいるんだな。


「なるほど、それでこんなに美味しいんですね」


「お客様のように美味しそうに食されていただけますと料理した者も嬉しいでしょう。それではごゆっくりどうぞ」


 説明も丁寧だったし、とてもいいお店だったな。転移魔法でこの街にもまたすぐに来れるし、またぜひ来よう。




「聞きましたか? やはり領主様はもう長くはないかもしれないようですね」


「ええ、とても残念です。我々商人どころか庶民のことにまで気を配る今時珍しい良い領主様でしたのに」


「なんでも非常に稀な病に倒れ、その薬がどうしても作れないそうです。今なんとかその薬を作ろうとしているらしいのですが、完成までおそらくは持たないと」


「……そうですか。我々には祈ることしかできないのはなんとも歯痒いですな」


「ええ、本当に。いや、楽しい食事の最中にすみませんな。ささ、引き続きワイバーン料理を楽しみましょう!」


 お茶を飲んで一息ついている最中に、隣の身振りの良い商人達から話が聞こえてきた。どうやらこの街の領主様が珍しい病に倒れたらしい。


 残念だな、怪我だったらこれも何かの縁だし、隠密スキルでささっと忍び込んで回復魔法をかけてあげられたのに。俺が使える回復魔法は病気には効かない。俺も祈ることしかできない。


 最後に少しだけ残念な話を聞いてしまったが、ワイバーン料理はとても美味しかったし、接客やこの店の雰囲気もとてもよかった。


 チップとして料金を多めに払って店を出る。さあ、腹も膨れたし先へ進むとしよう!

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