第9話 「私たちも……女の子です……クソババァ」

「佐野……美紗?」


「あはは、ビックリね。まさかあの子も審問官だったなんて」


「ビックリ? 顔あわせた時とか、隣に立ったときに気が付かなかったのかよ!」



 ――冗談じゃない、昨日に続いて二人目だって!?



 顔をしかめて、アーシェは唇をとがらせた。



「うっさいな。審問官の一人や二人――」



 と、アーシェが美紗の方へ振り返った瞬間、そこに居たもう一人の人物を見て言葉を止めた。



「我らの一人や二人が……どうしたって?」



 美紗の後ろには黒いローブに身を包み、腰にはローブ同様黒い鞘に納められた倭刀を携えた少女。


 コバルトブルーの瞳は横目で冷たくこちらを見据え、ブロンドのウェーブのかかったロングヘアは風に小さくなびいている。


 いつから居たのか、その急なタイミングは“来た”というより“現れた”の方が適切だった。



「意外か? 確かに、審問官が二人同時に姿を曝すなど、普通は考えられないのだがな」



 少女は小さく笑いながら、倭刀に手を伸ばし、鞘から白銀に輝く刀身を露にした。



「昨日のようには……いかんぞ」


「昨日? きのうって……誰?」



 ――馬鹿かコイツ! 昨日の事も……って、ちょっと待て!



「じゃあ、あの子がアステロなんとかかッ!?」


「名前も忘れたのか? 失礼な奴らだ。」



 下に向けた彼女の倭刀の刀身に電気が走り軽くスパークした。


 アーシェは走った電流をみて、手をポンと叩き「思い出した!」と声を張り上げる。



「アステロペテス!」



 ――やっと思い出したか。



 しかめっ面をしているアステロペテスも恐らく同じ事を思っているだろう。



「に、しても。何で二人? そんなに私は危険視されているの?」


「……否定しない。教会が貴女を危険視しているのは確かだ。――しかし、今回我ら二人で出向いたのは……」



 ふと零司へ視線を向けるアステロペテス。



「霧谷零司の捕縛」


「一人では難しくても……二人ならば……容易」



 美紗の銃口とアステロペテスの切っ先が同時にアーシェへと向けられる。



「卑怯者~ッ! 二人がかりで一人の女の子を襲うの!? 強姦よ強姦!」


「私たちも……女の子です……クソババァ」



 美紗の顔に似合わない毒舌。



「心配するな。少年の返答次第では、貴女が戦う相手は一人……」


「俺の……返答?」



 アステロペテスは倭刀を鞘に戻し、かわりに零司へと手を差し伸べる。



「我ら教会へと下れ。私は貴男を教会へと導き、アーシェの相手はエウア=ネモス……アーシェの生存率はわずかに上がる」


「なっ……!」


「ふざけんなー! 私を雑魚扱いするなー!」



 声を張り上げるアーシェをまったく気に留めず、アステロペテスは話し続ける。



「アーシェからも聞いただろう? 貴男を狙っているのは魔術師とて同じ。――さて、組織を敵に回しただ一人の魔女に護られるか、組織に下り矮小な魔術師どもをともに駆逐するか」


「決めてください……霧谷…君」



 ――決めろ、って言われたって……。



「手を取れ、霧谷零司! そんな魔女と心中するには惜しい力を貴男は持っている!」



 ――俺はどうすれば……。



「霧谷君……手を取ってくれたら…私も……帰ります。彼女は、傷つけない」



 ――そうきたか畜生ッ!



「わかった、俺は――」


「まてぃ!」



 効果音にして“ドゴスッ!”というような何とも堪え難い打撃が零司の背中に打ち込まれる。



「いだッ!」



 その場に崩れ落ちる零司。


 やったのは勿論、後ろに立っていたアーシェ。



「勝手に話を進めないで私の話を聞きなさい、と言うか私の話しだけ聞きなさい」



 勢い良く人差し指を二人に向け、



「アナタ達が何人来たって、昼飯前なのよッ!」



 ――結構時間かかるんだ。



 軽く――いや、深くため息を吐くアステロペテス。



「やはり、でしゃばるか……ネモス」


「わかってる……死なない程度に…殺す」



 ――っくしょう、痛くて声が出ねぇ……昨日いってたじゃねぇか、まともに相手したらただじゃ済まないって……なのに、何でそんな無茶を……。



「零司、ゴメン」



 ――え?



 アーシェが軽く背を撫でると、まるで重力から解放されたかのように零司の体がフワリと浮かび上がる。



「飛んでけ~」



 ――おぉぉぉぉっ!?



 浮かんだ零司の体が吹き飛び、勢い良く閉鎖空間からわずかに外れ、フェンスに直撃した。



「でっ!」



 不様に地面へと落ちる零司。



 ――畜生、乱暴なんだよ!



 顔を上げると、わずかに閉鎖空間から外れているためか、三人の姿は見えなくなっていた。



 ――無茶しやがって!

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