第4話 母さん
サイズを測り終わり、買い物を終えてパンツ以外の買った服をそのまま着て家まで帰ってきた。
帰り道でもすれ違った女性がチラチラとこっちを見てきたり、後ろでキャーキャー言ってたので、俺は本当にイケメンになったのかもしれない。もちろん痩せたこともイケメンになったことも非常に嬉しいと思う。家に帰ってからも、普段はまったく見ない鏡で自分の顔を見てニヤニヤしていた。
しかしひとつだけ問題がある。俺がたった一晩でこれだけ急激に痩せたことを母さんになんて説明しよう。死のうとしたら異世界への扉を見つけてそこで大魔導士の力を貰ったなんて説明できるわけがない。
というか変わりすぎて俺だとわからない可能性も非常に高い。まあその場合は昔の記憶とかを話せば証明はできそうか。とりあえず昨日の夜に急激な身体の痛みがあって、朝から起きたらこうなっていたと説明するしかない。一応大魔導士の魔法の中で記憶を操作する魔法はあるが、母さんにそんなことをしたくはない。
「ただいま?。いつも遅くなって悪いわね、ご飯の準備もありがとね」
母さんが帰ってきたようだ。いつも通り母さんの晩ご飯は簡単なものだが俺が作ってある。意を決して自分の部屋から出る。
「母さん、おかえり。えっと、ちょっと話があるんだ」
「ちよっ、ちょっと、どうしたのよ正義! なんであんたそんなに痩せてるの! 体調は大丈夫なの? 何かの病気じゃないわよね!」
……よかった。痩せてはいるが俺が母さんの息子だということは疑っていないようだ。それだけのことなのにとても嬉しい。
「いやなんか昨日寝ていたら身体中に激痛が走って朝起きたら急激に痩せていたんだ。でも体調は大丈夫そうで、むしろ昨日よりも調子がいい感じがするんだ」
「なんですぐに連絡しないのよこの子は! 今からすぐに病院に行くわよ! 何かあってからじゃ遅いんだからね」
「えっと、病院は大丈夫だよ。体調は問題なさそうだし」
「馬鹿言ってるんじゃないわ。明らかにおかしいでしょ。母さんの病院ならこの時間でも見てくれるわ!……救急車までは呼ばなくても大丈夫かしら? ほら、早く車に乗りなさい!」
「わっ、わかったよ」
ここまで俺のことを心配してくれているのに病院は行かないなどとは言えない。異常はないと思うが、ここは母さんに従おう。
そのあと母さんの病院に行って、血を抜かれたりレントゲン検査をしてもらったが、すべて異常なしだった。むしろ前回の健康診断で太り過ぎと診断されていたところがすべて健康状態となっていた。
「はあ?、異常はなさそうで本当によかったわ。でも油断しちゃだめよ、何か少しでも体調がおかしくなったらすぐに連絡しなさい!」
帰りの車の中で母さんと話す。検査にだいぶ時間がかかってしまい、もうすぐ日付が変わってしまいそうだ。
「わかったよ、母さん。それにしてもよく俺のことがすぐにわかったね。自分でも起きた時にこれが本当に俺なのかどうかしばらくわからなかったのに」
「何言っているのよ! 息子なんだから急に痩せてもわかるに決まっているでしょ。それにあんたが普通の体型だった保育園のころと同じ顔をしてたし、父さんの若い頃にもそっくりだったわ」
ありがとう、母さん……
そっか父さんも若い頃はこんな顔をしていたんだ。残っている写真は大人になった後の写真しか残っていなかったからな。
「でも体調に異常がないなら今のあんたの方がいいわね。なんでご飯は普通の量しか食べてないのにあんなに太っていたのか不思議でしょうがなかったわ。覚えてる? あんた痩せてた保育園のころは女の子にモテモテだったのよ」
「一応ね。なんかバレンタインデーとかにいっぱいチョコを貰ってた気がする」
「そうそう、いっぱいチョコレートもらったって笑顔で話してたわよね。ホワイトデーのお返しを自分で作るから材料が欲しいなんて、その頃からそういうところはマメだったわよね」
「はいはい、よく覚えているね」
「正義のことなんだから当たり前でしょう。……最近あんまり元気なさそうだったから心配していたのよ。今度久しぶりに休みが取れそうだから、たまには美味しいものでも食べに旅行に行くわよ」
……そっか、俺がいじめられていて元気がないことに母さんは気付いていたか。仕事が忙しくてあんまり話はできてないのにちゃんと見ててくれるんだな。
「うん、確かにこの前まではちょっと辛いこともあったけどもう大丈夫! それに最近やりたいことを見つけたからそれが楽しみでしょうがないんだ。もしかしたら今度泊まりでどこかに出かけるかもしれないから先に言っておくね」
言うまでもなくあの異世界での探索だ。もしかしたら向こうの世界で泊まる可能性もあるから先に伝えておこう。
「あらそう、ならよかったわ! 最近は友達とどこかに出掛けることもなかったから心配してたのよ」
「そっ、そうなんだ……」
ごめん、友達は今はいないんだ。中学の頃や高校に入ってすぐの頃はよく友達と遊びに出掛けていたけれど、いじめグループに目をつけられてからはみんな離れていった。
もちろんみんなを責めるつもりなんてない。下手をしたら今度は自分がいじめられてしまう可能性があるのだから当然だ。俺も最初にいじめられていた子には自分から近付かないようにしていたしな。
「何か辛いことがあったらすぐに言いなさいよ。母さんはいつでもあんたの味方だからね」
「……うん、ありがとう。母さんも何かあったら俺にも頼ってくれていいからね。今の俺ならなんでもできるから」
「ふふ、頼りになるわね。それじゃあ何があったら遠慮なく相談するわね」
「任せておいてよ!」
大魔導士から貰った力だが、今の俺なら大抵のことができる。身近な人が困っていたら力になってあげられるといいな。
さあ、明日は月曜日でいよいよ学校へ行かなければならない。どうせいじめグループが絡んでくるだろうからいろいろと考えておかないといけないな。
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