アイドルに恋した人の末路

うみとそら

アイドルに恋した人の末路

ボクは小さい頃から趣味もなく、暗い性格でなかなか友達ができなかった。

高校生の時にできた友達もいまじゃ疎遠だ。

そんな時に出会ったのが「ヨムらぶ」というアイドルグループの「ことは」さんだった。


大学4年生の8月。

ボクはまだ一社も内定をもらえてなく焦っていた。

授業前の講義室で周りの会話を聞いていると、大体の人は1社以上の内定がもらっているのが当たり前になっていた。

書類選考はある程度の割合で通過するが、面接で全て落とされていた。

「ぴえん」

と、小さな声で呟いてもツッコんでくれる友達はいなかった。


悶々としながらもバイト先の惣菜店でレジの締め作業をしていた。

「最近、ヨムらぶっていうアイドルにハマってるんですよー!」

「へー、最近そのグループの名前よく聞くよねー」

「そうなんですよー!みんな可愛くてビジュが爆発してます!」

「爆発してるくらい可愛いのかー」

そんな会話を店長とバイトの柏木さんがしていた。

柏木さんは1コ下の後輩で少し気になっている女の子だ。

「けど今時の女の子は女性アイドルも好きなんだねー」

「何言ってるんですかー、ヨムらぶのライブ行っても結構女の子のファン見かけますよー」

「時代だねー」

50歳をすぎている店長は柏木さんとのジェネレーションギャップを感じていた。

「松田くんはアイドルに興味はあるのかい?」

店長がボクに話をかけてくれた。

「あんまりないですね」

「えー!松田さん!それは人生損してますよ!」

「そうなんか」

「そうですよ!ヨムらぶは10人のグループでみんな可愛くて十人十色の魅力があるんです!」

いつもテンションが高い柏木さんは、このアイドルグループの話になると、さらにテンションが高くなっているように感じた。

「日曜日の深夜にヨムらぶのレギュラー番組やってるんで是非観てみてください!なんならライブの円盤とか貸しますよ!?」

「Blu-rayとかのこと?」

「あ、そうです!」

「今度その番組観るから、気になったら貸して欲しいかも」

「はい!!!」


次の日曜日、ボクは恋をした。

宣言通りにヨムらぶのレギュラー番組を観た。

そこでヨムらぶのメンバーの「可愛ことは」さんに一目惚れをしてしまった。

理由は多分柏木さんになんとなく似ているからだと思う。

そして何よりもことはさんの行動のひとつひとつが面白かった。

今回の放送では、わさびが苦手なことはさんが、わさびを大盛りにしたお寿司を食べてもがいていた。

今どきこんなことで笑うと思っていなかったが、なぜかことはさんがやることでとても面白く感じた。

最近ずっと曇天だった心の中が快晴になった瞬間だった。


それから3ヶ月間は就活もせずにヨムらぶをずっと追っかけていた。

ファンクラブに加入、公式SNSのフォロー、ライブの参戦、握手会の参加、各メディアのチェック、ゲームのプレイ、グッズの購入、舞台の鑑賞、過去作品の見返しなど、1日3時間睡眠でそれ以外の時間は、ことちゃんに時間を割くようにしていた。


ことちゃんは、メンバーの中で最年長だがいじられキャラ。そんなところが大好き。

ほんと、推しが尊い!

今まで趣味がなかった分、ここで爆発した。

都内でのライブはもちろん地方のライブ、握手会の参加など積極的に外に出るようになった。また、色々とお金がかかるので、バイトの掛け持ちもして家にいる時間がかなり減った。

正直、生活がかなり充実している。

毎日が楽しい!


ただ、ヲタ活はしていても就活をしていなかった。

実家暮らしなので、最近毎朝、親とリビングで会うたびに就活の心配をされる。

それでもことちゃんを優先したいと思ったボクは、てきとうに就活をして今年は就活浪人をしようと思った。


1ヶ月後、なぜか内定をもらえていた。。。

練習だと思って気楽に面接を受けて、学生時代に力を入れたことでヲタ活について語った。

絶対落ちると思っていた。

案の定、ほとんどの会社で落ちたが、面接の通過率は上がり、最終的に中小企業で2社の内定をもらえていた。

面接のフィードバックでは、目的のためにバイトを頑張ったことや行動力があること、また、笑顔が素敵だったと言われた。

まさかボクの笑顔が内定の決め手になるなんて思わなかった。


それから2ヶ月後の内定者の集まりで、偶然ことちゃん推しの男性の内定者と出会った。

どちらも似たような性格のせいか、すぐに気が合って、集まりの後に居酒屋で夜通しことちゃんについて語った。

社会人生活は辛いと思っていたが、少しだけ楽しみになった。






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