第23話 あれしかない


 というわけで今日は大魔導士の家で工作のお時間だ。大魔導士が使っていた鍛冶場で変装スーツをつくる!


 この鍛冶場には立派な炉や槌に金床などかなりの道具が取り揃えられている。また材料となるよくわからない金属や木、布などが取り揃えられていた。もしかしたらオリハルコンとか世界樹とかやばい素材なのかもしれない。


 こんな立派な鍛冶場で初めて作るのが、武器や防具ではなく変装スーツというのも俺らしい。とりあえず一瞬で着替えられる機能と最低限の防御力は欲しいところか。




「……よし、こんなものだろ」


 変装スーツを作り始めてから3時間ほど、ようやくある程度納得のいくものができた。大魔導士の家にあった魔道具の作り方的な本があったのでそれを参考にしてみた。相変わらず文字は読めるのだが、魔法的な内容は難しいところも多かったため、今大魔導士の家に残っているパーツなどをうまく組み合わせることによって、なんとかそれらしいものができた。


 スーパーマン的な感じのスーツに仕上がり、収納魔法から取り出す位置を指定すると一瞬で全身の服の上に装着されるといった仕様だ。強度もかなりのもので、大魔導士の家にあった神霊布とかいうやばそうな素材を使っただけあり、布でありながら破滅の森に住まう魔物の攻撃にも耐えられそうなほどである。


 顔面部分は前回王城に忍び込んだ時の黒い面を使う予定だ。あの面は元々大魔導士の家にあった防御力に特化した面で、飾り物がないから特徴もなく覚えられにくいだろう。


 青いスーツに赤いマントに黒い面。


 ……うん、不審者の完成だね! こんなのが街で出歩いていたら即通報案件ですわ。まあ俺だとバレなければそれでいいか。えっ、マントはいらないんじゃないかって? いや、ヒーローにマントは必須でしょ!


 それにしても物を作る作業もなかなか面白いものだ。大魔導士が趣味で武器や防具を作っていた気持ちも少しわかる気がする。


 一応鍛冶スキルも継承しているから俺にもできるし、こっちの世界の技術とかを異世界の素材で作ったら面白いかもしれない。日本刀とか手裏剣とか時間があったら作ってみよう。


 さて、今日はこのくらいで切り上げて元の世界に戻るとするか。






 次の日の授業も特に何事もなく終わった。やっぱり磯崎のやつがいないと学校も平和でいいな。


「じゃあな、また明日」


「立原くん、また明日」


「安倍も渡辺もまた明日な」


 今日は安倍も渡辺も部活だし、柳さん達にカラオケに誘われる前に帰るとしよう。女子3人とカラオケとか普通に無理だからな。


「あの、立原くんちょっといい?」


「あっ、うん。どうしたの川端さん?」


 カバンを持って教室を出ようとした時に川端さんに話しかけられた。


「……みんなには聞かれたくないから中庭に来てもらってもいい?」


「うん、もちろん」


 川端さんが小声で話しかけてくる。教室では話せないこと?……俺は鈍感系主人公などではない。この流れで来たらもうあれしかないんじゃないか?




「えっとね、実は立原くんに話があって……」


「うん」


 中庭に2人で移動してきた。川端さんはすごく言い辛そうにもじもじしているし、これはもう告白しかない! 俺の心臓がものすごい勢いで鼓動しているのがわかる。俺にもついに初めて彼女ができるかもしれない!


「私の友達の護衛をしてほしいの!」


「………………はい?」


「えっとね、実は私の中学校での親友がアイドルみたいな活動をしているの。それでね、最近なんだか誰かに後を追われたり、ずっと見られている気がするんだって。それに変な手紙も送られてきたらしいの。


 でも彼女もまだ学生でテレビに出るような有名なアイドルでもないし、警察にも通報しづらくて……」


 どうやら川端さんの親友がストーカー被害を受けているようだ。しかも警察に相談したいと言うことはかなりやばい状況なのかもしれない。


「それで最近は私も時間のある時は彼女とずっと一緒にいるんだけど女の子2人だとやっぱり怖くて……それで先週に立原くんが磯崎くんを投げていたのを見てすっごく強いって知ったの。安倍くんに聞いたら柔道を習っているって言ってたし!でも危険もあると思うしなかなか言い辛くて……」


 なるほど、確かに川端さんは俺がテニスボールを片手で掴んだり、磯崎をぶん投げたのを間近で見ている。だが、護衛をするということは当然俺が怪我をする可能性もあるから言い辛かったわけだ。




 ………………告白じゃないのかよ!


 ぐわあああ、めちゃくちゃ恥ずかしい! 異世界でサーラさんといい感じだったり、柳さん達からも声をかけられて俺モテ期来てんじゃね?とか調子に乗ってしまっていたさっきまでの自分をぶん殴りたい!


「危険もあると思うけど、こっちが3人もいたら向こうも何もしてこないと思うの。私もこんなことを同級生に頼むなんておかしいってわかってるわ。でもどうか私達を助けてください! お願いします!」


 川端さんが頭を下げる。告白ではなかったが、俺なんかを頼ってくれたのは単純にすごく嬉しい。そんなもの俺の答えは決まっている。


「うん、引き受けるよ」


「……えっ、でもそんなに簡単に決めちゃっていいの? 本当に危険なんだよ! よくニュースでもストーカーに殺されちゃう人だっているし、返事はすぐじゃなくても大丈夫だから、もっとゆっくり考えて」


「大丈夫問題ないよ。黙っていたけど俺は刃物を持った人にも余裕で勝てるくらい強いから大船に乗った気でいてくれていいよ」


 俺がいじめられていた時は何度か川端さんに救われてきた。いじめをはっきりと断れる勇気を持った川端さんを俺は尊敬している。そんな彼女に頼られたのなら俺はそれに応えるしかない!まあチートみたいな力があるから言えることではあるがな。


「……立原くん、本当にありがとう!でも危ないと思ったらいつでもやめていいからね。彼女にはあらかじめそう言ってあるから。それとアルバイト代もちゃんと出すからね」


「アルバイト代はいらないよ。川端さんには前に何度か助けてもらったしね。でもひとつだけ。実はちょこちょこ緊急の用件が入ることがあって、その場合は1時間くらい抜けることになるんだけど大丈夫?」


 危機察知スキルに反応があった時は少しの間だけ抜けなければならない。こっちの方は確実に命の危険があるし、川端さんの親友には悪いがこちらの方を優先だ。


「本当に危ないかもしれないんだから、アルバイト代は受け取ってもらわないと絶対にだめよ! あっ、途中で抜けるのは全然大丈夫よ、立原くんの時間のある時だけでも一緒にいてくれると本当に助かるわ」


 相変わらず川端さんは真面目だな。それこそただでいい肉壁が手に入った、ラッキー!くらいに思えばいいのに。まあ彼女がそんな性格でないことは知っているけどさ。


「了解。それじゃあ、ありがたくいただくよ。でも大したことができるかもわからないし、バイト代はそんなにいらないからね」


「ううん、一緒にいてくれるだけで本当に心強いわ! 今日は時間大丈夫?このまま彼女を紹介してもいい?」


「うん、いつでも大丈夫だよ」


「わかったわ、彼女に連絡してみるね!」




 そしてそのまま川端さんと一緒に電車で移動し、駅前の大きな公園に移動する。川端さんの親友は今日その公園のステージで小さなライブをしているらしい。


「あっ、あそこみたい!」


 川端さんの指差す方向には大勢の人集りがあった。おいおい、川端さんはそんなに有名じゃないって言っていたけど、結構有名なんじゃないかな?


 入り口で川端さんが係の人に話をして中に入れてもらう。何人かの綺麗な女の子達が歌いながら踊っている。みんな同じ格好をしているということは全員同じグループなのだろう。俺はアイドルとかは全然分からないから何のグループかもわからない。確か渡辺がこういうのに詳しかったはずだし、明日学校で聞いてみよう。


 ライブが終わるまで川端さんと一緒にしばらく待った。大きな拍手とともにステージから女の子達が降りていったからこれで終わりなのだろう。それにしてもみんな歌が上手だったな。まあアイドルなんだから当然なんだろうけど。


「今連絡があって、ステージの控室に来てほしいって」


 ここの公園の野外ステージは結構大きくて小さいがちゃんと控室があるらしい。どうやら関係者はそこに入ってもいいとのことだ。


 もう何度も控室に入ったことがあるのか、すでに話を通しているのか分からないが、川端さんは控室前にいる警備の人に会釈をしてそのまま通っていった。最近はいつも一緒にいると言っていたし常連さんなのかもしれない。俺も川端さんの後についていくが、本当に男の俺が控室に入っても大丈夫なのだろうか?

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