後日譚187.事なかれ主義者は見た目を変えてあげたい

 モニカとの間に生まれた千与の誕生日は、育生の誕生日の十日後だ。

 まだ僕の子どもたちは幼いから生誕祭のような物を行っていないだけで、大きくなったら行われる可能性が高い。

 そうなると、そのうち毎月祭りがおこなわれるような状況になりかねないのでは? と思ったけれど、そういう場合はまとめて行う日を決めておいてその日にまとめてやる、とかそんな感じらしい。


「千与、ほらお花がいっぱい咲いてるよ。見てきてごらん?」


 足に抱き着かれているモニカはこちらの世界では珍しい黒髪黒目の女性だ。勇者の血が色濃く外見的特徴に現れているけど、顔立ちは日本人っぽくなくて、ハーフの美少女、という感じだ。すくすくと育っている千与もそうなるんじゃないかな。


「人間さんもおいでー」

「こっちで一緒に食べよー」

「う~~~」

「人間さん、踏んじゃ駄目なんだよー」

「踏まないように気をつけなくちゃなんだよ!」


 千与を手招きする褐色肌のドライアドたちの近くには、美味しそうに生っていたトマトを取ろうとして他の作物を踏んづけてしまった育生を髪の毛で持ち上げている肌が白いドライアドたちがいた。育生は髪の毛で持ち上げられるのは慣れている様子で驚いてはおらず、トマトを取ろうと手を伸ばしているようだ。


「美味しいトマトあるよー」

「ブルーベリーもあるよ~!」

「キュウリがいいんじゃない?」

「レモーン!」

「千与は物ではつれないんじゃないかなぁ」

「人見知りですからね」

「人間さんは来るのにねー」

「変だね~」


 どうしてだろう? と首を傾げつつも考えるのを止めたドライアドたちは違う作物ならば来るかも? と新しい物を取るために散っていった。


「千与、おいで」

「う!」


 人見知りで大人しい千与にもちゃんと認識されている事を再確認できたことを喜びつつ、一緒に散歩をする。

 千与の誕生日プレゼントは育生と同じくベビーリュックだ。育生も千与も花柄だけど、どっちも違う種類の花だ。これから誕生日を迎える子たちのためにもせっせと量産してもらっているんだけど、それが遠くから僕たちの様子を見ている町の子たちにも影響を与えた様で、リュックがブームになっているらしい。

 特に何も言入れるものはないけど、とりあえず背負っている子が急増しているとかいないとか……。改めて影響力の大きさを実感するのだった。




 日々のやる事がだいたい同じだと月日があっという間に過ぎていくなぁ、なんて事を考えながら食べ物に釣られて散歩をしたがるようになった育生を見守っているといつもと違う報告が来た。


「人間さん、植えて来たよ~」

「ちゃんと根付いた?」

「問題なかったよー」


 報告をしてくれたのは褐色肌のドライアドたちの中でも一番の古株であるジャスミンちゃんだ。

 彼女たち褐色肌の子は産みが近い都市国家トネリコで暮らしていたからか、潮風にも強い植物を育てている子もいる。だからかは分からないけど、よく船に自分たちの植木鉢を乗っけて冒険していた。

 そこに目をつけてガレオールで使われている魔動船に植木鉢を乗っけてもらい、タルガリア大陸まで行って目的の場所に『精霊の道』を繋げてもらった。


「ありがと。まさか世界樹と同じく神力がないと枯れちゃうとは思ってなかったから助かったよ」

「どういたしまして~」

「今後は魔動船の船長には話を通しておくから隠れて積み込みしなくてもいいからね?」

「そう言われるとなんか違うような気もする~」


 ムーッと首を傾げるジャスミンちゃん。バレるかバレないかドキドキしながら積み荷に紛れ込ませたいんだろうか? でもたぶんエルフたちは気づいていたと思うけど。

 ジャスミンちゃんはうんうん唸りながら転移陣を使った。どうやらガレオールに行くようだ。


「これでタルガリア大陸の問題も解決すると良いのですわ」

「花を植えただけで解決するといいんだけどね」


 ドライアドの群れの中から育生を回収したレヴィさんが話しかけてきた。今日も農作業と子育て以外をする予定はないらしく、オーバーオールを着て麦わら帽子を被っている。

 彼女が言う通り、これですべて解決すればいいんだけど、タルガリア大陸は邪神の爪痕が色濃く残っているらしい。

 多くの人がなくなったし、生き残った人もレヴィさんのように呪いの後遺症が体に残ってしまった人がいるらしい。

 また、どこの国も邪神の信奉者によって『呪われた土地』がいくつかある。それに関してはジャスミンちゃんに引き続き協力してもらって呪われた土地でも育つ『ホープ』と名付けられた花を植えていけばちょっとずつ改善するのではないかとは思うんだけど……すべて解呪するのにどのくらい時間がかかるのかは分からない。


「とりあえず予定通り第一段階は達成したし、第二段階に移ろうか。選別は終わってる?」

「問題ないのですわ。生誕祭の時に派遣した経験がここで活きそうなのですわ~」

「物資や人員は?」

「そちらも滞りなく手配できているのですわ~」


 土いじりをしつつもやる事はしっかりやってくれていてとても助かる。

 町で研修を受けて知識を身に着けた子と、余ったお金で大量に雇った人員や物資を使って復興支援を行う予定だ。現地で雇うのも考えたけど、他の大陸にお金が流れ過ぎるのも良くないだろう、という事でそうなった。

 問題はどうやって向こうに送るかだけど……予備の転移陣を一定期間設置する方向で話が進んでいる。


「後はチャム様の布教活動も合わせてしなくちゃだけど……そこら辺はジュリウスたちがしてくれるだろうから大丈夫か」

「はい、問題ございません」


 静かに控えていたジュリウスが当然のように頷いた。

 邪神=チャム様という事を知っている人はほとんどいないけれど、どうしても邪神のイメージが強く残ってしまっているとチャム様の姿が変わらない可能性が高い。

 だから復興支援をする代わりに僕の信仰している神様の教会を建てる事をお願いしているわけだけど…………エルフたちだけに任せておくと過激な事になりかねない気がするのでちょくちょく様子を見に行く事にしよう。

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