後日譚174.事なかれ主義者は覚える事が増えてきた
小国家群を回るのを再開して一週間ほどが過ぎていったけれど、まだ半分も回る事が出来ていない。
加護を求められていない所は挨拶だけだからサクッと終わるけど、加護を使う場所だとだいたい歓迎の宴に出席を求められる。そこから縁談の申し込みがあったり、一夜を過ごさないかと提案されたりと面倒臭い話をされるんだけど、少しは参加しないといけないらしくて面倒だ。
ただ、面倒だからと参加しないという事もできない。教会を設置してもらう事を条件にしているのでしっかりと信仰してもらわないといけないから。
そこに加えて時々オクタビアさんに連れられて街を散策する時もある。これに関してはまあ婚約者だしこのくらいはするか、とは思うけれど、それで半日くらい潰れてしまうのだ。急ぐ旅でもないから別にそれでもいいんだろうけど……この間国を空けているわけだけど大丈夫なんだろうか?
…………ちょっと心配だけど、僕が口を挟む事でもないな。
そんな事を思いながら、転移陣を通ってファマリーの根元へと戻る。これから移動するからだ。
小国家と言っても、中には大きな国もあるらしい。大国ほどじゃないけれど、エルフの都市国家くらいはある所もあるとの事だ。……エルフの国が都市国家と言いつつデカすぎるだろ、と突っ込めばいいのか、小国家と言いながらエルフの国に迫る大きさなのに突っ込めばいいのか分かんないや。
何はともあれ、そのくらい大きな国もあるからまだすべてを巡るには時間がかかりそうだ。
…………定期的に加護を使って欲しいって言われた時はどうするべきか分からないけど、言われたら考えよう。今回のこの旅は、あくまで根本的な解決が目的じゃないし。
んー、と考えながらも、やる事が終わって暇になったオクタビアさんがパメラに連れ去られたのを手を振って見送っていると、何やらドライアドたちが僕を見てひそひそと話している。
「なんかあったのかな?」
「れも!」
「あっちに行けって?」
「れーも!」
レモンちゃんの指す方向には屋敷がある。ヒソヒソト話をしていたドライアドたちもわらわらと大移動を初めてそちらに向かっているのできっとあっちで何かがあったんだろう。
どうせこれから子どもたちの様子を見に行くところだったし、丁度いいや。
そんな事を考えながら歩いていると、正面玄関の扉が開いて、ジューンさんが出てきた。
エルフ特有の金色の髪は緩く波打っていてキラキラと輝き、髪の毛の隙間からは細く長い尖った耳が顔を出している。
今日は僕の代わりに都市国家の様子を見てもらう予定だったけど、向こうで何かあったんだろうか?
……いや、これは違うな。だってドライアドたちの視線が彼女のお腹に集中しているから。
「シズトちゃん、おかえりなさぁい。オクタビアちゃんはぁ?」
「パメラに連れ去られたよ。多分暇を持て余してたんじゃない?」
「そうなんですねぇ。後は二人に伝えていなかったからぁ、一緒に伝えようと思ってたんですけど後にしますねぇ。実はぁ、少し前にお腹の中に子を授かったみたいなんですぅ」
「おめでた!」
「めでたい!」
「れもーん!」
僕が何かを言う前にドライアドたちが喜びの声を上げ始めてタイミングを逃したけれど、とりあえず「体調は大丈夫?」と尋ねた。
「全然大丈夫ですよぉ。まだまだ先ですからぁ」
「まあそうなんだけどさ」
この世界の魔力を感じる事ができる人々は前世と比べるとだいぶ早く妊娠に気付く事ができるらしい。初期の初期にある自覚症状は『魔力を感じる』くらいなんだとか。
魔力を感じられない僕みたいな人は周りの反応で知る事もあるらしいけど、大なり小なり魔力を感じる事ができる人が殆どだから、そういう人たちの間に子どもができるとすぐには気づかない事もあるとかないとか……。
「そういうわけですからぁ、今日からは私もお世話係から外れる事になりましたぁ。念のために先に言っておこうかなぁ、と思いましてぇ」
「なるほど。じゃあ今日からはしばらくはのんびり過ごせる……わけないか」
「そうですねぇ。ホムラちゃんとユキちゃんが仕事を早く終わらせるって意気込んでましたよぉ。お仕事の方はぁ、出来る限りやるつもりですので安心してのんびりしててくださいねぇ」
「いや、僕ができる事は僕でするから休んでてよ」
「…………話し合いに参加とかぁ、方針の決定とかもありますけどぉ、大丈夫ですかぁ?」
「大丈夫、じゃないけど……」
「ではぁ、数カ月先の事に備えてぇ、時間がある時は一緒にお仕事をしましょうかぁ」
「よろしくお願いします……」
都市国家トネリコやユグドラシルではジューンさんが僕の代わりに『世界樹の使徒』としての仕事をこなしてくれていた。大体の事はその国のエルフたちが決めてくれるそうだけど、意見が割れたり重要な決定をしたりする時は話が回ってくる大事な仕事だ。
ジューンさんが妊娠したら少なくとも出産の前後数カ月は働けなくなる事も分かっていたはずだけど、何とかなるって楽観視しすぎていた。
パールさんからは姿勢は及第点を貰っているし、話し方は好きにすればいいって言われてるから同席するくらいは問題ないはずだ。たぶん。
「それではぁ、オクタビアちゃんと予定の調整をしてきますねぇ」
「僕も行くよ。多分あっちの方に飛んでいったから街にでも連れ出してるんじゃないかな」
「あり得そうですねぇ」
きっと陰から世界樹の番人たちが見守ってくれているから何かトラブルがジューンさんもお腹の子も大丈夫だとは思うけど、やっぱり心配なので手を繋いで街へと向かう。
その後ろをドライアドたちがわらわらとついて来ていたけど、ジューンさんの事に意識が向き過ぎていて、しばらく気づけなかった。
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