【1月16日 あさのせかい】



 塚本を置いてきた苺依は新宿の街を歩いて周る。家に帰ると暗い部屋の中で自分が置物のようになることが予測できて怖くてたまらなかった。歩いても歩いても自分の足が先へ進んでいるように思えない。顔上げると、色とりどりの看板とライトがちかちかと眩しく見える。なのに、息ができない。ここは海の底にさえ思えた。


 もしも。竜宮城があるなら、こんなもんだろうな。


 ぼんやりとそう思ってみる。見慣れれば大したことのない。


 世界はそういうものの集まりだ。


 明日には、きっと塚本も大したことのない世界の住人の一人に。


 そうなって欲しいと。苺依は宇宙を見た。


 新宿のビルは天空をせばめて、夜空の色さえ誤って見せた。


「こんなにも、赤い宇宙だったっけ?」


 苺依の瞳をタクシーたちのテールランプが染めていた。


 朝まで開いている喫茶店に入り、苺依はホットコーヒーを頼んでテーブルに突っ伏して眠りについた。



 ■ ■ ■



 まだ朝日が昇る前であった。陽が昇る前であっても新宿はとまらない。とはいえ、さすがに午前5時ごろともなればカラスの方が人間よりも動き回っている。外に出された店舗のごみ袋にたむろしていた。猫や犬も、それらに紛れてご飯を探していた。


 苺依は空になったコーヒーカップにうでが触れて、起きる。


 店の中は起きている客の方が少ないぐらいであった。聞こえるか聞こえないかぐらいのクラッシックが流れていた。苺依は机に頬をつけたまま外を見た。


 太陽が昇る前のくすんだ世界に見えた。


 苺依は会計をすませて、帰ることにした。


 扉をあけるとカランコロンと昭和のにおいのする鈴がなった。


 早朝出社のビジネスマンがもうすでにスーツを着て今日を動かそうとしていた。


 遠くの電信柱の近くには近くの飲食店のごみ袋が重ねられている。


 遠くからトラックが数台行きかい、移動を続ける。


 新宿駅へ向かって大通りにでると、始発を待っていた他の人々がちらほらと家路に向かっていた。


 誰もかれも、晴れ晴れとはしておらず、家に帰って昨日の延長をするのだろう。


 人の声が少ないおかげで、車の走行するエンジン音がビルに反響していた。


 今日を始めようと思う。


 私は、私の今日を。


「あなたも。昨日とさよならしていてね」


 前を見ると、アルタの向こうに始発の電車が丁度到着しようとしていた。

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