第十七話
昼休み、俺は喜一先輩という人に呼ばれたため視聴覚室へとやってきた。
中に入る瞬間に一瞬、あの時のことを思い出して入るのを拒んだが勇気を振り絞って中に入る。
「おっ、来たか」とそこには菓子パンを食べている一人の……緑のネクタイからして三年生だろう。
この人が喜一という人で間違いはないだろう。
「はい、えーっとなぜ俺を呼んだんですか?」
俺とこの人は初対面だ、一度も話したこともないしなんなら顔も今初めて見た、そんな人だ。
「まあまあ、隣に座ってくれよ。光一くん♪」
何故俺の名前を知っているのだろうか。
わからないが、とりあえずは座るとしよう。
「は、はあ」と隣に座る。
「ん、これやるよ」と長机に置かれたコンビニの袋からカレーパンを取り出し、俺に渡す喜一先輩。
「あ、ありがとうございます」とそれを受け取った。
「まあ、食べながらはなそーや」
この感じ、俺が何か悪いことをしたとかそういう感じではなさそうだ。
俺はカレーパンの封を開けて一口食べる。
「んで、話っていうのはさ、光一くん。君って真奈と付き合ってるんだよな?」
真奈は校内ではかなりの知名度を誇っている、そのためひとつ上の先輩が知っていても何もおかしいことじゃない。
「そ、そうですけど」
「実はさ、俺と真奈って家族絡みで結構仲がいいんだよね。あー、恋の邪魔をするとかそういう話ではなくてだな、今日真奈は休んでるだろ?」
「体調を崩したみたいですね」
「いや、それは仮病だよ。本当はだけど、ここだけの話昨日さ真奈が俺のところに相談しに来たんだよ。光一くんがなかなかシてくれないってさ」
ああ、そういう話か。
そっか、そうなんだ。
──真奈もシたいんだ。
「自分では恥ずかしくてそれが言えないんだってよ。だから俺が代わりにってわけ……」
なら、手を出してもいいってことだよな。
今は寝取られたとかそんなのどうでもいい。
とりあえず、真奈とシたい。
コクリと俺は頷く。
「それで真奈は今日、今この瞬間も光一くんを待ってるってわけ。正直さ、真奈とシたいだろ?」
コクリと俺は頷く。
「だろだろ、だったら今日ってわけ。ほら、早退して今から真奈のところに行った方がいいぜ?」
そうか、そういうことなんだ。
今なら真奈とヤれるんだ。
「そうなんですね」
「おうよ、ほら、さっさと真奈の家に行ってヤってこい……これやるかよ」と喜一先輩はポケットを漁り出して、ほい、と俺に二つの箱を渡す。
精力剤とコンドームだった。
「正直、俺の立場からするとなんともいえないが、まあたくさんシてこいよ」
「ありがとうございます」
やった……真奈とヤれる。
喜一先輩、この人は優しい人なのかもしれない。
ああ、楽しみだ。
真奈とたくさんできる。
今なら夢芽という邪魔者もいない。
「じゃあ、とっとと行ってやれよ」
「はい……!」
もしかしたら、俺とすることで気も変わるかもしれない。
そんなありえない可能性を妄想しながら、俺はポケットに精力剤とコンドームをしまい、視聴覚室を後にした。
○
視聴覚室の入り口──。
真顔の少女──白石夢芽が扉に耳を当て、徐々にハイライトが消えてく。
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