後日譚211.事なかれ主義者は早く帰りたくなってきた

 とりあえずエミリーのご両親には、僕の今の立場と、どうしてそうなったのかの説明に加えて、今している事を伝える事にした。

 世界樹を擁する国の名目上のトップが自分である事を伝えるだけだと荒唐無稽な話だ。だって世界樹を擁する国はエルフだけの国で、僕は人族だから。

 でも、加護を授かっていた事を伝えればまあ納得してもらえるかなって思ったから伝えたんだけど、そうなると「じゃあ加護を見せてくれ」となるわけで、今はもう持っていない事を伝える事になる。

 必然的に邪神の事を伝える訳になったんだけど、『邪神が勇者によって倒された』事はここにも伝わっていたらしい。


「勇者が倒したって言う話は嘘だったって言う事かな?」

「それともアンタが勇者って事? 娘は勇者じゃなくて異世界転移者だって言ってたけど?」

「勇者はその場にいたけど倒したのは僕というか……僕の信仰している神様というか……」


 その当時の様子を覚えている限り伝えたけど、肝心な所は神様たちがしたから僕は伝聞でしか知らないから質問されても正確な事は伝えられなかった。

 僕の代わりにジュリウスも答えてくれたけれど、信じて貰えたのは感覚が鋭い狐人族の五感をフル稼働させて、僕が嘘をついている様子が見受けられなかったから、というのもあるようだけど、わざわざここまでやってきて嘘を吐く必要性がないだろう、と判断したからのようだ。


「エミリーが騙されているなら黙ってられないけど、幸せそうだから私から言う事は何もないよ」


 そうお義母さんに言って貰えたし、彼女の隣に座っていたお義父さんも頷いている。

 ひとまずエルフの国のトップである事は伝えられたので、次は今している事を伝える事になったんだけど、これに関しては加護が使えるので比較的楽だけど使うまでもなかった。

 実際にやらせれば嘘つきかどうか分かる、との事だ。間違いない。


「いきなり天気を変えても大丈夫なんですか?」

「ああ、問題ないよ」

「この町の長的な人に話を通さなくても大丈夫ですか?」

「その町長がこの人だから問題ないって言ってんだ」


 お義母さんがお義父さんを指を差した。なるほど、確かにそれなら問題ない……のか?

 っていうか、町長の娘が自ら身売りをするってどうなんだ? なんて事を思いつつエミリーを見たら彼女はそっと視線を逸らしていた。


「その子も頑固でね。『他の子が身売りさせられるんだったら私もする』って言ってね。いい値段で売れるだろうって出て行ってしまったのさ。まあ、そのおかげで翌年も含めて何とかなったんだけどね」

「信頼のできる奴隷商だったから任せたんだけど、何とか買い戻せないかって商人が戻って来た時に交渉したんだよ。ただ、だいぶ高値で売れてしまったって言われて諦めるしかなかったんだ」

「まあ、その事からドラゴニアで売れた事は分かったんだけど、他民族が襲ってきた時のために私たちがここを離れるわけにもいかなかったからねぇ。不幸中の幸いだった事と言えば、その商人が『とても大切に扱いそうな人に売った』って断言した事くらいね」


 売った奴隷を買い戻す時にはその額以上を出すのが普通らしい。それでも持ち主が望まなければ取引は成立せず、無駄足に終わる事も多々あると以前聞いた事があった気がする。

 ただ、それでも一つ気になる事はある。


「……高値だとなんでドラゴニアって分かるの?」

「向かった先がドワーフの国の方面だったからそれで判断したんだと思います。ドワーフは異種族の奴隷はよほど有能じゃない限り買わないですし、エンジェリアは異種族の奴隷は安値でしか買いませんから。エルフの国はエンジェリアと比べると奴隷の扱いはマシですけど、それでもやっぱり自分たちの種族の奴隷を優先して買って外に出そうとしないから私を高値で買う事はないだろう、って思ったんじゃないですかね」

「なるほどなぁ」


 話がずれてしまったけれど、町長の許しが出たのなら天気を変えても問題ないだろう。

 この村はアクスファースの中でも水不足に悩まされているらしい。加護を使いに来た事がないのは取捨選択しているからだろうか? それか単に遠いからだろうか? 今後村にちょくちょく帰ってくるのなら予備の転移陣を設置するのもアリだけど……一応ここは農耕民族の領地という事になるし勝手に置くのはまずいよな。

 なんて事を考えつつも言われたとおりに雨が降るように加護を使う。


「……とりあえず小雨程度でお願いします。【天気祈願】」


 結構な魔力が持って行かれたけど、年末年始は他国で加護を使う事はなかったので魔力の残量はたくさんあるから問題ない。


「どうやら、まじないの神様の使徒様で間違いないようだね」

「そうね」


 カーテンを開けて、仲良く並んで外を見るご両親の耳がピコピコ動いていて、尻尾がぶんぶんと振られているのが可愛かった。うん、帰ったら尻尾に加えて耳も触らせてもらおう。

 そんな事を思いつつ、村人たちがこの時期の雨が珍しいからか、容器などを持ち出して大騒ぎしているのを僕たちもご両親と一緒に眺めるのだった。

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