お小遣いから始まるスローライフ

雫の妖精

第1話 死んだみたい


 目が覚める。いや感覚でいえば水の中から浮上してくるような感じだろう。まるで体が無いかのような魂だけが抜かれていくような感じである。夢心地、脳は動いていて考えているけれど、何も考えられないような状況から不意に…
















 「……………ハッ」



 突然意識がはっきりした。目を開けるとなんにも無い、上も下も、ただただ真っ白い空間が広がっていた。



 「どこなんだここは…………………夢かなにかか?」



 「いいえ夢では無いですよ」



 声がした方へ振り返ってみると、白いワンピースのような、古代ギリシャのような服装をした美女が微笑みを浮かべながら立っていた。



 「こんにちは神風颯馬さん。あなたは誠に残念なことに死んでしまいました」

 


 「…………………えっ??」



 このいかにも女神様という美女はやはり女神様で、名をディアナ様。地球を含むいくつかの世界を管理しているらしい。



 いきなりで悪いが、俺の名前は神風颯馬という。享年22歳。大学4年生で就職先がなんとか決まり、後は卒業論文と残りの単位を取るだけだった。地頭は悪くないがめんどくさがりで全然勉強してこなかった。大学は有名な頭の良いところではなく1ランクか2ランク下くらいの、そこそこ頭は良いがあまり有名ではない大学だ。適当に出願しなんか受かったような感じだ。



 まあこれらのことは置いておこう。それよりも今が大切だ。



 「俺は、いや私はなぜ死んでしまったんですか?」



 そう、俺は死んでしまったらしいのだが、いまいち死んでしまった理由がわからなかった。よくあるようなトラックにぶつかる、次元の狭間?に落ちる、不幸や病で亡くなるようなことは無かった。いつものように夜更かしをして寝ていたはずだ。



 「本当にごめんなさいね。あなたが死んでしまったのは私の部下のせいなの」



 女神様の話をまとめるとこうだ。


 1,女神様には大きく分けて2種類の部下がいる。1つはいわゆる天使というやつで女神様よりも低い権能で世界、神界の管理をする。もう1つはいわゆる死神で、死んだ者の魂運び輪廻転生のさせる、寿命を決めるなどの、生と死を管理している。

 2,とある死神が寿命で亡くなる老人と間違えて俺の魂を引っ張ってきてしまい、同僚の死神がたまたま違うことに気づいてくれて、ここに連れられた。

 3,そして女神様の足下で、土下座をして謝罪をしているのが、間違えた死神らしい。



 「まことに、まことに、申し訳ありませんでした。ごめんなさい。本当にすみませんでした」



 「もうわかりましたから、頭を上げてください」



 「わかりました」



 シュバッと素早く立ち直った。あれ?もしかしてあんまり反省してない感じ?



 「…………………はぁ……………あなた全然反省してないでしょ」



 女神様がものすごく呆れてる……いや怒っている気がするな……………………



 「いきなりで申し訳ないのだけれど、神風颯馬君、あなたは転生をするか、転移をするか、天国・天界に行くかを選んでもらうことになるの。生き返らせたり時間を巻き戻したりはできず、同じ世界には転生・転移はできない決まりになっています。どうしますか」



 ああ異世界転移かぁ…よく小説とかで読んでいたあれかぁ……なんかわくわくしてきたかもしれない。もともといけたらなぁとは思っていたのだ。むしろありがたくすら感じるかもしれない。



 「ふふふ……とってもポジティブなのね、フフ」



 女神様に笑われてしまった………………恥ずかしい………………………………………………………いやでも普通に考えたら、悲しんだり怒ったりするものかもしれない。だって死んでしまっているんだからな。別に未練が何にも無いとか両親と仲が悪いとかでは決して無い。だけどなんか人生がつまらなく感じていた。世間一般から見れば、普通に裕福な生活をしていただろう。友達もいた。それでもなんか__________



 「大丈夫です……私は女神ですからあなたが今考えていることがわかります。もしかしたらあなたは、他の人からしたら、薄情のように思われるかもしれません。なぜなら両親や友達と永遠に別れてしまうのに、悲しみよりも楽しみが勝っている状態ですからね。でもそれが悪いことだとは思いません。人の気持ちや考え方は人それぞれで、誰かに指示されるようなものではありませんからね。そして、決してさみしさや悲しみが無い、という訳では無いようですからね。その上でもう一度言いますが、大丈夫です。親は子供がどこに行こうが親です。どこで何しようが応援するのが親です。あなたの両親は優しい方です。あなたが急死してしまったため泣いているかもしれません。なぜ先に死んでしまったのかと怒っているかもしれません。それでも来世は健やかに生きられるよう、長生きできるよう、もしくは天国で待っていてくれ、などというようにあなたを思い続けます。ならばこそ、あなたのように、前を見るというのは両親への今できる最後の親孝行なのでは無いでしょうか?今までありがとう、この気持ちがあるのなら良いのでは無いでしょうか?」



 「はい。ありがとうございます神様。やっぱり異世界転移に憧れます。行かせてほしいです」



お母さんお父さん姉妹友達よ“今までありがとう”元気でな



 「ええ、ええ、もちろんです。こちら側の不手際であるので記憶はそのままで、お好きなスキル・能力を3つ決めてください。あなたがこれから行く世界はエルデンディアといい、剣と魔法、魔物が住み着く世界です。また魔族や獣人はいますが、魔王や勇者はおりません。時間はあるのでゆっくりと決めてください。私はこの子と少しお話をしてきますので」



 「ひぃっっっ」 ビクッ



 そう言うと女神様は死神の少女を連れて消えてしまった。


 一人何も無く真っ白な空間で、どんなのが良いか、異世界で何がしたいのか、などをもくもくと考えた____
















 それから1時間?ほどがたっただろうか。ほんとに何もないので正確にはわからないが体感それくらいだろう。すると女神様と死神の二人が戻ってきた。



 「どうかしら、そろそろ決まったかしら?」



 「はい一応決まったんですが、無理かもしれないのもあるんですよね」



 「あらあらそうなの?大抵のことは大丈夫よ。不老不死かしら?」



 「いえ不老不死では無いです」



 不老不死も考えてはいた、死なないのは魅力的だが、死なないというのはつらいことかもしれない。読んでいた小説にもよく出てくる。死ねないことのつらさが……



 「えっと………まず結界魔法ですかね」



 「結界魔法?」



 「ああっと、なんか自分の身を守れるバリアー的なのが欲しいんですよね。かなり頑丈なのが、できればそれを自由に操れたら良いですね」



 「なるほどねぇ、面白いけど大賢者とかもっと自由に魔法が使えるようにしても良いのよ」



 「いえ、自分の身が守れれば良いです」



 「わかったわ。それとなくそんな感じの結界・防御重視のを作っとくわ」



 さすが女神様だな。新しい魔法っぽいのに対応してくれたぞ。あざっす。



 「ありがとうございます。それで2つ目は、知っている飲食物を作る、もしくは生み出す能力をください。異世界の食事事情はわからないんですが、日本食が食べたくなるかもしれないし、飲み物と食べ物が出せれば、とりあえず飢えることは無いと思うので、お願いします!」



 「これもまた面白いわね。もちろん良いわよ。ただあなたが見たことも無い知らない物は無理です。また魔力を消費することになるから、無尽蔵にとはいかないわ。これは魔力からだけど、無から有を作るのは結構魔力消費するからね」



 よし、自由度は少なくなりそうだが、これで飢えたりすることはなく、万が一異世界の食事事情が最悪だとしても大丈夫そうだな。でもやっぱり無から有それも食べ物を作るのは魔力消費が大きいのか。まぁ仕方ないか。



 「それで大丈夫なのでお願いします。それで最後なのですけど……少し言いにくいのですけど………」



 「なにかしら?」



 「無理なら無理で良いんですけど…………………………………………………………………お小遣いをください」



 「はいっっ???」



 「えっとつまり______」



 とりあえず僕の考えを女神様に伝えた。簡単に言ってしまえば働くのがめんどくさいから生活費が欲しいと言うことだ。ドヤッ。


 まぁ変な考えかもしれない。空間魔法とか転移とかあったら楽で良いかもしれないとかも思ったりはした。でもこっちの方が自分に合っている気がした。もちろん一生そのお金で過ごすとは考えてない。ただお金はどこでもあるならあるだけいいというだけだ。



 「わかりました。良いでしょう」



 「えっっっ、いいんですか?」



 「はい、ただ無制限というのは経済が狂ってしまいますし……そうですね、月に大金貨10枚、日本円で1000万円ほどですかね」



 「……はぁっ………………………………………………はぁぁぁぁ!?!?そ、そんなに良いんですか!?」



 「ええ、では上限は白金貨10枚日本円で10億円貯まったら追加はなしで、そこから減った分次の月に振り込みましょう」



 ま、まさかそんなにもらえるとは思ってもいなかった。これはいよいよ働かなくなるかもしれないな。まぁラッキーくらいに思っておいて使いすぎには注意しよう。まぁ元々物欲はそんなに無いし、宝石とか服とかにも興味ないし、そんなに使わないかもな。



 「ではこの袋から取り出す形で、心の中で今ある金額が知りたいと思ったらわかります。また欲しいと思った貨幣が取り出せるようにしときますね」



 「ありがとうございます」



 マジで神だなこの女神様。



 「では最後に3つほど」



 「はいっ」



 「1つ目は、私からのほんの気持ちとして、長寿の薬、マジックバック特大、生活魔法を渡します。長寿の薬は飲んだら寿命が止まります。年をとりたいと自分で思わない限り効果は続きます」



 まじか…すごいな……めっちゃありがたい。



 「2つめは、この子も連れて行ってください」



 「えっっっ?」



 なんでだ??



 「この子には罰として、あなたのガイド兼護衛として行ってもらおうと思います。もちろん能力や力は一部封じます。あなたが生きている限り戻る許可は出しません」



 ああ、だから戻ってきて時から悲しそうな顔をしていたのか………



 「なにかありますか?」



 「いえ、大丈夫です」



 「ではしっかり任務を果たしなさいね。いいですね」



 「はぁいわかりましたぁぁ~~~~」



 やる気を感じられないな。まぁいいか。少しでも知識を持っている人がいた方が良いのは確かだもんな。それに俺は攻撃の手段は持ってないからな。防御と生活にぶっぱだ。



 「それでは最後に、こほんっ、あなたは本来であればこの先も90近くになるまで輝かしい人生を送る予定でした。22歳という若さで、4分の1ほどの人生でいったん幕を閉じてしまいました。こちら側の不手際で誠に申し訳ありません。その者の代表者として、世界を管理する神として健やかに過ごせるよう、祝福を、祈りを捧げます。次に行く世界には知っている者はおらず、異世界人という外れた存在となるでしょう。それでも、世界を壊さない、数多くの悪事を働くなど、世界にとっての悪害にならない限りは、自由に、気ままに、好き勝手に、生きることを、神ディアナの名において許します。輪廻転生の渦に戻るとき、満足できなかったというのは認めません。私はこの天界からいついかなる時も見守っています。お体にはお気をつけください」



 すると体がぱぁぁっと光に包まれてきた。



 「ありがとうございました。本当に、本当にありがとうございました_____」

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