彼女。
望月 星都 ‐もちづき せと‐
彼女。
これで転校も6回目。
幼い頃から父の仕事の影響で転勤が多かったため、転校は慣れっこだった。
転校してから2週間ほどは色々な人が私に興味を持って話しかけできたが、1ヶ月をたった頃にはもう興味がなくなったのか話しかけてくる人はいなくなった。
友達はいらない。どうせ2~3年経てば関わることもなくなるから。
もともと人と関わるのが苦手だったし。
そんな中、担任の気まぐれで席替えがあった。
隣の席になった女子はいつも一人でいる三田咲良さんだった。彼女は私と同様友達がいないのか、休み時間は次の授業の準備を済ませるとすぐに読書を始め、時間を潰していた。
「よろしく」私がそう言うと、「よろしく…」と小さな声で返してくれた。
それが少し嬉しかったのは何故だろう。
それから何日か経っても、授業以外で三田さんと関わることがなかった。ただ、隣の席になってから気づいたことがある。読んでいたのは本ではなく、カバーをした漫画だったこと。字がとても可愛らしい丸文字なこと。姿勢を崩さないまま居眠りをできること。意外にもピアスの穴を開けていること。
隣の席にならなければ知ることのなかった彼女の一面を気づかぬうちにもっと知りたいと思うようになっていった。
そしてある日、担任の先生に頼まれていた用事も済ませ、帰ろうと教室に戻った時。誰もいない教室で三田さんひとり、机に突っ伏していた。部活がある人以外はみんな帰ったというのに何をしているのだろう?寝ているの?そう思いながら教室に入る。人の気配を感じたのか三田さんが顔を上げた。
泣いていた。涙で濡れた顔、腫れた目元。三田さんは泣いていたのだ。
内心とても動揺していたが、それを悟られないように「どうしたの?」冷静に聞く。
「別に…何も…」
と強がる三田さんはどうみても何も無いような顔はしていない。
「強がっているなら我慢しなくていい。話した方が楽になることもあるし、貴方が良ければ話を聞く。」
その言葉を聞き、三田さんは少し間を置いて話し始めた。
自分がレズビアンであること。それが周りにバレてしまっていじめられていたこと。友達がいないこと。家庭環境が最悪であること。
三田さんが置かれている環境は思った以上に酷いようだった。
最後に三田さんは私に聞いた。
「死んでもいい?」
と。
私は三田さんに死んで欲しくない。
私は自他ともに認める不器用で口下手だから、どう言ったら彼女を救えるのかは分からなったけど、精一杯今の自分に言える言葉を伝えた。
「そう聞ける相手がいる貴方はまだ生きている価値があるんじゃない」
「えっ」と三田さんが驚く声が聞こえた。
「そう聞ける相手すらいない人は生きるか死ぬかの選択肢を自分だけに委ねられて、死ぬ時は誰にも知られず死んでいくの。そんな人より貴方は恵まれていると思う。でも、結局決めるのは貴方だから私がどう答えようと関係ない。貴方がそう聞くってことは、まだ生きていたいと心のどこかで思っている。それとも、誰かに存在することを認めて欲しい。そう思ってるからじゃないの」
随分とかっこつけて言ってしまった。
三田さんは目に涙を浮かべ私を見つめる。安心したような、同時に怒っているような。不思議な表情をしていた。こんな時に申し訳ないが、そんな三田さんがとても可愛いと思ってしまった。
零れ落ちそうな涙を受け止めるように私はハンカチを三田さんの目元に添える。
「…片瀬さん…」
「何…?」
「私の…友達になってくれませんか…?」
「…貴方が私でいいのなら」
嬉しかった。友達なんていらないと思っていたけど、三田さんとは友達になりたいと思ってしまった。三田さんとなら、ずっと友達でいられる、そんな不思議な自信が湧いてきたから。
でも、ずっと友達、なんてこともなかった。
今は私の恋人──彼女である。
彼女。 望月 星都 ‐もちづき せと‐ @mochizuki_07
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