幼馴染の二人が子猫と出逢ったら。

マクスウェルの仔猫

第1話 座り込むアイツ

 


 高校の部活動の帰り道、九重夏ここのえ なつは幼なじみを見かけた。

 

 金髪、ソフトリーゼントのデカい男が商店街の道端で座り込んでいる。


 それだけでも目立ってあからさまに通行人が避けているのに、そいつは商店街に背を向けて、店と店の間に向かってブツブツ言いながら威嚇しているようにも見えた。

 

 (アイツ……危ないクスリとか手を出したんじゃ!?)


 夏はキョロキョロと周りを見回し、手ごろな武器になるような物を見つけられずに仕方なく、じり、じりと通学カバンを頭の上に振り上げて近づいて行く。


 そしてその幼馴染の後方2メートルに近づいた所で。


 吉良要きら かなめは肩越しに振り返った。


「あん?何やってんだ夏」

「何やってんの、はこっちの台詞よ!アンタが危ないクス……きゃあー!子猫!」


 店と店の間の、膝くらいの高さのブロックの上に、夏達に背を向ける子猫。


 その子猫は、10センチほどのブロックとブロックの隙間を左右に跨いだまま身動きが取れず、プルプルと震えていた。


 

「何それ……可愛すぎだよ……」

「随分とおもしれー事してんな。落ちんぞ?」


 夏がフラつくのと要が子猫を掴むのは同時だった。


 ああっ!スマホで撮りたかった!と夏は思いつつも、子猫の方が大事!と、グッと堪えて要に文句を言った。


「もっと早く助けなよ!」

「夏が来たから驚いて、逃げようとしたんだっつの」

「私にも抱っこさせてよ!」


 要のそんな言葉に構わず、夏は要の手の中にいた子猫を抱き上げる。


 子猫は、なぁん、なぁんと鳴いて夏の腕の中から逃れようとしていたが、夏が子猫の顎の下を指で撫でると大人しくなって目を細めた。


「うわもうこれやっば……ほんとやっば……可愛すぎる……あっそうだ!」

「夏オメエ、クスリでもやってんのか?顔やべーぞ?」

「うっさいよ!」


 これはチャンス!とスマホをそっと取り出した夏は、カメラと動画で子猫を撮影しながら要に問いかけた。


「ね、この子こんなにちっちゃいけど、お母さん猫は?」

「知んねーよ。にゃあにゃあでけー声でうるせえから裏覗いたらコイツがいた。親猫どこだって聞いても答えやしねえし」

「何なの?バカなの?」


 子猫は、丸まったら夏の両手から少しはみ出してしまうくらいの大きさしかない。

 まだ生まれてからそんなに経っていないのだろう。

 こんなに小さい子猫が一匹でうろうろして、生きていける訳がない。


 夏は子猫を抱いたまま路地の奥を覗き込んだ。


「お母さん猫さーん。子猫ちゃんはここですよー」

「夏、尻丸見え」

「?!!」


 どがんっ!!


 くるりと振り返った夏がその勢いのまま、しゃがんでいる要の顔にヤクザキックを放った。


 要は平べったい学生カバンで受け止め、既に明後日の方を向いている。

 

「女子高生の靴の裏も見せてあげるよっ……!」

「オメエのクマパンツなんか興味ねえっつの」

「ぎゃー!普通に暴露すんな!こうなったら死なばもろとも!そのカバンをど・か・し・な・さ・い・よっ!!」


 夏は真っ赤になりながら、スカートの前を押さえつつもグリグリと要の顔の前のカバンを踏みつけているが、要はどこ吹く風である。


「今さらオメエのクマパンツ見たって、これっぽっちも何とも思いやしねえよ」

「言い方……!!いつかアンタの記憶を丸ごと消してやるから……!」

「あ?よくわかんねえ事言うなっつの。行くぞ」


 要はそう言って、どっこら、と立ち上がった。


 子猫は温もりで安心したのか、夏のもう片方の腕に抱かれて、なんなん、と鳴きながら要と夏を見上げている。


「どこに?」

「そこらに、親猫とか家族いんじゃねーの?探す」





 

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