5章 花と蜜蜂
5-1
コールドスミス商会とエインワーズ商会の共同開発品として
大まかなデザインはルルが担当し、職人との細かな
木材のところどころをくり
あとはこの家具を売り込み、オーダーを待つばかり。
ルルがグランシア家に勤めだしてからひと月以上が
「パーティ?」
コールドスミス商会でお茶を
じゃーん! とロイが見せてくれたのは
「そう。
アベイユというのはこの国独自の文化だ。
春から初夏にかけての社交期に開かれるパーティの中で、貴族でなくても参加することができる日が存在する。
ここへ招かれるのは主に実業家だ。
簡単に言うと、花から花へ花粉を運ぶ
「わたしも? 行っても
昔、父も招かれていたことがあったが、
「もちろんだよ。だって僕たちは共同開発者じゃないか。ちゃんとルルちゃんの分の招待状も手に入れたからね」
主催者がルルの名前の招待状を出してくれたということは、一人の実業家として認められていることになる。
「
「あ、で、その、当日着るドレスとかって、僕が
きっと
ルルは、「大丈夫よ」と笑った。
「昔仕立てたドレスはまだ着られると思うの。お金が必要な時に売ってしまおうかと思ったけど、母様から止められてて……。あの時に売らなくて良かったわ」
中流階級同士のお呼ばれのために仕立てたものだが、
「あー、そっか。うん、それなら……、いいんだ。ちなみに何色のドレスなんだい?」
「サフラン色よ。……少し派手すぎるかしら?」
「そんなことないよ。楽しみにしてるね」
当日は大きな家具をパーティ会場に持ち込むわけにはいかないので、小さな木材に虹色ガラスを嵌め込んだサンプル品を作らせて持っていくことにする。
「パーティの主催ってどなたなの?」
「ダミアン伯爵だよ。伯爵家とは
「えっ、ダミアン伯爵?」
「うん。……どうかした?」
エインワーズ商会と結んでいた虹色ガラスの取引
コールドスミス商会と契約したつもりが、実は自分が断ったエインワーズ商会の品物でした、ということになったらトラブルになったりしないだろうか。心配になったルルが事の
「大丈夫だと思うよ? エインワーズ家のきみを同伴したいって言ったら快く許可してくださったし、
「そ、そっか……。そうね」
「虹色ガラスが手に入らなかったのはやっぱり
ロイの意見がそれらしくてルルは
それに、招待してくれたからといってダミアン伯爵が契約を結んでくれる気があるとは限らない。もしも他の貴族がエインワーズの
このパーティで
そして、エインワーズ商会に出資してくれるという人がいたら親しくなっておくこと。
前者はジェラルドへの借金返済の足しにするためで、後者は今後の商会のことを考えてだ。借金を返し、エインワーズ商会は――このままコールドスミス商会の
「……早く借金を返したいな」
「そうだね。早くルルちゃんがあの男から解放されるように、僕も大口の契約が取れるように頑張るよ」
ぽつりと
*****
(あのクソ
自室で悪態をつきながら、ジェラルドは夜会用の服に
先日、
何が悲しくて
――あの日、例の
セオドアの母であるウィスタリア国
セオドアと公爵は
とを公爵も良く知っていた。
『アーロック人の金貨の持ち出しがものすごく多いな。ほれ、お前さんがこの間八番街で
『そうですか。では、アーロックと
『それよりも俺が気になっているのは、今年に入って異常にアーロックへの家具の輸出が増えていることなんだよなァ』
ミドルグレーの
家具、の単語になぜだかジェラルドがぎくりとしてしまった。
真っ先に
ジェラルドの
『ダミアン伯爵が目をかけている商会――コールドスミス商会といったか? あちらさんの貴族にえらいウケがいいらしくてな、じゃんじゃん出てる。あの伯爵を探ってみたら何か
『わかりました。近いうちに蜜蜂会を開くことになっていたはずです。そこでの様子を探ってみましょう』
真面目なやりとりを終え、ジェラルドは
ポン、と鳴ったボトルの
『まあまあ。そんなに急いで帰らなくてもいいじゃねえか。飲んでいけよ』
『いえ。
『おーい! 誰か、グラス持ってこい! あとつまみも適当に
公爵という
『セオドアの
『生贄
『一
公爵と懇意にしていた友人が
『……一杯だけですよ』
その一杯が
『お前、どこぞの
ジェラルドは別段酒に弱いわけではない。むしろ、アルコールには
自分の酒量もペースもわかっているが、一緒に飲まされた相手が底なしのモンスター。
直前にルルと
(……そういえば、あいつが言っていた『昔みたいに
ジェラルドはルルのその発言がずっと気にかかっていた。
キスはしたが罵倒はしていない気がする。それ以前に俺が何かを言ったりやったりしたのか? ……
コンコン、と鳴ったノックを音に返事をする。
小箱を持ったルルが入室してきた。
「失礼します、ジェラルド様。おっしゃっていたカフスをアンソニーさんに出してもらいました」
「ああ、悪いな」
招かれる夜会ごとに身に着ける
「どうした?」
「あ、ええと、その……。今度の週末、わたしの休日を別の日と替えてもらう予定でいて……。実は、ダミアン伯爵が主催する
ダミアン伯爵の蜜蜂会。
「誰と行くんだ? 父親と一緒か?」
「コールドスミス商会の……、ロイよ。彼がわたしの分の招待状も手に入れてくれたの」
ふざけるなよ、俺以外の男と出かけるだと?
……と言いたいところだがジェラルドはぐっと
年上なのに
「…………わかった。変な男に引っかからないように気をつけろよ」
「え!? あ、うん、ありがとう……」
ジェラルドがすんなりと許可を出したことが意外だったらしいが、ルルは
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