学園守護隊レッドセイバーズ

広瀬涼太

第一話 守護隊部へようこそ

赤羽烈堂、忍者に呼び出される

『生徒の御呼および出しにござる』

 放課後の紅路樹こうろぎ学園の校舎に、そんな校内放送が響き渡った。


赤羽あかは烈堂れつどう殿どの緋山ひやまつゆ殿。マゼンタ・ソーマ殿。本日これより、文化部第二棟四階、守護隊部しゅごたいぶ部室まで来られたし』


 まだ高校生活が始まったばかりで、部活動を決めかねている生徒も少なくない。だから一年五組の教室にも、未だに半数以上の生徒が居残っていた。

 くだんの赤羽烈堂なる少年も、同じ中学出身の友人たちと今後の身の振り方について話していたところだ。


「何だよ烈堂! くノ一のお友達がいるのに、なんでオレたちに紹介してくれないんだ⁉」

 いち早く反応したのは、一見軽薄そうな印象のある少年だった。肩のあたりまである黒髪を尻尾のように後ろで束ねている。


「落ち着け翡翠ひすい。噂はよく耳にするが、会ったことはねえよ」

 翡翠を左手一本であしらいつつ、烈堂は鋭い目つきをした長身の少年に呼び掛けた。

「ロイ! ちょっとこいつを押さえててくれ」

「ふん、烈堂のことだ。忍者のお友達がいても何の不思議もないな」

 ロイと呼ばれたくすんだ金髪の少年は、烈堂をからかうように笑う。


「で、烈堂。一体何をやらかしたの? 忍者から呼び出しなんて」

 ツインテールの小柄な女生徒が呆れたような目つきで彼をにらんだ。左右で束ねられた茶髪の、左の房だけが桃色に染められている。

「それにまた、あのマゼンタが絡んでるみたいだし……」

一句ぴんく……」

 彼女に一瞬だけ視線を送ると、烈堂と呼ばれた少年は遠い目をして面倒くさそうにつぶやいた。

「いずれにせよ、あいつもいるんなら無視するわけにもいかんだろ」

「…………」

 一句ぴんくと呼ばれた少女は、言葉には出さずにねた表情で答える。


「だけど、烈堂。守護隊部には気を付けたほうがいいと思うよ」

 もう一人、彼らと一緒にいた生徒が口を開いた。

 黒髪のショートカットに、彫りの深い顔立ち。まるで美少年、いや美青年かと見まごうようなその生徒はしかし、ブレザーとスカートを身にまとっている。


「そういえば、守護隊部って一体どんな部活なんだ」

「部自体はこの学園に以前から存在するみたいだけど、正義の味方を自称して活動を続けてきたらしいね」

「正義の味方〜?」

 胡散臭げな表情で、烈堂は問い返す。


「守備隊って、要は駐屯軍ちゅうとんぐんのことだろう?」

「というより、あの日曜の朝にやってる番組みたいなもんじゃねえか? 小坊しょうぼうのころはよく見てたけどなあ」

「要は漫研とか映研とか、そういうたぐいのもんか」

 翡翠とロイ、男子二人が余裕ありげに口元に笑みさえ浮かべて話しているのに対し、女子二人は不安げな表情を見せていた。


「ええ……? 高校にもなってそんなオタクみたいなこと……」

一句ぴんく……好きなものに年齢なんて関係ないよ。それを生み出している人たちも立派な大人さ」

「あ……ごめん、あおい」

 あおいと呼ばれたボーイッシュな女生徒は、一句の謝罪に軽くうなづくと、席を立ち烈堂に近づいてきた。


 座ったままの烈堂を見下ろしながら、それよりも……と疑問を呈する。

「なあ烈堂、ただの特撮鑑賞クラブが、わざわざきみやあのマゼンタを名指しで勧誘すると思うかい?」

「確かに……あおいがそう言うなら、警戒が必要だろうな」

 ボーイッシュなクラスメイトに礼を言うと、烈堂は苦々しい表情で立ち上がる。


「だが、無視したところで見逃してもらえるとも思えん。さっさとそいつらと話を付けた方がよさそうだ」

 そう言うと烈堂は、彼を気遣う言葉を掛ける四人の友人達にひらひらと手を振り、教室の扉へと向かうのだった。


    ◆


 その守護隊部部室とやらのある文化部第二棟は、一年五組の教室がある第一校舎から少し離れたところにある。

 一階へと続く階段を降りていた烈堂は、自身に急速に迫ってくる気配に思わず身構えた。


「レツドーーーー!!」

 直後、金髪碧眼の西洋人とおぼしき容姿の少女が、長い髪をなびかせ彼に飛びついてきた。


「……っと」

「ふひゃあああ!?」

 直前で烈堂に身をかわされ、少女は階段の途中でバランスを崩す。


「ったく……何やってんだ、マゼンタ」

「あー、レツドー、ありがとネー」

 とっさに烈堂は彼女のブレザーの首筋を掴み、転落を食い止めた。

 この猫のようにぶら下げられた少女こそ、さきほど呼び出された三人のうちの一人、マゼンタ・ソーマである。


 小学校の頃までは烈堂の近所に住んでいた幼馴染であり、彼の友人である一句ぴんく達とも面識があった。その後、彼女の家庭の事情とやらによって離れ離れになったものの、この紅路樹学園において三年ぶりの再会を果たしたというわけである。


「今度はイッショの高校に入れたシ、クラブもイッショだといいネー!」

「いや待て。まだその守護隊部とやらに入ると決まったわけじゃないぞ」

「ええええェーーーッ⁉」

「そもそもマゼンタ、守護隊部がどういうものか知ってるのか?」

「知りまっセ〜ン!」

「そうだよな。お前は前からそういう奴だった」

 見た目はともかく、中身は小学校の頃から変わってない。そんな言葉を、烈堂は小声でぼやく。


 そうしてマゼンタの相手をしながら歩くうちに、二人は文化部棟にたどり着く。そこの四階で、目的の守護隊部の部室はすぐに見つかった。

 まるで何かの武術道場のような、年季の入った大きな木製の看板が扉の横に吊るされている。そこには力強い筆遣いで、『守護隊部』の四文字が記されていた。


「何だこりゃ。怪しすぎないかこれ」

「コケツに入らんかったラ、トラぬタヌキ。郷に入ったらレッツゴーですヨー!」

「郷に従えと言うなら、お前はもっと日本語を学べ」

「ト、言うわけデー!」

「待て! 俺が先に行く! マゼンタは少し離れてろ!」

 ドアノブに手を伸ばそうとするマゼンタを、再び制服の首の後ろをつまんで引き留めた。ぞんざいな扱いにブーブーと文句を付ける少女を尻目に、烈堂は軽く扉をノックする。


 間髪を入れず、部屋の中から凛とした声が返ってきた。

「お待ちしておりましたわ。どうぞ遠慮なくお入りくださいませ」

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