第16話 異世界の街並み


「見えてきましたよ、あの街がエドワーズ国の王都であるルクセリアの街です」


「おお、すごい大きな壁ですね!」


 馬車の窓からサーラさんの指差す方向を見ると、そこには高くそびえる大きな壁に護られている街があった。


「はい、あの高い壁により他国の侵攻や魔物の襲撃を幾度も防いで参りました」


 あの後、特に大きな出来事もなく、昼に休憩を取り無事に日が暮れる前に街に到着したようだ。ぶっちゃけ自分で走った方が馬車よりも断然速いのだが、綺麗な女性2人と馬車の旅というのもなかなか良いものだった。


 最初慣れるまでは普通に会話するだけでもドキドキしていたけどな。こればっかりは今まで女性に免疫がなかったからしょうがない。




 壁の前で門番達の検問を受けて壁の中に入る。身分証などは当然なかったが、この国の王女様が身分を保証してくれたので特に問題なく街に入ることができた。


「おお〜!!」


 城壁の中にはこれこそ異世界と呼べるような景色が広がっていた。門の前には大勢の人々や荷馬車が所狭しと行きかう余裕があるほどの広い道。その道を行きかう人々の格好も様々であった。


 大きな荷物を背負った商人のような人、農作物をたくさん持った農民のような人、プレートアーマーを身につけた騎士か冒険者のような人。


 そして頭から耳を生やし、長い尻尾をパタパタと振っている猫の獣人、ほとんど犬の姿のまま二足歩行しているような犬の獣人、毛むくじゃらの髭面をした少し背の低いドワーフなど、人族以外の様々な種族がこの街には存在しているようだ。


「これはすごいですね!!」


「ふふ、この街を訪れた人達はみな驚きますよ。王都というだけあって、これだけ大きな街は他の国をあわせてもそうはないでしょう。そして多くの人々が国中から集まってくるため、様々な種族の者がここにはおります」


 なるほど、これはテンションが上がる! まるでアニメや漫画の中の世界に入り込んだみたいだ!


「あの大きな建物はなんですか?」


「あちらは商業ギルドです。この街で商売をする場合にはあそこで登録をする必要があります」


「なるほど。あっ、あっちの建物は?」


「あちらは冒険者ギルドですね。あちらでは冒険者登録をすることができます。反対に冒険者に依頼を出すことも可能です。他にも素材の買い取りなども行ってくれますよ」


「おお、あれが冒険者ギルドなんですね! それじゃあっちの煙突から煙の出てる建物は?」


「あちらは鍛冶屋です。この国では鍛冶屋も有名ですので、もしよろしければご紹介しましょうか?」


「本当ですか! 後で是非お願いします! あっ、あとあの建物はなんですか?」


「あちらは……」


 ちょっとテンションが上がりすぎてサーラさん達を質問攻めしてしまった。だって異世界の街だよ! 中世みたいな街並みが実際に広がっているし、獣人さんやドワーフみたいなファンタジーの中だけの種族が現実にいるというだけでそりゃ興奮してしまう。




「こちらが私の屋敷です。狭い屋敷ですが、どうぞごゆっくりしていってください」


「……あっ、はい。お邪魔します」


 狭い屋敷と言われて案内されたその屋敷はこの街で見てきたどの建物よりも大きかった。よくよく考えてみれば、サーラさんはこの国の王女様なんだよな。これだけ大きな屋敷に住んでいても不思議じゃないか。


 ダルガさん達は捕らえた賊を憲兵に引き渡しに行っている。これから憲兵と一緒に尋問をするとのことだ。この世界の尋問方法とかあまり想像したくない。




 メイドさんに案内されて水浴びをさせてもらう。そしてその後は部屋に案内されてしばらく休憩させてもらった。


 異世界にもメイドさんがいたことに俺は感動を覚えた。だってリアルで天然なメイドさんだよ! メイド喫茶にいるような養殖物のメイドさんじゃないんだよ! そりゃ興奮もするってもんですよ!


 こちらの世界のメイド服は黒色の布地に白いエプロンといったシンプルなメイド服だった。フリフリした布地などはなく実用性を重視した服となっている。当たり前と言えば当たり前か。


「マサヨシ様、夕食の準備が整いました」


「はい、ありがとうございます」


 メイドさんに連れられて大きな部屋に通される。美しい装飾品や高そうな絵画や美術品が飾ってある。まだサーラさん達はまだ来ていないようで一人で椅子に座る。異世界のご馳走か、ドラゴンステーキとか出ちゃったりするのかな?


「マサヨシ様、お待たせ致しました」


「いえ、全然待っていま……」


 俺は言葉を失ってしまった。先程までずっと一緒にいたサーラさん、初めて出会った時から可愛い女の子だとは思っていた。


 しかし今は土まみれだった髪は綺麗に洗い流されて、その美しく光り輝く金色の髪はたなびいている。鮮やかな赤色のドレスに身を包み、キラキラとしたネックレスで着飾り、少し化粧もしているのだろう。その姿は絶世の美少女と呼ぶのに相応しい姿だった。


「あの、マサヨシ様?」


「いっ、いえ失礼しました。あまりにも先程までと雰囲気が違って、えとその、綺麗でしたので……」


「まあ、ありがとうございます。それでは改めまして、この度は我々の命を救っていただきまして誠にありがとうございました。本当に感謝しております。長旅でお疲れでしょう、まずは料理をお楽しみください」


 こちらとしては結構頑張って女性に面と向かって綺麗と伝えたのだが、やはりサーラさんは綺麗なんて言葉は言われ慣れているのだろう。


「はい、こちらこそご招待ありがとうございます。いただきます」


 サーラさんの隣にはジーナさんも一緒にいる。ジーナさんも綺麗に着飾っていた。


 異世界での料理はとても美味しかった。材料を聞いたら魔物の肉と聞いて驚いたのだが、品種改良をされて美味しく育てられた元の世界の肉と同じくらい美味しかった。残念ながらドラゴンの肉とかまでは出なかったけどな。




「それではマサヨシ様は明日はこの街をまわるのですね」


「はい、せっかく素晴らしい街なのでいろいろと歩いてまわってみようかと」


 美味しい食事に満足をして、サーラさんとジーナさんと話している。


「でしたら、私もご一緒させていただいてもよろしいでしょうか? いろいろと案内させてください」


「姫様、案内でしたら別の者がさせていただきますので」


「ええ、さすがに王女様に案内してもらうわけにはいきませんよ」


「いえ、ぜひとも案内させてください! もしかしてマサヨシ様は私と一緒ではご迷惑でしょうか……」


「……いえ、迷惑だなんて」


 その上目遣いは反則である。


「でしたらぜひご一緒させてください!」


 ジーナさんの方をチラッと見ると諦めたようにため息をついている。もしかしてサーラさんは言い出したら聞かない性格なのだろうか。


「はい、ぜひよろしくお願いします」


「はい! こちらこそよろしくお願いしますね!」


 満面の笑みでサーラさんはにっこりと微笑む。ジーナさんには悪いが明日が少しだけ楽しみだ。

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